焚き火を一緒に見ませんか
こんばんは。
話しかけて大丈夫でしたか。
なら良かった。
人に会うのは久しぶりなんです。
もしよかったら焚き火を見ていきませんか。
わたしは、ただの火の番です。
もうすぐ消えるんですけどね。
パチバチめらめら燃えるより、じいっとした熾火の方が私は好きなんです。
なにもかも昔のことになっても、芯だけは燃えている。
大切なものだけ抱えている。
秋に来たらよかったのに。
虫たちがリンリンシャンシャン賑やかで楽しかったですよ。
でも、冬の夜もいいです。
いつも聞こえない音が聞こえるから。
ふう。こんなふうに話してると、途中で、くだらないなと思って最後まで続けるのがシンドイことがあるんです。
あなたもですか。
そうそう。とうの昔に誰かが言ったことだろうってね。
なにも話さないほうがいいですね。
…
ごめんなさい。
森の中でしゃべらないと、自分がいなくなる感じがしてね。だまっていられないんです。
え? 話すのがくだらない理由ですか。
つまりね。
話したり書いたり言葉にするってことは、世界を切り取ることだと思うんです。
人は、世界を丸ごと見るのは難しいらしい。
切り取ってきたものに名前をつけて、それをまた切ったり貼ったりする。
だから、そもそも言葉は、嘘混じりなんです。嘘というか誤解かもしれない。
物語ることは、世界をつくり変えることです。
願い通りに。
取り残された方はどうなるのかって?
ある山の奥深くに捨てられているそうです。
月のない晩に耳をすますとうめき声がするんだって。
「俺たちはずっとここにいる」ってね。
さて、薪を拾いに行かないと。
火の番をかわってくれませんか。
大丈夫ですよ。
やつらは、火を怖がるから。
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