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06.第2の扉 パラレルワールド(並行世界)

強みという、卓越した接客者だけが持ち合わせているものに注目した後、私が次に見出したのは卓越した接客者に共通する世界観と、素晴らしい接客者に共通する世界観の違いだった。

同じ「人に接する仕事」をしながら、見えているもの、感じていること、考えていること、大切にしていることが明らかに異なるものを探し出そうとした。
するとそこには、卓越した接客者が住む世界と、素晴らしい接客者が住む世界の2つの世界が現れた。
それはパラレルワールドを思い起こさせた。

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パラレルワールドという考え方は量子理論から生まれ、現在も科学者が真剣に解明している科学である。
量子の難しい理論はさておき、このパラレルワールドという考え方では、「宇宙には枝分かれした別の世界が同時に存在する」と説明している。

たとえば、あなたが誰かに向かってボールを投げる。
相手はボールを受けるかもしれないし、落としてしまうかもしれない。
この瞬間に世界は2つに分裂し、ボールを受けた世界と、ボールを落とした世界が生まれる。
ということはつまり、考えられないほど無限に世界は存在するということになる。

ただし(余談になるが)ボールを受けても、落としても、その後また同じ結果になることが判明していれば、分かれた世界は再びつながるということが実験で明らかにされているらしい。

接客でも、卓越した接客者が見る世界で接客を行うことと、素晴らしい接客者が見える世界で接客を行うことの間には、全く違う世界がある。
しかし、接客を行った結果が同じであれば、最終的には同じものを提供したことになる。
ただ、パラレルワールドで枝分かれした世界がいつも同じ結果になるとは限らないように、接客も卓越した接客と素晴らしい接客の結果は必ずしも同じにはならない。
むしろ違った結果になることの方が多いだろう。

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ベストセラー漫画「鋼の錬金術師」は、アニメ版と映画でパラレルワールドを設定している。
片方の世界は、錬金術によって発達した世界。
もう片方の世界は現在われわれが生活をする科学技術によって発達した世界である。
物語と主人公の住む世界は、錬金術によって発達した世界である。
このストーリーの設定では錬金術は金を作る技術のことではなく、物質の法則を理解、分解、再構築する技術のことを指す。
金の練成を可能にするかのように、他の様々な物質を錬成することを可能にする。
この技術によって、壊れたものを元通りに直したり、別のものに作り変えたりすることができる。
個人の技術である錬金術で発展した社会と、並行世界であり、現在私たちが過ごす科学技術によって発展した社会では、おのずとそこに住む人の考え方や、物の見方は違ったものになるだろう。

素晴らしい接客者が見て、聞き、感じ、接客を行っている世界は、科学技術で発展した現代を見るようなもので非常にわかりやすい。
顧客満足や、笑顔や、相手を思いやる気持ちを持った接客者などが目に浮かぶ。

逆に、卓越した接客者が過ごしている世界は、錬金術を操ることで文明が成り立っている世界であり、非常に理解しがたい。

卓越した接客者と素晴らしい接客者が全く別の世界の住人であることがわかったとき、私はこの差というか、違いを埋めることはできるのだろうかと考えを巡らせた。

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何しろ「卓越」「素晴らしい」は、エスキモーと砂漠の民ほどかけ離れている。
見ているものも、感じていることも、考えていることも、生き方さえ違う。
このような違いに対して私はまず、それぞれの世界観を明らかにした。
そして、何が違いをもたらしているのか、「根本的に両者を分け隔てる違い」は何かを探ることに集中した。

その過程で見つけた、いくつかの行動の違いや、方法の違いはよく検討した上で省くことにした。
なぜなら行動や方法の違いは、それを湧き出させるもっと深い泉に原因があるため、湧き出る泉は一体どこにあるのかだけを探すように努めた。
本質的な違いに集中した。

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そして、具体的にその源泉を3つの形としてまとめることができた。
この3つの世界観は、そっくりそのまま、卓越する接客者が過ごす世界の世界観であり、素晴らしい接客者との決定的な違いになった。
後ほど詳しく見ることになる3つの世界観と、それを生かす自己マネジメントの概念を紹介しておきたいと思う。

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卓越した接客者は、接客や仕事を行うに当たって、またはそれ以前の人間性として「真摯さ」を身につけている。
真摯さとは一般的に「まじめでひたむきなこと」と意味されている。
しかし、それだけでは単なる個人の気持ちということになる。
卓越した接客者は、真摯さを

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とし、

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とし、

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として自分が果たすべき役割に挑む。
これに対して素晴らしい接客者は、「プロ意識」「責任」によって役割を果たす。


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個別化とは、各それぞれのお客1人1人に対して、それぞれの状態、事情、ニーズ、欲求などがあるという前提で、それらを理解し対応することである。
人は誰一人として同じ目的でサービスを利用するのではなく、与えるべきものはそれぞれの人にとって「必ず全て違う」という考え方で接客を行う。

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これは一見当たり前のことを言っているように聞こえるが、実際には、素晴らしい接客者は個別化ではなく、類型化して接客に当たる。
人をタイプ分けて自分の技術を当てはめることで接客を行う。

たとえば男女差の傾向、年齢の傾向、顔の表情の傾向から、レベルの高い接客者になると相手の職業や地位、使う言葉や話す内容から傾向を読み取り、タイプに合わせて接客を行う。
個人に合わせるのではなく、タイプに合わせる。
二流以下の接客者は、過去の接客経験で失敗しなかったものを目の前のお客に当てはめて実践する。


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実際には卓越した接客者も、素晴らしい接客者も成果を出すことは重要視する。
卓越した接客者が成果に対して完璧を求め、完璧を追及することによって顧客満足を得るのに対して、素晴らしい接客者はプロセス上のコミュニケーションやホスピタリティにより注目することで顧客満足を高める。
ということは、素晴らしい接客者は「コミュニケーションから得たお客のニーズを満たす」ことで成果をあげる。

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卓越した接客者は、コミュニケーションやホスピタリティによる顧客満足には集中しない。

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によって顧客が必ず満足することに対して力を入れる。
コミュニケーションやホスピタリティは、「圧倒的な成果」に役立つ時にだけ利用される。
ということは、卓越した接客者は

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ことで成果をあげる。
本質的なニーズを知るために必要なことは、真実を見抜く力である。
だからこそ卓越した接客者は、コミュニケーションではなく成果の追及に力を注ぐ。

「ニーズ」を満たし、「顧客満足を得る」ことは同じであっても、それぞれの世界観はかなり違う。

「コミュニケーションから得たお客のニーズを満たす」「自らの眼目で判断したお客の本質的なニーズを満たす」は似ているようで全く違う。
それはコインの裏と表ではなく、全く別のコインである。

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「コミュニケーションから得たお客のニーズを満たす」というのは、ニーズはお客の言っていること、望んでいることにあり、それに全力で応えようとする。
お客の自覚や知識レベルでニーズが決まる。

一方で「自らの眼目で判断したお客の本質的なニーズを満たす」というのは、接客者がお客の中に眠る最高の状態をニーズとして捉える。
つまり、基本的にお客が何を望んでいるのかを知ろうとする必要はなく、知るために必要がある場合にだけコミュニケーションを使う。
したがって、卓越した接客者の中にはコミュニケーションに疎い人がいることもある。

この3つが、卓越した接客者の住むパラレルワールドの、最も基本的な土台になっている。

真摯であっても個別化することができなければ気持ちや姿勢だけで終わってしまう。
個別化することができても完璧な成果を出せなければ、技術も行動も無駄に終わってしまう。
高い成果を出すことができても、真摯さを持ってお客に提供しなければ、接客者として信頼されなくなってしまう。
真摯さ、個別化、成果の追求は、

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にある。

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卓越した接客者は、真摯さ・個別化・成果の追及の、3つの世界を見ている。
素晴らしい接客者がプロ意識と責任・類型化・プロセスの追及を行う世界とは全く違う世界観を持っている。
卓越した接客者はその世界観の中で、どのように生きているのか。

素晴らしい接客者は自分が存在する世界観の中で、自己啓発し、スキルを高め、経験を積むことでさらに素晴らしくなろうとする。

これに対して卓越した接客者は、真摯さ・個別化・成果の追及を自己マネジメントすることでさらに卓越しようとする。

自己マネジメントは、自己啓発とは違う。
自己啓発が目標を達成することで成功を手に入れるのに対して、自己マネジメントは強みを軸として自分の卓越性と世界観を高める。
その具体的な方法は接客者によって大きく異なるが、基本的な考え方は共通している。

卓越する接客者はまず、

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ことで革新し続ける。
新しく学んだ技術、得た知識は、学んだ瞬間に古くなるので、新しい自分を毎日作る。
でなければ、あるべき自分自身に取り残されることになる。

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次に、自分が行うべきことの

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本質追求は各接客者でオリジナルの方法を持つが、考え方は2つに絞られる。
そしてこの2つの両方を持っている。
ひとつは「行って見る」ということであり、もうひとつは「氷山の下を調べる」という方法である。
この2つの本質追求は、結果として卓越する接客者に継続学習をさせることになる。
したがって、卓越する接客者は本質を追及するために継続学習する。

最後に彼らは一様に、強みに対する

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オステオパシーで治療する先生は体に触れることで何が現在の状態をもたらしているのかを知る。
幼児教育の先生は半分感情の混じったお母さんの話を聞くだけで問題の本質を見極める。
美容師はお客の顔を3秒じっくりと眺めることでベストマッチする髪型のイメージが脳裏に浮かぶ。
スチュワーデスは顔色、姿勢、目線などを見るだけで何を望んでいるかを判断できる。
彼らは一様に感性を使うことに長けている。
そして感性は高められる。

これらの世界観と概念は後ほど詳しく見ていくことにする。



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