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【映画感想文】NOCEBO/ノセボ

ある若い夫婦が不動産屋に連れて行かれた建売住宅地から出られなくなるうえに、異常な成長の仕方をする赤ん坊まで育てなきゃならなくなるという、「どういう設定だよ!」的不条理ホラー『ビバリウム』を撮ったロルカン・フィネガン監督の新作『NOCEBO/ノセボ』の感想です。

2024年、前回感想書いた『サンクスギビング』に続いて2本連続でホラーです。上で書いたように『ビバリウム』は異常な設定で怖いというよりも不快で不可思議な感覚(オカルトとか都市伝説とかに近い感じで、そこが個人的には好きだったんですが。)の映画だったので、そういう新しい(というかオルタナティブな)感覚を少なからず期待して観に行ったんですが、『ビバリウム』に比べれば、まぁ、ある話(『ビバリウム』が飛びぬけて変な話だったというのはありますが。)だったんです。ただ、感覚的には新しいというか、今っぽい感覚の映画で。もの凄く雑に言うと『複製された男』×『女神の継承』みたいな。不条理と伝承系ホラーが一緒になってるような感覚の映画だったんです。

ある日、ファッションデザイナーのクリスティーンの家にやってきたフィリピン人ハウスキーパーのダイアナ。ダイアナは、クリスティーンの体調不良を呪術的な民間療法で治療するんです。自身の仕事上の問題で精神的にも不調だったクリスティーンは、ダイアナの治療で回復していき次第にダイアナのことを信頼していくようになるのですが…的な。この通りストーリーとしてはよくあるというか、ベーシックというか、ホラーとかサスペンスではよく使われる"家庭に異物が入り込む"系の話で。どう見たって、この謎のハウスキーパーのダイアナが怪しいわけです。ただですね、クリスティーン側にも何か問題がありそうだし、物語の途中からダイアナの過去(というか事情)が並列して描かれていって、なにが善でなにが悪か、物語がどこに着地するのか全然分からなくなっていくんです。だから、たぶん、観てるこっち側の価値観が逆転するような、そういう仕掛けの映画なんだと思うんですけど、(これは良くも悪くもなんですが、)そこまで揺さぶられないんですよね。そういう映画的仕掛けの上にずーっとフィネガン監督の持つ不条理感みたいなものが付き纏ってるようなそういう感覚なんです。

だから、そういうそこはかとない不条理な世界で常識っていうのがありまして、その常識の中でこういうことは間違えてますよねとか、こういうことされるとこう考えますよねみたいなことをされても、あまり、どうとも思わない…と言いますか。登場人物に思い入れたりみたいなことにならないんですけど。それが『ビバリウム』のときは、主人公夫婦に危害を加えてくるものの存在も理由も全く分からないうえに、善でも悪でもないなんだかよく分からないことを要求されるので、そういう不条理さがダイレクトだったんですね。そういう意味で今回は、誰によって何をされているのか分からないという一番の不条理部分を解明していく話になっているので、謎の人物がある日ふいに家庭に入り込んで来る不条理さ(これを僕は、前も『映画雑談』の深田晃司監督作『本気のしるし 劇場版』回で話てるんですけど、"藤子不二雄的不条理設定"と言っています。)を纏いながら、その不条理さを映画自ら解明してしまってるってことになっているんですよね(あ、そう考えるとこの設定で自ら仕掛けた不条理を全く解明しない映画が深田晃司監督の『淵に立つ』ですね。)。だから、『ビバリウム』で難解だなと感じたひとには今回の『NOCEBO/ノセボ』は良かったんじゃないかなと思うんですけど、『ビバリウム』良かった派のひとにとっては、ちょっと物足りないんじゃないのかなと思うんです。個人的には、物語の流れとは全く別のところから最大の悪が現れるってくらいでも良かったんじゃないかと思いました。この監督だったら(良くも悪くも明快なんです。普通のホラー監督だったら明快で悪いことはないんですけどね。)。

ただ、相変わらず映像はクールなのに不穏で不快なおぞましさ(犬のアレとかいま思い出してもゾワゾワしますね。)もあるし、ちゃんとオカルトでちゃんとホラーしてるので次作も期待して観ますよ。僕は。






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