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新書『独ソ戦』に見る意識高い系にありそうな失敗の本質

重篤中二病患者はみんな大好き『独ソ戦』、歴史上最も胸糞かつ近代社会が生んだ狂人が入り乱れるバーリトゥード。

そんな非大衆的胸糞本がよりによって売れに売れたのが2020年、新書大賞第一位『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』である。

我々(連帯無き中二病クランケ)にとって独ソ戦といえば、ハンス・ウルリッヒ・ルーデル閣下ですね。くわしくは公式サイトであるアンサイクロペディアを御覧ください。

かく言う僕も、独ソ戦といえばヒトラーとスターリンのサウナ我慢対決的なイメージでしかなかったのと、あまりにも悲惨なためにちょっとふざけて語るのは憚られるし、「アインザッツグルッペン」の話なんかしたら合コンは一瞬にして炎628観た後の空気みたいになっちゃうじゃないですか。


ということで合コンでモテるために手にとったのが『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』だったわけなんです。

この本、単純な戦記好きには物足りず、池上彰の解説とか要約YouTuberで事足りる知的欲求しかない人にも向かず、ちょっと中途半端なんですよね。

それは「独ソ戦がなぜ絶滅戦争に陥ったのか」というのを入念に書き連ねているからです。

そして絶滅戦争を行ったのが当時の新興国、新イデオロギーにより建設されたナチス・ドイツと共産主義のソ連という人工国家同士であり、それは意識高い系の成れの果てのようなところがあるのでそれも踏まえて書評していきたい。


絶滅戦争への道

ドイツが遂行しようとした対ソ戦争は、戦争目的を達成したのに講和で終結するような一九世紀的戦争ではなく、人種主義にも続く社会秩序の改変と収奪による植民地帝国の建設を目指す世界観戦争であり、かつ「敵」と定められたものの生命を組織的に奪っていく絶滅戦争でもあるという、複合的な戦争だった P220

この引用が独ソ戦の全てを語っているように思うので、こちらを解説していきますね。

ここで一つ思うんですが、現代の普通の人々は「火垂るの墓」とかの影響で絶滅戦争的なイメージは当たり前かもしれません。一般人が多く住む下町に焼夷弾撒き散らすなんてのが異常だっていう感覚は逆にないんじゃないでしょうか?逆にね。詳細はカーチス・ルメイに聞いてみましょう。

ホロコーストは言うまでもなく、罪のない一般人がゴキジェットかけられるみたいに殺されてしまうのは本当につい最近の戦争だけなんですよね。


一九世紀までの戦争は、明確な目的があるわけです。

人類が所有という禁断の果実を手にしてから、人間はひっきりなしに殺し合いをしています。

自分の所属する集団が餓えてしまうと、豊かな他集団を襲います。

官僚制度により国家が誕生すると、組織的かつ大規模な奪い合いが始まります。

例えば織田信長がなぜ戦争を繰り返したかといえば、室町時代末期がヤラないとヤラれるという長渕剛的黙示録な世界だったからです。

中央政府が機能不全を起こした一億総ヤンキー時代において、話せばわかると言う前に身ぐるみ引っ剥がされてしまいます。

自分の所属する集団を守るために、大義名分(難癖)を掲げて敵の領地を奪い、家族と部下を養う。戦争も同盟も何もかも、『そもそも現状が不安すぎるから』であり、ヤンキーのくせにむっちゃビビりな奴らの我慢比べなわけです。

一九世紀までの戦争の目的とは「まずは自分の安全の確立」であり、権力者同士の軍事力の見せ合いみたいなものです。

領地や財産を奪いますが、ゆるい繋がりのゆるい運命共同体同士の戦いなので、そこまで大規模にはなりませんし、そのあとの経営のことや一応の大義名分のためにもむちゃな殺戮はできません。※比叡山を除く


近代の戦い、総力戦になると話は違います。

国家対国家になるわけです。

近代国家とはそれまで概念すらなかった「オラは日本人」という共同幻想を築きあげ、国家とされる範囲の全リソースを無理やり取り上げて一気に富国強兵政策に投じるためだけに生まれた偶像です。

なぜそうするかといえば、やはりヤラないとヤラれるからです。

帝国主義時代とは、植民地獲得競争であり、植民地とは経済圏の確立です。

より多くの金と資源を得ると、それを投資に回してさらに巨大な経済圏が築けます。

イギリスが始めたこのマッドマックス的世界観は、マジでヤラないとヤラれるレースなんです。

植民地を奪うためには海軍が必要です。植民地を奪うのも恫喝するのも海軍、輸送インフラの要も海軍、列強ライバルを蹴散らすのも海軍。

ペリーの黒船でおったまげたリア・ディゾンばりにピュアな日本人は、小栗忠順に海軍創設のためメリケンに出張させたりしてますし、海軍力というのはかなりインパクトあったんでしょうね。

そんなこんなで一九世紀的戦争がよりエグくなったのが、第一次世界大戦の総力戦です。

もう国家のありとあらゆるものを動員して、どちらかが戦争継続困難になるまで戦争を継続します。

その戦いで生まれたものが、ナチス・ドイツとソビエト連邦です。


ナチス・ドイツとソ連は兄弟?

ナチス・ドイツは、第一次世界大戦の敗戦により生まれたようなものです。

敗戦直後のドイツには、性懲りも無くナショナリズムの亡霊が蠢いていました。

それに乗じたアドルフ・ヒトラーは、「戦争に負けたのはユダヤ人や共産主義者のせいだ。偉大なドイツは騙されたんだ!」という塩梅で演説したわけです。

ジバン、カンバン、カバンを何一つ持たないアドルフ・ヒトラーですが、巧みな大衆扇動術により大衆的人気を少しずつ手にしていきます。

多額の賠償金でナショナリズム的プライドがズッタズタであったJOKERなドイツ人たちにとって、彼のメッセージは魂に響いたわけです。

そして地方の極右政党でしかなかったナチス・ドイツは、巧みな宣伝戦と反共仲間の軍と政財界を味方につけ、10年ほどで政権を手にとったわけです。合法的にね。この際、やらないかレームは忘れてくれ。


ソビエト連邦も第一次世界大戦の鬼っ子です。

極東の肝を喰らうチェスト教団にやり込められ、第一次世界大戦によりさらに餓えて苦しむ国民を導いたのがレーニン率いるボルシェビキでした。

なぜか敵国を抜けて列車で優雅に帰国したレーニンにより、世界初の社会主義国家であるソ連は誕生したわけです。なぜでしょうね〜

世界初の社会主義国家ということですが、周りは全て資本主義国家。もちろんボッコボコにされます。

なんせそんな危険思想野放しにしてたら、資本主義国家の上級国民はFireされちゃうじゃないの!

内戦まで繰り広げて、腹を空かせながらというか餓死しながら何とか国家の体を成していたのが新生ソビエト連邦でした。

ナチス・ドイツとソ連、この二つの新しい国家は共に全体主義であり、何なら歴史のない新造国家でした。

首脳陣のお歴々を見ていただければ、画家志望ニートや鋼鉄の人やパイロットや毛皮職人みたいなヤバい面子で、孟嘗君でも「こいつ大丈夫かいな」と思ったとか何。

両者とも第一次世界大戦により生まれた、非常に脆弱な権力基盤しか持たない兄弟のような存在。

そんな新造国家は、それ以前の国家より強固な共同幻想が必要でした。


イデオロギー ✕ ナショナリズム

いつ崩壊してもおかしくない姉歯マンション的新造国家は、イデオロギーとナショナリズムを掛け合わせるという等価交換したら非常にヤバそうな悪魔の取引をしました。

ナチスは「ドイツ民族は世界一!」、ソ連は「共産主義はウソつかない」です。

ナチスはドイツ千年王国のためにユダヤ人やスラブ人を追い払い東方に生存圏を拡大すると言い、ソ連は共産主義は地上の楽園と唄います

このイデオロギーが後々、絶滅戦争の惨禍につながるわけです。

もちろん共同幻想ですから、情報統制してサーチライト使ったりマスゲームしたり映画作ったり秘密警察跋扈させたりでうまく洗脳できてしまいました。

ですがこれ、砂上の楼閣、プレイステーションに立ち向かうドリームキャスト、漫画原作のジャニーズ邦画のように、とにかく脆いのは当事者達も大いに自覚していました。

熱狂的な国民を尻目に、当事者である画家志望ニートと自称鋼鉄の人は気が気ではなかったわけです。

「バレたらギロチンや!」

この本でも書いてありますが、第二次世界大戦中のドイツ国民の生活は最末期まで戦前通り豊かであったそう。

なぜならヒトラーの厳命で戦時中にも関わらず国民生活に気を使わせていたからで、貴重な外貨を使ってまでタバコやコーヒーの流通量を死守していたみたいですからね。邦国はそれが精神論と同調圧力なのか・・・


まとめ『絶滅戦争の惨禍』

まとめると絶滅戦争の系譜は、

①脆弱な権力基盤

②イデオロギー✕ナショナリズムという麻薬

権力者は嘘と偽りのぐらぐらの権力基盤の上に立ち、信長と同じ安全の確立のために戦争を起こした。信長と違うのは、これが権力者の権力欲だけでしかなかったこと。

信長時代は中央権力が無いマッドマックス世界だからこそ、あれほど群雄割拠し、そして死と隣り合わせなわけです。

帝国主義時代は覇権国家になるための競争ですが、スイスやスペインやアルゼンチンのように生きる術もあったわけで。

だが、「二位じゃだめなんですか」は通じない。軍拡競争は出遅れるとあとは何をされてもお手上げなのだ。

近代までず〜っと世界の覇権国家だった中国とインドがマインクラフトみたいにされちゃったのは、列強の権力者の肝にLINEスタンプ付きで刻まれている。


敵がいれば、共同幻想はより強固になります。

かつてのように宗教や権威から得た大義名分では、多民族で出自もバラバラな近代国家の国民をまとめ上げるには頼りない。

そこでイデオロギーですよ!

「奴らは人間以下の生物だ」

このナショナリズムベースのイデオロギーは、レッドブルのCM並みの効果がありました。

ナチス・ドイツは、東方生存圏を掲げ、ソ連を蹂躙しユダヤ人を最終的解決にまで持ち込む科学的な大義名分という非科学的な嘘を巧妙に作り上げた。

実際、国民はすべてが熱狂的なナチス信奉者ではなかった。すべてが反ユダヤ主義者でもなかった。

ナチスを支持する理由は、単に利益があったから。

敗戦により傷ついたプライドを慰めてくれるエンタメ性があったし、ユダヤ人やスラブ人を追い出して手に入れた土地や財産は国民に分け与えられたんですから。

国民は共犯者だったのだ。

絶滅戦争は、このイデオロギーのために破滅へと向かう。

権力者から末端の国民まで、引くに引けなくなったのだ。

もし負ければどうなる?今まで自分がしてきたことを思い出すと、彼らは武器を手に取るしかなかった。

そして無数のアイヒマンが誕生する。


独ソ戦は、意識高い系の失敗の本質

ここからはイチャモン邪推コーナーになるんだけど、表題通りこれは意識高い系にありそうな失敗の本質なのだよ諸兄!

①脆弱な権力基盤

②イデオロギー✕ナショナリズムという麻薬

最近の信者産業のように、意識高い系的世界観とはまさにこれでしょ。

反ワクチンとか反原発運動とかもみんなそう。

主張ややってることは批判しないし、どうぞ好き勝手におやりになってほしいのだけれども、この失敗の本質をよく学んでからにしたほうが運動を継続できるよという話。

ナチスやソ連、連合赤軍やデラーズ・フリートもそうだけど、安全欲求を着実に満たしながら権力基盤を醸成するというのをすっ飛ばして、麻薬に頼ってしまうというのが失敗の本質だ。

意識高い系スタートアップは、イーロン・マスクとかマーク・ザッカーバーグを目指しているんだろうけど彼らはマネーロンダリングの天才なだけで真似すると非常に危険だ。

もちろん、生き馬の目を抜いてメルカリに出品するような商売の世界ではそんな悠長なことは言ってられない。


一番重要なのは、「運動継続のための運動」になっていないかという視点が重要だ。

ナチスは田舎のチョビ髭極右政党という世間の目を逸らすために、オーストリア併合やズデーテン地方割譲という危ない橋を渡っていった。これは運動継続のための運動であって、国民の目を逸らさなければ権力基盤が危ういという焦りが本音だ。

運動継続している間、権力は安泰だからだ。

だが、運動とは常に右肩上がりでなくてはならない宿命がある。

麻薬を順次投下しても、だんだん耐性がついていつしか現実が暴露されてしまう。

こうなると、本来の趣旨であるはずの「国民の生活」とか「従業員の生活」とか「持続可能な社会」とか「お客さんの気持ち」なんか気にしていられなくなる。

連合赤軍が非常に良い例で、終わらない青春のためにビューティフル・ドリーマーしていたら、真面目なやつが一人抜け二人抜け・・・嫌だ!まだまだ青春したい!今まで払った労力を回収したい!女にモテたい!抜けた奴らを見返してやりたい!女にモテたい!とかやっているうちに、どんどん純粋培養されたヤバい奴だけが残っていき内ゲバの山岳ベース事件につながっていく。


当たり前だが権力基盤(マネタイズ)の安定化とスピードというのは矛盾した存在なのだ。

YouTuberが犯罪行為に走るのも、この焦燥感による経済的行動なわけで。

意識高い系が口八丁手八丁しながら結局人脈に頼るのも、ヒトラーがヒンデンブルクによろしくしてたのと同じであり、そのうちトンデモ兵器でも作ってタミヤを喜ばせるのがオチ。


ヒトラーとスターリンが独裁者と呼ばれているが、第二次世界大戦中の主要参戦国家の内、首脳がコロコロ変わっているのは我が国くらいでチャーチルもルーズヴェルトもほぼ戦争期間中はキングメーカーであり続けた。

ヒトラーとスターリンはスタートアップ、チャーチルとルーズヴェルトは歴史ある一部上場企業、まさにこの違いだけなのだ。

もちろん、戦争初期はスタートアップが強い。

特にヒトラーの戦争準備と序盤の電撃戦は圧倒的で、あれは一部上場企業にはまずできない。

だが、そのために大量投下した麻薬のせいで、ヒトラーは良いタイミングで講和するという決断ができなかった。

講和は運動を止めるものだからだ。

そしてヒトラーはナポレオンの轍を辿って、ロシアの荒野へと歩みだした。


逆にスターリンはヒトラー以上に脆弱な基盤のせいで疑心暗鬼に陥り、自分に不利益な情報を握りつぶした。

結局、緒戦はドイツに大敗してしまう。作られたカリスマ性を武器にした男の哀れな瞬間だった。

スターリンは情報網を駆使し、一部上場企業から多額の金をせしめ、もともとあった大量の資源をフル活用し、なんとか勝利を得た。

ソ連は2700万人もの桁一つ違う死者のおかげで辛勝した。ドイツが西部戦線含めて500万人くらいだからね。

カリスマ経営者のスターリンは、ブラック企業のやりがい搾取により辛うじて神通力を顕示しているにすぎなかった。


こう見るとだね。

結局、安定した権力基盤は何なのか?となるよね。

もはやこれはバランスとしか言いようがない。

しかし、スピードがなければヒトラーやスターリンは権力を手に入れることはできなかっただろう。

現代のカリスマたちは、バランス感覚が優れていただけなのか?それとも単なる運?

だが、鼻につく意識高い系諸兄よ。駆け足で女にモテたいのはわかるが、自分のスピード感が的確かどうかを把握せよ。

もし速すぎると思ったら調整せよ。嫌われるぞ、嘘がバレるぞ。

しかし、ここはとにかくスピード重視と思うなら人生フルベットせよ。

その勇気がないならサラリーマンになって職場結婚して子ども作ってイヌ飼って住宅ローンで永遠に苦しめ。

だがこれは決して意識低い生活ではない。意識高いアイヒマンになるだけなのだから。



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