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【グアニン結晶】魚の目に含まれる不思議な結晶の生まれ方

これまで生物の作る結晶についてはいろいろと紹介してきましたが、世の中には不思議な結晶がまだまだあります。

例えば魚の鱗(ウロコ)をよく見るとキラキラと光り輝くことがありますが、これもグアニンというものの結晶によるものなんです。

そんなキラキラしたグアニン結晶を化粧品や光を操る光学材料に利用するといった研究もなされているんですね。

このような研究を見ると意外とありふれたものなのかと思いますが、このグアニン結晶は人間には難しい不思議な特徴を持っています。

というのも、グアニン結晶は板状の結晶なんですが、このように形の特殊な結晶を作るにはいろいろと環境を整えてやる必要があるんです。なぜなら結晶は生まれる環境によって形が大きく変わってしまうので。

一方で、難しいことを考えているとは思えない魚はこのグアニン結晶を板状に上手に作りだしています。

今回は、そんなグアニン結晶が魚の中でどのように生まれるのかをナノテクの極意である電子顕微鏡を使って解明した論文を紹介します。

グアニンとは

そもそもグアニンなんて聞いたことないけど…という方もいるでしょう。

実は、グアニンは私たちも持っています。一番有名なところではDNAですね。DNAが持つ4つの塩基の内の1つがグアニンなんです。

さて、そんなグアニンですが、普通に人間が合成するとブロック状の塊になってしまい、板状にはなりません。


左:人工合成グアニン結晶、右:生体内で作られるグアニン結晶(参考文献より引用)

一方で、魚はグアニンを板状の結晶として作り出すことができます。これは一体何が違うのでしょうか?

グアニン結晶はどうやって生まれる?

研究グループはゼブラフィッシュの幼魚の目の細胞からグアニン結晶を見つけて、結晶が出来上がる過程を観察しました。

生物の器官として目は光をキャッチする部分ですよね。その目の中にもグアニン結晶が役に立っているというのは驚きです。

目の中のイリドソームという細胞器官に目には見えないほど小さな板状のグアニン結晶がたくさんあります。

参考文献より引用

研究者たちは目を解剖して、凍結したサンプルを切り出し、その表面の様子をよく確認しました。

このように見てみると薄い板が何枚も重なった様子が観察できますね。

イリドソームと板状の結晶(参考文献より引用)

それではこのグアニン結晶はどうやってできるのでしょうか。

先ほどとは異なる手法であるTEMを使ってより詳細に小さな結晶を観察しました。

するとイリドソームの中生み出されるグアニン結晶は初めに細い糸の上で生まれることがわかりました。

参考文献より引用

この糸はアミロイド繊維と呼ばれるタンパク質でできた糸であり、これがグアニン結晶が板状になる理由であると結論付けています。

魚が使っている何らかの仕掛けというのが、こんなごくごく細い糸だったというのは驚きですね。そして逆に言えば、人間もこのアミロイド繊維を使えばグアニン結晶を合成することができる可能性があるということです。

グアニン結晶はキラキラ光るだけでなく、もっと高度な光学材料にも使えます。将来、人間が板状のグアニン結晶を自由に操る時代が来るかもしれませんね。

最後に

今回は魚が作り出すグアニン結晶の秘密について紹介しました。生物が作り出す結晶(バイオミネラル)好きにはとても興味深い内容でしたね。

一方で、補足的な内容にはなりますが、アミロイド繊維の上で核生成したグアニン結晶のサイズは20nmでした。これは結晶の赤ちゃんである核にしてみるとかなり大きいサイズなんです。そう考えると、グアニン分子がのようにしてアミロイド繊維状で集まって1つの結晶が生まれたのかはまだ完全に解明されたわけではなさそうです。

おそらく今後、計算科学の力も借りて、その辺は明らかになっていくのでしょう。

参考文献

Plate-like Guanine Biocrystals Form via Templated Nucleation of Crystal Leaflets on Preassembled Scaffolds

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