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応募作公開【ないしょのはなし】

おふとんの中で、アーリーは、とっても「いいこと」を 思いつきました。

アーリーは、春に 生まれたばかりの アリのぼうやです。

 

「きっと、みんな おどろくぞ」

 

アーリーは、きょうだいが、ねているうちに、おき出しました。

お日さまのサンに せかいで いちばん早く 「いいこと」を 教えたかったから。

 

土のおうちから 顔をだすと、うすぐらくて、お空は 雲でいっぱい。お日さまの サンのすがたは、どこにも ありません。

アーリーは、小さな声で ささやきました。

「サン、サン」

すると、雲の間から サンが、ちらっと 顔を 見せました。

「もう少し ねかせてよ」

サンは、ふわふわの 雲のおふとんに またもぐって しまいました。

「とっても いいお話が あるんだ。サンが もっと 人気ものに なれるアイデアなんだけどな」

サンは、少しだけ 雲から 顔を出しました。

金色の光が、すーっと さしこんで、スポットライトみたいに アーリーを てらします。

ヒソヒソ

アーリーは、小さな声で、サンに  とってもいいことを お話しました。

「なんだって!すごく楽しそう!」

お日さまのサンが 雲から出てくると、あたりは きゅうに 明るくなりました。

「だれにも 言わないで」

「もちろん。ないしょで やって おどろかせよう」

サンは、お空を どんどん 高く のぼって いきました。

アーリーは、落ちている かれ枝を たどって、じゅうたんみたいな タンポポの 花の上を 歩いて、アブラ虫の ラムを たずねました。

ラムは、葉っぱの うらで なかまたちと みつを すっていました。

「ラム!ラム!」

「なに? わたし今 いそがしいのよ」

「ないしょのお話が あるんだ。ラムだけに話すんだよ」

「なになに?」

アーリーは、ラムに 顔を近づけて、とってもいいことを お話しました。

ヒソヒソヒソ

ラムは、「まあ!」と さけびました。

アーリーは あわてて ラムのおちょぼ口を おさえました。

「大きな声 出さないで」

ラムは、小さな声で 言いました。

「サンは 手つだってくれるって?」

アーリーも ひそひそ声。

「うん。はりきってたよ」

「本当に できるなら、すてきね」

ラムは、小さな手を こすりあわせて、目を つむりました。

「だれにも 言わないで。ないしょで やって おどろかせるから」

「もちろんよ」

アーリーが 行ってしまうと、ラムは つぶやきました。

「サンと アーリーだけなんて ずるいなあ。わたしも なにかやりたいわ」

 

「そうだ!いいこと 思いついた!」

 

すると、アブラ虫の ラムのところへ ぷうんと テントウ虫のサンバが 飛んで来ました。

「おはよう、ラム。今日も おいしそうだね」

「サンバ、おはよう。今日も 食べないでね」

「おいら ともだちは 食べないんだ」

「それより、とってもいいお話が、あるの」

「なになに」

ラムは、サンバのしょっかくに 口をつぼめて あてました。

「あのね…」

ヒソヒソヒソヒソ

「なんだって!」

サンバは おどいて ひっくり返ると 足を ばたばたしました。

ラムは サンバが 起き上がるのを手伝いながら こそこそ声で 言いました。

「ちょっと!しずかにしてよ」

サンバも こそこそ声。

「サンは いやがってない?いつだってお空で いちばん 目立っていたいのに?」

「だいじょうぶよ。ちゃんと 出番があるもの」

「みんな おどろくだろうなあ」

サンバは うっとりと 目を つむりながら、ぶうんと はねを ならしました。

「だれにも 言っちゃだめよ」

「だいじょうぶ。ぼくをしんじてよ」

 

アブラ虫のラムと 別れて テントウ虫のサンバは、なの花畑の上を 飛びながら、とっても、いいことを 思いつきました。

 

「アーリーと サンと ラムだけなんてもったいない。みんなで 楽しまなくちゃ」

 

そこに、ひらひらと 黒いちょうちょが 飛んで来て、「おさきに しつれいしますわ」と、追いこして いきました。

「アゲハ!ちょっと まって」

「なにかしら?」

「ゆかいな話を 聞きたくないかい?アゲハの 出番も あるんだけどな」

アゲハは すぐに 近くに よってきました。

「あのね…」

ヒソヒソヒソヒソヒソ

「すてき!」

大きな声で さけぶと アゲハは あっちこっちに 飛びまわりました。

「しーっおとなしくしてよ」

サンバは あわてて アゲハの はねを つかまえました。

「ムーンは 手伝ってくれるの?」

「きっと はり切るさ」

サンバは「ぜったい 言わないでね」というと、帰っていきました。

 

サンバの 黒い星がついた 赤いせなかが 見えなくなる前に、ちょうちょのアゲハは、ツバメのクルリに ないしょ話を しました。

 

クルリは、ぞうのズーに、ズーは、きりんのリンに、リンは、りすのスッチに、スッチは、アヒルのガアコに、それからそれから……。

 

さいごに、コウモリのホルンが、お月さまのムーンに、ないしょ話を しました。

ヒソヒソヒソヒソヒソヒソヒソヒソヒソヒソヒソヒソヒソヒソ……。

 

ムーンは、バターを たっぷりぬった ホットケーキみたいに ピカピカ光って 言いました。

「まかせてくれ。ま夏の お日さまより 明るくするさ」

それから、穴ぼこだらけの ほっぺをきゅっと あげて ニッと わらった。

「アーリーには ないしょにしよう。きっと おどろくぞ」

 

お月さまのムーンから ないしょ話を聞いた こうもりのホルンは、きつねのキリコに、キリコは、ねずみのチュッチュに、チュッチュは、たぬきのポッポコに、それからそれから……。

 

とっても、とっても、とくべつな夜が、やってきました。

 

アリのアーリーは、おうちで ねむっていましたが、大きな声で びっくりして 目を さましました。

「アーリー!いっしょに あーそびーましょー!」

おうちの そとに 出ると、アブラ虫のラムとテントウ虫のサンバが、まっていました。お空には、夜色のカーテンが ピタリと しまって、お月さまのムーンも お星さまも 見えなくて まっくら。

「なにをして あそぶの?」

「とっても いいこと!」

ラムは 小さな手で アーリーを 目かくししました。アーリーは、サンバに 手をひかれて 歩き出しました。

「どこへ行くの?」

「とっても いいところ!」

なにかをのぼったり、おりたり、とびこえたりしながら、さんびきは すすみます。

サンバが、ぴたりと とまりました。

「せえの」

ラムが、ぱっと手を取ると、アーリーは わあーっと 声をあげました。

 

アーリーは、公園が いくつも入るほど 大きな テントの中に いました。天上が かすむほど高くて、てっぺんに お月さまのムーンが ミラーボールみたいに かがやいて、かべには、お星さまが ちりばめられています。

 

テントの真ん中には、大きなステージがあって まわりに たくさんのイスが ならんでいます。いちばん 後ろの大きなイスに すわっているのは、きりんのリン。前にいくほど 小さなイスがおいてあります。

 

イスのわきには、いちりんずつ、ユリでつくった ぼうえんきょうが おいてありました。

アーリーは、細いほうを 目にあてて ぞうのズーを 見てみました。

さっきまで ズーの 足のつめしか見えなかったのに、大きな体が ぜんぶ 見えます。

こんどは、広がっているほうから アブラ虫のラムを 見てみました。

すると、ラムが ぞうと同じくらい大きく 見えました。ラムの顔に はえている 細かい毛も はっきり 見えます。

「朝つゆで 作ったレンズが 入っているの。大きいものは 小さく、小さいものは 大きく見えるのよ」

 

アブラ虫のラムは、いちばん前の ごまくらいの 大きさのイスに すわりました。テントウ虫のサンバのイスは、 あずきくらい。アリのアーリーは、ふたりの間にある ごはんつぶくらいの イスにすわりました。

 

「レッディィイイイイイス(すてきなおじょうさん)!エーーーーンド ジェントルメーーーーン(すてきなぼっちゃん)!」

こうもりのホルンが、かんだかい声でさけぶと、うめつくす 虫という虫、鳥という鳥、どうぶつという どうぶつが、いっしょに、「レッツゴー(さあ、行こう)!ムーンライト(月あかりの)・サーカス!」と 声をそろえました。

 

トップバッターは、ラムひきいる アブラムシたちの つなわたりです。

花のみつを たっぷりぬった ロープの上を つなわたり。じっくり味わうから なかなか進みません。

 

わたり切るころには、サッカーボールみたいに まん丸になって おっとっと、おっとっと。

 

「わあ、おっこちてきたぞ!」

 

おきゃくさんたちは 大よろこびで、ぽよぽよの おなかを さわろうとして大さわぎ。あっちこっちで みどり色の アブラムシ・ボールが ポーンポーンと イスの上を ころがっていきます。

 

ちょうちょのアゲハは かた思い中の トンボのヤンマと 空中ブランコに チャレンジ。

  

黒いドレスの アゲハと 黒いタキシードを着た ヤンマを見て、みんなは「おにあいだね」と となりの せきの人に 言いました。

 

アゲハの のったブランコが、テントの てっぺんに とどくほど 高く上がります。アゲハは、すっと はねを たたんで目をつむり、ヤンマの むねに まっさかさま。

 

しっかり だきとめたヤンマに やんややんやの 大かっさい。

 

くるくると ダンスを おどりながら、カーテンの かげに きえていく ふたり。あたたかな はくしゅがおきて、こうもりのホルンが、ピーウと 口ぶえを ふきました。

 

一日目は 虫たちが、二日目は鳥たちが、三日目は どうぶつたちが、じまんの きょくげいを ひろうしました。

 

三日目の 夜がふけるころ、テントウ虫のサンバが シンバルを ジャアアンと 鳴らしました。

 

「みなさん、さいごは、見たことも 聞いたこともない 手品ですよ!」

 

おきゃくさんたちは、テントが ゆれるくらい おもいきり はくしゅを しました。

はずかしそうに ステージに 上がったのは、アリのアーリー。

 

アーリーは、右手を ぱっと 開きました。

 

「よーく 見てください」

 

みんな ユリの ぼうえんきょうで よーく 見ました。

 

「なにも もっていないでしょう?今から 右手に まほうをかけます」

 

アーリーは、夜色の カーテンの きれはしで つくった布を 右手にかけて、ゆらしました。

 

「何がおこるの?」と いちばん うしろで 首を のばす きりんのリン。

 

 

「ぽんぬ ぽんぬ がらがら とっぴんしゃん」

 

ぱっと ぬのを 取ると、にじ色のステッキが あらわれました。

 

わああああああああああ

 

はくしゅで テントが ゆれました。

 

「いいぞいいぞ」と ぞうのズーが、長い はなを ふり回します。

 

手びょうしに 合わせて、アーリーは、おどりだしました。

 

ステッキを回すと 丸い形の にじが あらわれて ステージから ころがりだしました。

 

みんな にじを つかまえたくて、テントの中は うんどう会みたい。

たぬきのポコンヌ夫人は、つかまえたにじを ネックレスみたいに 首にかけて おめかし。ワニのブレスは、うで時計みたいに 手首にはめて とくい顔。

 

「にじは キャンディで できてるぞ!」

 

だれかが、言うと みんな にじをぺろぺろ。赤いところは、いちご味で、みどりは、メロン味、青は、ブルーハワイの味でした。

「したが、にじ色に なっちゃった」

 

みんな となりどうし、したを 見せっこして 大わらい。

 

アーリーが ステッキで トントントンと ステージの ゆかを たたくと、みんな シーンと しずかになりました。

 

アーリーは、ニコッと わらうと、ステッキを おもいきり、天上へ ほうりなげました。

 

ステッキは にじ色の けむりを だしながら とんでいき、テントを やぶって 夜空に つきささりました。

すると、まっ黒なカーテンが スルスルスルーっと 開いていきます。

 

顔を出したのは、ほっぺを ふくらませた お日さまのサン。

 

「もう! まちくたびれたよ。さあさあ、サーカスは おしまい」

 

朝日をあびながら、みんな だいまんぞくで おうちへ 帰ります。

 

「すばらしかったわ」と、アブラ虫のラム。

「うん。でも、ないしょって 言ったのにな」と、アーリー。

「わたしも」

「ぼくもさ」

 

みんな いっしょに、大きな声で わらいました。

 おしまい


***
昨日郵送した出来立てほやほやを公開。
以前、noteに公開した下の作品を、賞のために、改良しました。

原作は、ほとんど思いつくままに書いたもの。
読み比べると、たたき上げるために、何をどうしたのかわかるかも!?

 

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