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再生するウニのトゲから結晶の秘密を探る

これまで何度か貝殻やウニの棘といった生物が生み出す結晶“バイオミネラル”について紹介してきましたね

そんなバイオミネラルにはいまだに多くの謎が隠されており、その1つがどうやって結晶化が進むのかという点です。

まだ、わかっていないことがあるの?と驚く人もいるでしょう。科学技術が進歩してきたとはいえ、自然界のミクロの世界は人間の手が届かない領域なんです。

それでは一緒にウニの棘の不思議な世界を見ていきましょう。

ウニのトゲの結晶化

まず、バイオミネラルの結晶化において覚えておかないといけないのは、ウニのトゲも貝殻も炭酸カルシウムという物質でできています。これは卵の殻や黒板に書くときに使うチョークと同じ物質です。

この炭酸カルシウムはバイオミネラルとして結晶化する際には、まずアモルファス炭酸カルシウム(ACC)という状態になることが知られています。このアモルファス炭酸カルシウムというのは同じ物質なんですが、原子の並び方が滅茶苦茶になっている(規則的でない)固体なんですね。

このように結晶化する直前の状態を専門用語で前駆体といいますが、炭酸カルシウムを身にまとう生物において、このアモルファス炭酸カルシウムという前駆体は非常に重要な存在として考えられてきました。

しかし、このアモルファス炭酸カルシウムはどうやってできるのか?というところまではまだわかっていませんでした。シミュレーションなどによれば、ある程度予想はできるものの実際に観察した例はなかったようですね。

そこで研究グループはウニのトゲを観察することで、アモルファス炭酸カルシウムのでき方を調べていきました。

ウニのトゲを折るとどうなる?

ウニのトゲっていわば体を覆う服のような感覚でいましたが、トゲも当然体の一部です。なので、実験室でウニのトゲを折ると折れたところから徐々に再生するんですね。

この研究は、折れたトゲの先端部分、つまり再生している最中の場所をよ~く観察することで、いろいろと新しいことがわかってきたようです。

成長途中のトゲを実際に見てみると、何やら滑らかな表面があることがわかります。

参考文献より引用

これを見ると何か液体のようなものが表面についている感じがします。しかし、これだけでは何とも言えません。

そこで、より詳細に調べるためにPEEMという方法で、観察部位の組成を調べました。

より詳細な分析

研究グループは、PEEMによる分析で成長途中のウニのトゲには、ACC+H2O, ACC, カルサイトという3つの層があることを見つけました。カルサイトは結晶の炭酸カルシウム、ACCはアモルファス炭酸カルシウム(結晶の前駆体)、ACC+H2OはACCよりも原子が乱雑に並んだ状態のようです。

青:結晶、緑:アモルファス、赤:最も液体に近い構造
d,eはaとcの拡大像:わずかに赤いポイント(ほぼ液体と考えられる)が見つかっている
(参考文献より引用)

この画像を見てみると、ごくわずかではありますが、最も構造が乱れたACC+H2Oを見つけることができました。そして、その構造の乱れはおおよそ液体に近いということです。

つまり、ここについていたのは液体であり、もしかするとアモルファス炭酸カルシウム(ACC)は液体からできたのではないかということが考えらえるわけです。加えて、ACC+H2Oは非常に濃度が高いこともわかりました。

これらを合わせて考えると、濃度の高い液体相→アモルファス炭酸カルシウム→結晶の炭酸カルシウムに変化したということです。これまで、この液体相の存在が観察されていなかったため、新たな発見となったわけですね。

他にも研究グループはウニのトゲの表面形状をよく観察して、まるで液体があったかのような状態が複数観察されていました。

液体が蒸発した時にできるクラックが観察できる。液体だった証拠かもしれない
(参考文献より引用)

残念ながら電子顕微鏡で見る際には空気のない真空状態で見なくてはならないため、液体を観察することができません。(液体は全て蒸発してしまうので)

そのため、明確な証拠としては弱いですが、確かに経験則的にそこに液体があったんだろうなという観察結果が見て取れます。(乾燥によってできたと思われるクラック等)

最後に

今回は、アモルファス炭酸カルシウム(ACC)の前駆体として液体相が存在する様子を実際に観察したという研究を紹介しました。かなりマニアックな内容になってしまいましたね。

この論文の結果を否定したりはしませんが、個人的には少し証拠が弱い感じがしました。観察前は液体だっただろうなと思える様子は確かにありますが、明確に液体相を直接観察したわけではないというところが何とも言えないところかなと思います。

またPEEMのスペクトルからも断定するのは難しいのでは?という印象ですね。

まあ、私自身がウニのバイオミネラルの専門家ではないため、論文をしっかり読み切れていないところもあるかもしれませんが、多少懐疑的な目で見てしまいました…

とはいえ、結果自体は真っ当でトンデモ科学などではないなので、これをもとにさらに新しい発見があると面白いですね。

参考論文

Evidence for a Liquid Precursor to Biomineral Formation

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