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【映画感想文】CLOSE / クロース

A24の『ミッドサマー』とか『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』とか『Pearl / パール』とかじゃない方(『ムーンライト』とか『mid90s ミッドナインティーズ』の方)の新たな傑作といった感じでしょうか。少年同士の恋愛とも友情ともなんとも言えない感情とそれによって起こる様々な事象と向き合う話『CLOSE / クロース』の感想です。

えー、幼い頃から兄弟の様に育ったレオとレミというふたりの少年がいて、その関係性は、ふたりとその家族にとって形容する必要もないくらい当たり前のことだったんですね。ふたりが13歳になり新しい学校へ行くようになると、その自然な関係に名前をつけようとする人達がいて、そのことを追求してくるんです。「ふたりは付き合ってるの?」と。もちろん、それを聞いてきた子たちもそのことを悪いことだと言ってるわけではなく、ただ聞いてみたかっただけなんです。聞いてみて、そうならそうでいいし違うなら違うでいいんです。恐らく、そうでもそうじゃなくてもその子たちのレオやレミに対する接し方は(既にうがった目で見ているという点で)変わらなかったでしょう。ただ、それを聞かれたレオの気持ちにはちょっとした変化があったんですね。そのちょっとした変化が行き着く先をなんとも丁寧に、繊細に、じっくりと見せられるというのがこの映画なんですが、アイデンティティが正にここから形成されていく瞬間というか、そういう時の心情の変化みたいなものを描いた映画としてとても良かったんですよね。

同じようなテーマを扱った最近の映画で『怪物』がありました。『怪物』はポッドキャストの方で取り上げてるんですが、その感想の中で僕は、少年たちが自分を同性愛者だと思わせる様に映画自体が仕組んでるように見えると言ったんです。この映画を観てよりその思いを深くしました。『CLOSE / クロース』では少年たちの関係をあのくらいの年の子たちの関係性として至極自然なこととして描いていて、それが崩れる時というのはとても小さな少年自体の心の変化(たとえ、それが社会の不寛容によってもたらされたのだとしても、少年自体はそれに気づかない。)だとしているんです。で、僕は、その心の変化が人それぞれのアイデンティティを作っていくということなのではないかと感じたんです(つまり、”この子が好き”ということが社会的にどういう意味を持つのかということに直面するということです。)。

(で、ここの描き方も良いなと思ったんですが)なので、映画の主題はそれが同性愛なのかどうかではなく、アイデンティティが形成される頃の子供たちの心の変化や不安定さ(暴力性ということも入って来るかもしれません。)ということになって、『スタンド・バイ・ミー』とか『台風クラブ』みたいな思春期手前の子供たちが葛藤しながらアイデンティティ(そして、自らの暴力性)に目覚めていくというめちゃくちゃ普遍的な話になってると思うんですよ。主人公のレオが直面する葛藤とか罪悪感に自分の幼少期の記憶を重ねてしまうのはそのせいだと思うんです(是枝監督が、会見で「『怪物』はマイノリティに特化した映画ではない。」と言ったのはこういう事を言ってるんだと思うんですけど、逆だと思うんですよね。『怪物』は、少年たちをマイノリティとして見るように映画が誘導しちゃってると思うんです。)。人はアイデンティティを形成する過程で誰もが何かの罪を犯すというか、それを背負うことで自分はどう生きるのかっていうことに初めて触れる(『スタンド・バイ・ミー』も『台風クラブ』も正しくそこを描いた映画でした。)んじゃないかと思うんです。レオがある罪を背負うことで自分はどう生きて行くのかっていうことに対峙する、その過程をほんとに丁寧に描いてるんですよね。何だかよく分からない感情が芽生えた瞬間と、それが一体どういう意味なのかっていうのを思考し続ける映画としては先日感想を書いた『aftersun/アフターサン』にも近いですが、記憶という"既にここにはないもの"を主軸にしている『aftersun/アフターサン』と比べるとこちらの方が痛々しいですね。

レオ役のエデン・ダンブリンくんの目がほんとに吸い込まれるくらいにキレイで、反対にその目が対峙している現実の重苦しさに耐えられなくなるんですけど、レオが逃げてないのに大人の自分が逃げるわけにはいかないよなって気持ちにさせられて、単なる思春期懐かし映画ではなく、今の社会を作ってる大人たちにも突き付けるようになってるのも良かったですね(劇中でレオは安易に泣かないんですけど、「え、ここで?」っていうところで溢れる様に泣き出すのもなんだか凄くリアルで良かったんですよね。)。


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