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ゴムや陶器だけじゃない!電気を通さない絶縁体の不思議な世界

多くの人は中学校で電気が流れるものを導体、電気が流れないものを不導体(絶縁体)と習ったと思います。

普段、電気を流さないものを見たときに絶縁体だ!と考える人は少ないと思いますが、そんなは絶縁体にはいくつか種類あるのをご存知ですか?

例えば、陶器であるセラミックスは電気を通しませんが、金属は電気を通しますよね。

しかし、ぱっと見金属のような性質を持っているのに、電気を通さない物質というものもあるようです。

今回はそんな不思議な絶縁体の世界を見ていこうと思います。

通常の絶縁体

過去にも紹介しましたが、物質が電気を通すか否かを決めるのはバンドギャップの広さと言われます。詳細は以下の記事を読んでもらいたいところですが、ここでは簡単にバンド構造について紹介してみましょう。

科学的には語弊がありますが、バンド構造というのは要は電子が動ける領域を表しています。つまりバンド間にギャップ(乖離)があれば、その間を電子が移動できないため、電気が流れにくくなります。私たちが想像できる世界では自由に動ける電子がないため電気が流れないと言われますよね。

バンド理論では、金属ではバンドギャップがなく、逆に絶縁体ではバンドギャップが広いといいます。その中間である半導体はある特定の条件で電子が移動することができます。

この特徴は物質を構成する元素の種類と原子の配置(結晶構造)に依存します。世の結晶学者はシミュレーションや観察の中で、物質のバンド構造を明らかしているんですね。

今回フォーカスを当てている絶縁体の最も一般的な理由というのは、このバンドギャップが広いためであるといいます。つまり、バンド間で電子が移動できない=電気が流れないということになりますね。

モット絶縁体

さて、一般的なバンドギャップによる絶縁体はわかりやすかったと思います。とにかくバンド絶縁体では電子が勝手動くことができないため、物質全体を電気が流れないんですね。

しかし、世界は不思議がたくさんあります。
バンド構造を調べると、バンドギャップがないのに電気が流れない物質があります。つまり、電子が動けるはずなのに、なぜか電気が流れない。そんな奇妙な現象が起こるのはなぜでしょうか?

一般的な物質では電子はプラスの電荷を持つ原子核の周りを回っています。電子が回っている領域を電子軌道とも言いますね。これは金属でも絶縁体でも同じです。金属では電子が隣のエリアに移動することができるため、電気が流れるわけです。

中央:モット絶縁体(理研のサイトより引用

電子間の相互作用により、電子が隣の軌道に移動できない物質があります。するとバンドギャップがなく、バンド理論では電子が移動できるはずなのに、実際は動けない、そんな物質を提唱者のネビル・モットの名前を取ってモット絶縁体と言います。こんな物質があるなんて、元物理学徒からしてみればとても不思議です。

これまでのバンド理論からするとどこからどう見ても電気が流れそうなのに、なぜだか隣の軌道に移動できず電気が流れないのです。これは電子間の反発力が働くことによって起きると言われています。このような電子を強相関電子とも言います。

近年、このような不思議な性質を持つ物質が注目を集めており、大学などの学術機関で盛んに研究が進められています。

励起子絶縁体

前述のバンド絶縁体とモット絶縁体とは全く異なるカテゴリになりますが、半導体や半金属の一種には励起子絶縁体と呼ばれる状態が起こりえると考えられています。もう少しわかりやすく紹介してみましょう。

マイナスの電荷を持った電子に対して、電子がいないところでは反対にプラスの電荷を持った架空の物質があるように見えます。イメージするのが難しいと思いますが、結晶学においてこのようなプラスの電荷を正孔と言います。

わかりやすいイメージとしては、一列に並んだ10着の椅子に9人の子供(電子)が座っているとします。このとき、子供が座っていない椅子が正孔です。仮に子供がみんな一つずつ隣の椅子に移動したとしましょう。このとき、あたかも空の椅子が移動したかのように見えますよね。これが正孔の移動です。

電子は左から右に移動するが、それと反対に正孔は右から左に移動したように見える

結晶の中ではこの空の椅子である、正孔の移動もまた電気の流れと考えることができるんですね。

さて、話を戻して、結晶の中ではときに、この正孔と電子がゆるい組になって一緒に移動するということが起こります。

電子が移動するってことは電気流れるじゃん!と思いたいですが、残念ながらそううまくはいきません。なぜならプラスの電荷を持っている正孔も一緒になって移動しているからです。つまり、電子と正孔の組で見ると電気は流れないのです。

電子と正孔が一緒になって移動してしまうと電気が流れない

そうです。これも絶縁体になります。このような絶縁体を励起子絶縁体というそうです。ほんと不思議ですよね。ちなみのこのような励起子をエキシントンといい、超伝導現象なんでも重要なワードになります。

最後に

今回は3種類の絶縁体について紹介しました。あまり物理に興味がないと、これまでの理論では説明ができない、なんか不思議な物質があるんだなぐらいの感覚かもしれません。しかし、物理を少しかじった人間からすると本当に面白い学術的な興味が湧いてきます。

現在、モット絶縁体や励起子絶縁体と呼ばれる新しく発見された絶縁体は大学などの研究機関で最先端の研究として議論されています。直接的にこれらの物質がどのように役に立つのかは想像が難しいですが、数十年後、新しいデバイスが開発されていることは想像できますね。

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