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「料理人が多い大学」と「食材が多い企業」

普段、科学記事を中心に紹介していますが、今回は料理の話です!

と、言いたいところですが…これは産学(産業とアカデミア)の大きな乖離の1つについてです。

私は約6年間研究室に在籍し、ここ2年間は企業で働きそのギャップに衝撃を受け続けています。

以前、企業と大学の感覚の乖離について紹介しましたが、今回はデータマネジメントの話をしたいと思います。

データマネジメント?何それよくわからないと思わないでくださいね。簡単に言えばデータの取り扱いをイメージしてもらえばいいと思います。

そもそもデータがない大学

大学というとなにやらすごいデータをたくさん持っているように感じる方も多いのではないでしょうか。

たしかに最先端の研究をしているので、この世にはまだない面白いデータがあるのは事実です。

しかし、大学(アカデミア)の世界には課題があります。それは一般的に見るとデータが少なくときに再現性に乏しいという点です。

もちろん、生物系の研究では統計を駆使して、統計的に有意であることを示したりしていますが、そうでない分野ではやはりデータの量と質に課題が残ります。それは嘘をついているというわけではありません。あくまで、論文に記載されているとても限定された条件では再現できるでしょう。

しかし、データの数が企業活動に比べたら圧倒的に少ないといえるでしょう。(少なくとも私がいた材料分野では統計的な有意差まで見るような研究はそれほど多くありませんでした)

これはいろいろな理由があります。そもそも超高い試薬を必要とする実験を百回近くやるわけにはいかないのです。

論文に載る成功した結果を導くまでに数多の失敗をしていることを考えても、成功した結果の統計解析をするため100回同じことを繰り返すというのは稀でしょう。(やらねばならないときはやっていると思いますが、必ずではないはずです)

また、私が現在働いている医療の領域では大規模な臨床研究が行われています。それにはとんでもない金額と試験を可能にするインフラが整っていなければなりません。大学の1研究室でそれを実現するのは至難の業でしょう。(そのための産学連携があるわけですが)

データを管理できていない企業

企業が世に製品を出すためには数多の規格や規制を乗り越える必要があります。そして社会が作った決まり事(規制・規格)をクリアするためには、それこそ100回近くの同じデータが必要になります。ここでは簡単に100回といってますが、これは統計的に問題ないといえる数が設定されるので規制や状況に応じて異なります。

さて、企業の場合は大学よりも圧倒的に大量のデータがあると言えます。なんでこんなことを100回も繰り返さないといけないの…と思うぐらい同じ試験の結果がたくさんあります。

データをたくさん持っているという点では大学よりも企業の方が優れているように思えます。

しかし、企業にも大きな課題があります。それがデータマネジメントです。簡単にいえばデータの管理と取り扱いです。

これは私の会社が特にひどいのかもしれませんが、話を聞いているとどこの会社も少なからず何かしら課題を抱えているといえるでしょう。

わかりにくいと思うのでもう少し詳しく説明します。1つの製品を世に出すために数十~百近い試験をクリアする必要があります。そしてその試験につき100回ぐらい繰り返さなければなりません。

さらに、世の中のルール(規制や規格)が最新版に更新されれば、企業は製品のアップデートをしていかなければなりません。要は製品の改良と試験のやり直しです。

そうすると10年選手の製品ではとんでもない数の試験結果が溜まっていくことになりますよね。

ここでデータの管理が重要になってくるわけです。しかし、最悪のケースだとこれらの試験結果が紙でしか残っていないなんてことが起きます。デジタルネイティブの20代、まだまだ使いこなしている30代の人からしても目をそむけたくなる現状です。

紙のデータしか残っていなければ検索もできませんし、記録間のつながり(トレース)もわかりません。

個人的に、データの取得能力だけで見れば圧倒的に企業に軍配が上がります。製品を売るためなら、人と金を潤沢に使えるというのはとてつもなく大きなアドバンテージです。

しかし、大企業に大きな課題があります。それは簡単に新しいシステムを導入することができないということです。例えば小規模なデータしかない研究室なら、データの管理のためにシステムを導入するのも簡単です。必要なデータだけを移し替えれば完了ですからね。

一方、企業ではそう簡単にシステムを入れることはできません。関係者が非常に多い上に、保守も含めればシステムの金額はときに億単位になってしまいます。そのレベルの意思決定は会社の経営に影響し、そう簡単には決まらず、のらりくらりと時間だけが過ぎていきます。

その結果、紙の時代から脱却することができずにいまだに紙運用しているような企業が残っているわけです。(まさに私の会社です)

そういう背景もあって、多くの企業はDXだなんだと騒いでいますが、それ以前の問題ということに気づいていないわけですね。私からしたらいまだにIT化すらできていないという印象を受けます。


料理人が多い大学・食材が多い企業


だいぶ長くなってしまいましたが、タイトルを回収しましょう

大学にはデータを上手に調理できる優秀な料理人(研究者)がたくさんいます。しかしながら、そこで使えるデータ(食材)の量には限りがあります。

一方、企業には大量のデータ(食材)があります。ただ残念ながら、そのデータを上手に管理、調理して新しい洞察を作り出す社員があまりにも少なすぎるという課題があります。

推測すると、このような背景があるため、ここ数十年システムエンジニアが必要とされ、最近ではDXコンサルやデータサイエンティストが引っ張りだこになっているのでしょう。

以前の記事でも書いたように、現在大学と企業の間には埋められないぐらい広い溝があります。

そしてこの溝を少しでも埋めていかなければなりません。産学連携という橋を架けることができても、限界はあります。

数十年前、青色LEDが大学の研究から企業に(半ば強引ではあるが)シームレスにつながったように、大学と企業の間を地続きにしなければなりません。

そのためにも、大学は潤沢な資金の人的リソースを、企業は社内のインフラを自分たちで何とかする力を持たなければなりません。(SEやコンサルといった外部の力を借りても全て解決するわけではないですからね)

料理人(研究者)が多くてもう少し食材(データ)を自由に使える大学と、食材(データ)だけでなくそれを調理する料理人が多い企業を目指していくべきではないでしょうか。

最後に

今回は大学と企業の間に広がる溝の一つとしてデータの量とそれを扱える人材の差について考えてみました。

それなりの大企業でもこのありさまかと日々絶望する日が続いていますが、少しでも前進できるように頑張っています。

また、このnoteでどのくらい取り上げるかは決めていませんが、データベースについての勉強も始めました。

流行りのデータサイエンスに比べたらとても地味なものですが、データベースはデータサイエンスやDXと呼ばれるものを実行するためには必須の素材になります。まずは企業にある素材を使える形にしてやらないといけませんからね。

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