小説【間法物語】5 ミライとミイラ
【間法物語】
日本語人が古来より持っている「魔法」がある。 それは「間法」。
「間」の中にあるチカラを扱えるようになった時、「未知なる世界」の扉が開かれ、「未知」は、いつしか「道」となって導かれていく。
「間法使いへの道」を歩き始める僕の物語。
【PROFILE】
イエオカズキ 「間」と「日本語」の世界を探求し続けるストーリーエディター。エッセンシャル出版社価値創造部員。
政治、経済、宗教、教育、文化、ありとあらゆる、すべての社会で、人間を殺さず活かさず、生きたミイラにしてしまう、恐ろしい作戦が進行している。
人間は、多かれ少なかれ、みな、組織というものに属している。会社という組織、家族という組織、学校という組織、団体という組織、チームという組織、例えば、ニッポン人であれば、みな、日本という国の組織に所属していることになるだろう。
人間は多かれ少なかれ、みな、未来というものを目指している。未来の夢、未来の生活、未来の人生、未来の国家、未来の地球、例えば、誰もが、みな、未来の自分に向かって、生きていることになるだろう。
そして、組織に属してしまった人間は、知らず知らずのうちに、未来をつかもうとして、気づくと、違うものを握らされてしまっている。未来をつかもうとしないものでも、もう既に、両手一杯に他のものが握らされている。
ミライをつかもうとして、ミイラをにぎらされてしまう。
ミライの自分を目指していたのに、気がつくと、いつの間にか、ミイラの自分になっている。これが、長い間続いてきた、世にも恐ろしい『魔城』というシステムが進めてきた作戦のパターンだ。
魔城のシステムは、あまりにも簡単すぎるために、相当なスピードで膨大し、今や大きくなりすぎて、一体どこから手をつけていいかさえわからない。このシステムは、人間のエネルギーを唯一の動力源にしており、ある意味、自動システムというようなもので、一度動き始めると、どんどん、自分勝手に作動し、さらなるパワーアップを成し遂げていくという、革命的な成長システムなのである。このシステムは、生命体であるため、メンテナンスなどは一切必要とされず、常に自己組織化していくため、あっという間に、全世界を包囲し、さらに複雑に日々成長を続けている。生命体でありながら、意志は持っていないため、予測できないカタチで増殖し続けている。
魔城は、普通の人には、通常、全く目に見えない。そのため、どこにあるのかわからず、壊すことも出来ず、何の手段も講じられず、ただただ、なすがままのうちに、人々はシステムの虜にされてしまう。すべての組織という組織に、知らず知らずのうちに、『魔城』のシステムは導入されているため、人が、組織に参加し、積極的に活動すればするほど、その人のパワーは、システムの動力エネルギーに使用され、魔城は、巨大化し続けるようになっている。
このシステムが、ニッポンに侵入してきたのは、今から、150年ほど前だ。その時と同時に、古くからあった『オン』は、新しく創られた『音』にスイッチされた。
ムスビは、複雑に破壊され、関係と組織と社会と家族と環境に分類された。マツリは、様々に分解され、政治と宗教と経済と芸術と文化に区分された。イノチは、詳細に定義され、自由と平等と権利と義務と責任と信頼に分化された。
ハタラキは、精密に切断され、仕事・労働・業務・規則・資格・伝統という分野になった。
「人類」は消えて、「分類」になってしまった。
「世界」も消えて、「分解」になってしまった。
未知なるものを探した豊穣な可能性の「広野」は、
「分野」になってしまった。
人が心のよりどころにしていた場所は、
「神社」から、「会社」に変わってしまった。
みんなが大切に楽しんでいた宝物は、
「生産」と「出産」から、「財産」と「資産」に移ってしまった。
「日本人」が主に住んでいた国は、
「個人」と「法人」に代わってしまった。
150年前に始まった文明開化と呼ばれたこの『ライフスタイル革命』は、違う次元では、『生命』を活かさず殺さず、『ミイラ』にしてしまう、『生命革命』と呼ばれている。つまり、生命を『固体化』することで、『交替化』『後退化』させてしまう革命だ。
誰も知らない間に、世界の構造はスイッチし、
いつの間にか、魔城のシステムが主導権を握り、
人間は手先足先のロボットにされてしまっていた。
「そもそも、皆さん、未来は、どこにあると思っていますか?」
ある日、サトルが、テレビのスイッチをオンにすると、モニターには、不思議な番組が映し出されていた。
気まぐれにスイッチをオンにすると、そこには、いつも、決まって、メッセージがある・・・常日頃から、そんな経験に慣れているサトルは、ピピッと来たので、メッセージを受け取る準備態勢をすぐさま整えた。
「未来に向かってススメ。そんな時、人は、ついつい、前を見て、進んでいってしまうものです。」
テレビの中で、熱心に語っていたのは、まだ若い研究者のようだった。
白い実験着のようなスーツを身にまとい、よくみて見ると、顔にも、おしろいのようなものをつけていて、どこか、ピエロのようでもあった。
ピエロが、かなり真顔で、熱心に、何かを伝えようとしている・・・そのビジュアルの不自然さが、自然な面白さを、テレビから醸し出していた。
「お笑い番組なのかな?」と、サトルは思ったのだが、
そのピエロのコトバには、チャンネルを切り替えられない、一種の妙なオーラがあった。
「でも、皆さん、未来は、誰にもわからないから、未来だと思いませんか?だって、未来というのは、いまだ来ていないわけですから、未来と書くんです。目に見えるということは、もう、それは、既に起こってしまった、過去っていうことじゃないでしょうか?だから、目の前に見えるこの世界は、常に過去の世界ということになるはずなんです。前にススムという行為は、未来にススンでいるのじゃなくて、過去にススンでいるということですよ。とすれば、一体、未来はどこにあるのでしょうか?」
ピエロは、抑揚のあるトーンで、少しもったいぶりながら、話を続ける。
「未来は、皆さんの後ろにあるんです。皆さんが立ち止まっていると、未来は後ろの方からそーっとやって来て、時間という風の流れに乗って、少しずつ、皆さんを追い越していきます。追い越されていくと、全く見えなかったカタチが、少しずつ、ぼやけながら分かり始めてきます。ハッキリと輪郭が見えたときには、未来は、すでに過去という名前に変身しています。
あなたの後ろにある目に見えない未来の世界は、あなたの前を通り過ぎる目に見える過去のメッセージへと姿を変え、あなたに返信されるのです。両目の脇の後ろの方にボンヤリ見えるもの、それが未来です。」
未来は後ろにある。未来と過去はひとつの道でつながっていて、目にした瞬間、未来は過去へスイッチする。
サトルの探している『間法』も、おそらく、時間と空間のスイッチのような方法のはずだ。
「だから、未来は、手を後ろに回して、そっと感じるものです。手触りで確かめ、イメージしていくものなんです。」
ピエロの決め台詞が終わると、味気ないCMが流れ出したので、サトルは、テレビを消した。
みな、それぞれのミライという「詩」を探すという「志」を胸に秘めて生まれるが、いつしか、その「シ」は「史」となって積み重なっていき、「私」と勘違いがすぎれば、やがては、「死」へと向かっていく。
サトルも、ずっと、ミイラだった。
システムによって、生命を活かさず殺さず、ミイラにされてしまっていた。ミライを手にしようと生まれてきたのに、あがけばあがくほど、ミイラのように、システムの見えない紐でグルグル巻きにされてしまっていた。
バランスジェネレーターになれば、そのシステムの紐を解くことが出来るはずだ。バランスジェネレーターなら、システムの『魔城』に入り込み、誰にも気づかれず、何も壊さず、どこにも被害を与えず、知らず知らずの『間』に、システムの内部システムをスイッチさせてしまうことも可能かもしれない。
サトルは、その『使命』を受けた、バランスジェネレーターになるのだ。
『使命』とは、『氏名』をもらい、『指名』を受けたものだけが、手にすることの出来るものだ。
一体、誰が指名をしてくれるのか、サトルは、その時を待っているしかなかった。
サトルは、長い間、指名される時を、ずっとずっと、待ち続けていた。
(つづく)
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