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橙色【ショートショート】

りんりんりんりん
タタタタ、タ、ッタン
優子さんは、ひとり、ノートパソコンをたたいている。

昭和に建てられた家は、優子さんと同い年。小さなダイニングには、庭に面して掃き出しの窓がある。カーテンの隙間から街灯が見える。庭は闇に沈んでいる。

「りんりんりんりん」とノートパソコンに打つ。
「優子さんは、ひとり、ノートパソコンをたたいている」と打つ。

マホガニーのどっしりとした円卓は揺るがない。円卓の上には夕食後の急須やお茶碗が出しっぱなし。ノートパソコンに身を寄せるように、縞猫のさつきが寝ている。優子さんは、湯飲みを押しやってノートパソコンをずらす。丸まったさつきは、エスカルゴに似ている。呼吸に合わせて隆起するさつきの腹をなでる。毛の流れに逆らってみる。そしてまた元通りにする。

ガタっ
円卓の下で、黒白猫のカンナと黒白子猫のつよしがもみ合う。くんずほぐれつ牛模様のドーナツクッションみたいになる。

ドーナツが割れて、カンナが飛びだす。花模様のピンクのカーテンがゆらり。つよしは体を低くしてもぞもぞっとお尻を動かす。カーテンのふくらみに突撃するとカンナが飛びだした。カンナはつよしにタックルする。つよしはふわっと垂直にジャンプする。着地したところをカンナに突き飛ばされ、障子の隙間に転がり込む。

いつの間にかさつきは、優子さんの膝の上にいる。さつきと優子さんは、寝室に逃げ込んだつよしを目で追いかける。

りんりんと虫の音。
シュゴーっとエアコンの音。
カラカラカラと換気扇の音。

寝室から、浩さんのぐうっぐうっと規則正しい寝息が聞こえる。さつきはピッチャーのように足を高くあげてお尻をなめる。

10センチ開いた障子の隙間からつよしが顔を出す。背を向けているカンナは気づかない。つよしがカンナの背中に飛び掛かった。

にゃあむう

一声、カンナがうなるように鳴いた。

虫の音。寝息。エアコンの音。

優子さんは頬杖をつく。
最後の一匹がリーと鳴き、庭は静かになった。

ぐーうぐーう

寝息の音が深くなる。
猫たちは一匹残らずダイニングから消えていた。

「虫がリーと鳴いた。」とパソコンに打つ。

優子さんは、天井を見て目をつむり、シーリングライトの光をまぶたに感じていた。


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