見出し画像

【驚異のバイオミネラル】歯を持つ植物

私たち人間や動物には歯があります。なに当たり前のこと言っているんだ?と思われるかもしれませんが、植物が歯を持っていると言ったらどう思いますか?

今回はそんな歯を持つ植物について紹介したいと思います。

ちょっとキャッチーなフレーズで紹介を始めましたが、正確には歯ではなく、歯や骨と同じリン酸カルシウムと呼ばれる成分を作り出す植物が存在します。

動物の歯や骨、貝殻などが有名ですが、植物もまた固いバイオミネラル(結晶)を作り出すんです。

歯(リン酸カルシウム)を持つ植物

突然歯を持つ植物というと、植物が何かを食べるのか? とも勘違いしそうですが、そのような食虫植物ではなくて、どちらかというとバラのトゲのような感じです。そのトゲが歯と同じ固い成分でできているというのは驚きですよね。

今回注目するのはセイヨウイラクサと呼ばれる植物です。

あまり聞きなれないかと思いますが、それほど希少な植物というわけでもないようで、よく見ると鋭いトゲがたくさんついている植物です。

このイラクサのトゲは小さな歯というか牙のような形状になっています。この牙のような突起の元素分析をしてみるとちょうど突起の部分にカルシウムとリンが集まっていることがわかります。

参考文献より引用

こちらは元素マッピングした画像です。簡単に言うと成分によって色分けしたら、こんな感じ見えるということです。一番下のPhosphorusというのがリン成分が存在することを表しています。

これを見るとわかるようにトゲの先端だけ色が違い、リン成分が集まっている様子がわかります。こうも見事に色が違うとは面白いですね。

ただこれだけでは、リン酸カルシウムかはわかりません。ただカルシウムとリンが集まっているだけという証拠ですからね。

そこで、研究グループは化学結合を調べることができるラマンスペクトルを観測しました。その結果、確かにリンは酸素と結合したリン酸イオン状態になっており、それがトゲのエリアに集まっていることがわかりました。

赤いエリアは歯と同じ成分であるヒドロキシアパタイト、青いエリアは一般的な植物の成分であるセルロース(参考文献より引用)

リン酸カルシウム(ヒドロキシアパタイト)とは私たちの人間の骨や歯と同じ成分です。あまり誇張して書きすぎると誤解を招く恐れがありますが、おそらくその微細構造は異なっていると思います。本物の骨や歯は微小な結晶がタンパク質などで接着されてできた微細な構造体になっています。

その微細な構造という点では全く同じというわけではありませんが、植物が骨や歯と同じ成分であるリン酸カルシウムを作り出して、自らの防衛に使っているというのはとても興味深いところですね。

ちなみに、このリン酸カルシウム(ヒドロキシアパタイト)は結晶構造を持っています。貝殻がアモルファス炭酸カルシウムを身に着けるように同じ成分でも結晶でない場合というのがあるから、そこも調査してみた結果、確かに結晶だとわかりました。

これにはX線や電子線を用いた結晶構造解析が使用されていますが、やはり有機物との混合状態にあるのでなかなかデータの取得には苦労している様子が見受けられました。とはいえ、しっかりと回折を取って結晶であることを確かめている点も好感を持てますね。

最後に

以前、イネ科の植物がシリカを生み出すというお話を紹介しました。簡単に言えば、ススキや稲や竹はガラスによく似た成分をその葉や茎に蓄積して硬度を増しているんです。

植物はシリカやリン酸カルシウムといったバイオミネラルを作り出して、自分たちの生活に役立てているということなんですね。とても面白い世界です。

おまけ:科学的な検証の仕方

さて、少し話が変わりますが、今回の論文はそれほど長くない割に内容は結構しっかりしていました。

最近サイレポを何本か続けて読みましたが、やはり研究によっては証拠集めのレベルが違うな~と感じます。物足りない論文も多々ありますが、今回の紹介した論文は比較的多方面から検証をされており非常に読み応えのある論文でした。

ちょっとマニアックな話をしておくと、ある構造や組成といったものを確かめるためには1つの方法では限界があります。例えば共焦点ではない普通の光学顕微鏡を覗いただけでは、表面の色や形はわかるけれど中身まではわからないし、どんな化学物質なのかもわからないといった感じです。

今回紹介した論文を例にすると、まず電子線顕微鏡(反射電子像)+ EDXでミクロな構造と元素分布 を得ています。しかし、それだけでは化学構造は不明です。(元素分析)

次にラマン測定及びマッピングにより、化学結合を明らかにしています。しかし、このままでは原子が乱れたアモルファスなのかきれいに並んだ結晶化かは確証が持てません。(化学結合分析)

最後に、X線と電子線を用いた回折を取ることで、原子がきれいに並んだ結晶であることを証明しています。(結晶構造解析・原子に並び方の分析)

加えて研究グループは染色などを行ってさらに詳細に調べています。ざっくりとした説明ですが、これだけでもいかに多面的に調査を行って自分たちの主張を示しているかがわかると思います。

3つ以上の方法で調査をする論文というのは、それほど多くはないと思いますがやはりこれぐらいしっかりと研究されていると、信頼性も上がりますし、トップジャーナルにも投稿可能なレベル感になってきますね。

ただ、適切に3つ以上の方法で調べていくというのはなかなか骨が折れる作業なので、本当にすごいな~と感心します。

参考文献

A first report of hydroxylated apatite as structural biomineral in Loasaceae – plants’ teeth against herbivores

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?