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【結晶成長のキホン】本当は奥が深い析出について

析出というと、塩水を冷やすと水に溶けていた塩が再び現れることを想像するかと思います。

今回は、実はとっても奥が深い析出について紹介したいと思います。

析出とは

ググると、こんな感じで出てきます。

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冷えた塩水から塩が出現するだけでなく、はちみつの結晶化しやすい成分が固まって固体になるのも析出の一種だと思われます。

このように、析出という現象は私たちの身近にありふれたものです。とはいうものの、ほとんどの人はこの析出についてそれほど深く考えたことはないと思います。

結晶成長の基本

ちなみに、この析出という現象は結晶成長の基本です。そこで今回は結晶成長に焦点を上げて析出について紹介していきたいと思います。※


結晶化には核生成と成長という大きく分けて2つのステップがあります。溶けていた物質が固まって固体になる(結晶化)するためには、この2つのステップをクリアする必要があります。

ここでは、重要な2つのステップ(核生成と成長)についてもう少し詳しく見ていきましょう。


核生成

結晶化を始めるためには、原子や分子が集まってきてクラスターという小さな塊を作る必要があります。しかしこの小さなクラスター(核)は非常に不安定であるため、できてもすぐにバラバラになってしまいます。

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Crystallization Kinetics of Amorphous Materialsより引用

このエネルギーの図が非常に大事になります。簡単な理解としては右に行くほど、結晶のサイズが大きくなります。

そして赤矢印の山を越えるまで(青の領域)は非常に不安定な状態、つまり核生成の段階です。できては壊れてを繰り返して、核は現れては消えます。

ちなみに、この核というのは非常に小さいので観察することができません。最近、日本の研究者によって、核に近いものをとらえたという研究が発表されましたね。今後、この分野がさらに発展することを祈るばかりです。

ちょっと脱線しましたが、この観察不可能なぐらい小さな核は、確率的に大きくなったり、バラバラになったりします。これが、熱揺らぎなどによって赤矢印の山を越えるようなことが起きると、ようやく成長が始まります。


成長

結晶が図の山を越えるぐらい大きくなると今度は安定期に入ります。できた核はどんどん大きくなっていきます。これが結晶の成長です。(右側赤の領域)

結晶は成長の条件、たとえば温度変化や、原料の流れ、濃度などといった様々な理由で結晶の大きさや形が変わります。この結晶の成長を制御するのが、大学や研究機関の科学者や半導体、金属鉄鋼、製薬、食品業界など企業の研究者です。

結晶の成長に関してはこちらの記事をご覧ください。


このようにして核生成と成長によって、それなりに大きくなった結晶は私たちの目に見ても析出したと認識されます。


最後に

今回は私たちの身近にありふれている析出について結晶成長の観点から紹介してみました。なんてことない現象が、実はとっても複雑なサイエンスであることが伝わったでしょうか?

本当に、奥が深い分野なので、私自身も日々勉強ですが、少しでもサイエンスの深みが伝わればうれしいですね。


※実際に固体(固相)が現れる現象は、結晶成長だけでなく、ガラス形成などもあります。

※クラスターというと最近の流行り病に関連した用語にもありますが、全く関係ありません。非常に不安定な小さな結晶の核をクラスターと呼びます。

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