中学生の憂鬱【後編】

前回のお話はこちら

荒れる生徒と怯える生徒

中学校生活で、楽しかったと思える時間は、極めて少なかったように感じます。

3年生目前の時期から…じわりじわりとクラスの中が荒れ始めていくのでした。

私はある日の休み時間中、クラスの子と笑いあいながらおしゃべりをしていました。

すると、私はクラスの男子生徒ひとりに「ちょっと来てくれん?」と呼ばれました。教室を出てみると「こっち!」と下足場で手招きしているのです。

『…何ごと?』と私は意味が分からないまま、手招きされた場所に足を運びました。すると、そこには2人の男子生徒が待っていました。

さっきの呼び出した生徒は見張り役…
そして、待ち構えていた2人の生徒は、私が逃げないように囲み、こう言いました。

「お前は笑い声がうるせえ!ムカつくって!」

『えっ…』と私は言葉がそれ以上出せず、助けを求める声も出ず、ただただ立ちすくんでいました。

すると、私の背中を拳で殴ったり、お腹やお尻を足蹴りしたり…。抵抗など出来ず、私はされるがままでした。

周りから見える箇所(顔や腕、足など)は完全に外し、いかに見えにくい箇所を狙うか…その行動に恐怖すら感じました。

「オラ!ふざけんな!」
「あははは…」

見張り役の生徒は、誰かの靴箱から靴を取り出し、床に力いっぱい叩きつけ、その場を煽っているようでした。…笑いながら。

『もうどうにでもなれ…』と、とにかくこの場がおさまるのを、私はひたすら我慢していました。

そのうち、3人は気が済んだのか、その場から去っていきました。

下足場から少し教室が見えるところまで向かうと、クラスメイトがこちらにゆっくり近寄ってきて「大丈夫?何かあったんやろ?」と聞かれました。

しかし、私は何も言わずうつむき「ちょっと保健室に行ってくる」とだけ伝えて、その場を逃げるように後にしました。

しばらくして、担任の先生が慌てた表情で保健室に入ってきたのですが、何も言いたくありませんでした。

「誰に?何をされた?」言えるわけないやん…。また酷い目にあいたくなかったから…。

数分後、見張り役の生徒だけが保健室に謝りにきました。彼は彼で2人に「余計なことを言うなよ」と釘を刺され責任を被せられた人なのだと感じました。

しかし、私はまともに顔を見れず、怯えてしまいました。
「いや…ごめん、私が静かにおればいいだけなんやろうけん。」
この時期を境に、私は笑わなくなりました。

そして『笑うと嫌な目に合う』という、何ともひねくれた考え方が、私の中に出来上がってしまったのです。

これ以上、荒れている人と関わりたくない…

学校に行くたびにいつも周りの目を気にして、『怯えながら時間が過ぎるのを待つ』という日々が始まりました。

学年崩壊

中学3年生…高校受験の勉強のことも考えなくてはいけなかったのですが、この年はほとんど授業がまともに行われた気がしません。

…というのも、既にクラスは壊れていたのです。

ヤンキーと言われるような荒れた生徒が、クラスの中のおとなしい感じの男子生徒をパシリとして扱い、何でもいうことを聞かせている状態になっていました。

そんなある日、授業中にそのおとなしい男子生徒のちょっとした行動が「気に食わねぇ」と言い出し、執拗に顔や身体を殴り出したのです。

殴られ口の中は切れて、鼻血も出て、教室はその流血のあとが散らばっていくのでした。
その度にいつも女子生徒の「きゃー!!!!」という声が響いていました。

他の生徒も誰も止めることが出来ない…止めようとしたら、次は自分が殴られるターゲットになるから…その場が終わるのをひたすら静かに待つしかなかったのです。狂ってますよね…間違いなく狂っています。

もう、この頃は先生たちも疲弊していました。これが毎日のように繰り返し起こり、誰も落ち着かせる事が出来なくなっていて、完全に学級崩壊となっていました。

荒れた生徒たちは他のクラスにもいて、結局は学年全体が荒れ果ててしまいました。

窓ガラスは叩き割り…
校舎内は自転車を乗り回し…
壁にはスプレーで落書き…
気に入らない事あると殴り続ける…
校庭では爆音を鳴らしてバイクに乗り…

これが日常茶飯事でした。

私は、ただただ存在感を薄く…消えるほど薄く…それが精一杯でした。

公立高校入試当日

私は家の借金返済で大変なのも知っていたので、塾には通わず、何とか自力で勉強するしかありませんでした。

しかし、この1年はまともに勉強できる状態ではなかったので、家で黙々と受験勉強…正直しんどかったです。あとは、当日やるしかない!その気持ちで入試の日の朝をむかえるのでした。

…入試当日。

何気なく情報誌に目がいき、私は深いため息とともに愕然としました。

自分が通っている中学の校舎の壁に、スプレーでたくさんの落書きがしてある写真が載っていたのです

『よりによって、何で今日なんよ…』

同じ高校を受験するクラスメイトと一緒に行くことになっていたのですが、合流するなり「見た?あの人たちが落書きしよったやつやろ?」この話題で持ちきりでした…。

私たちは複雑な気持ちを抱えたまま、入試の会場に足を運び試験に臨むのでした。

『もう少しで中学校も卒業するし、もう少しの辛抱だ…』

この気持ちを常に持ったまま、卒業式までの残りの日数をカウントダウンしていました。

記憶が薄い卒業式

卒業式の練習が始まり出した頃、いよいよ中学校生活も終わりに近づいてきたなぁ…と内心ホッとしていました。

しかし、最後の最後まで問題は勃発するのでした。

…卒業式のリハーサル。

私たち3年生全員、体育館へ移動し当日の流れどおりに行われる予定でした。

校長先生の祝辞の練習の際、それは起こりました。

荒れた生徒たちが、たくさんの刺繍がはいった学ランや特攻服を着て、体育館の入り口から乗り込んできたのです。

校長先生のもとへ…そして暴言を吐いては、着席するイスを床に叩きつけ、さらには暴れ出しました。

先生たちが外に出そうとするものの、「はっ?俺ら卒業生やん?ここにおったらいかんのか?」と、その荒れた生徒のうちのひとりが叫んでいました。

『卒業式の当日もこんななるんやろうか…』

まともに過ごしてきた生徒からは、不安な声しか出てきません。

何も起こらないことを祈る…というのも、おかしな話ですが、その時は私も本気で祈っていました。

「最後の日だけは何事もありませんように✨」


…卒業後当日。

… … 

… … …

多分、終わったんだと思います。
何事もなく…ただ粛々と…。
記憶が薄すぎて覚えていないのです。

私のアルバムには担任の先生と
卒業証書を持った笑顔の私が写っていました。


…卒業後。

私は受験していた高校に進学が決まりました。
そして、萎縮し続けていた胸のつかえが、少しだけ解放された気がしました。


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