見出し画像

【読書note13/新書】『今を生きる思想 マルクス』

「マルクス」と聞いて、どのようなことを思い浮かべますか?

ヒゲもじゃの男性?
教科書に載ってた「社会主義」「共産主義」の人?

しかも、社会主義とか共産主義とかって言われても、字面を知っているだけで、実は全然説明できないという(滝汗)。
でも、そんな?「マルクス」が現在アツい注目を集めているのです。

それには、近年マルクス自身の手になるノートが見つかったことも要因の一つとしてあるでしょう。でも、いちばん大きな原因は現在の「閉塞感」かな、と。

世の中って、どんどん幸せな方向へ進歩していくんじゃないの?

そんなふうに、私たちは何となく信じています。
だけど、実際は?というと、正体不明の何かが少しずつ少しずつ逼迫してきて、息苦しさや圧迫感を感じるばかり。しかも、その感覚が年々強くなってきている。

がんばってるのに。毎日必死なのに。「なんで?」ってなりますよね。

マルクスの『資本論』は、1800年代に書かれたものではありますが、現在私たちを取り巻いている圧迫感や閉塞感の原因を知る手がかりを与えてくれる理論なんです。

だからこそ、今著名な識者さんたちがこぞって「マルクス」に言及し、それに賛同する人が増えているのでしょう。

そんな本なら読んでみたい!

でも、マルクスの『資本論』ってものっそい大著ですし。素人が読むには難解極まりないものでもあります。
んじゃ、どうする?
というわけで、今回ご紹介するのは、そんなマルクスの理論のエッセンスをぎゅぎゅっと伝えてくれる新書なのです。

■『マルクス』について

■『マルクス 生を呑み込む資本主義』
■白井聡著
■講談社現代新書
■2023年2月
■800円+tax

資本という得体のしれない他者が、全地球を
人間の心をも包み込み、圧迫し、窒息させていく。
労働力にとどまらず、われわれの感情までも「商品化」される
現代社会を、「包摂」という概念をもとに読み解く。

私は、以前に齋藤幸平さんの『ゼロからの「資本論」』や『人新世の「資本論」』などを読んでいたので、予想していたよりもずっと理屈に馴染みやすかったです。

もちろん、そうではない方も大丈夫。岩波文庫本を底本としながら、きちんと噛み砕いた解説が綴られていますので、「マルクス」に初めて触れる方にも読みやすいものだと思います。

■振り返れば、ヤツがいる

本書の第一章では、マルクスの思想の背景を追い、『資本論』へ至る道程を辿ります。そして同時に、マルクスが捉えた、資本主義の本質を炙り出すのです。

私たちは、「資本主義」というシステムの中に生まれ育ち、徹頭徹尾そこで生きています。だから、私たちにとって「資本主義」というのは、不断にあるもの、あるいは、人類の到達点みたいな感覚で捉えてしまうものだったりします。

でも、マルクスはそうではないと言い切るのです。
曰く、「資本主義」は、「人類史のなかの一時代」でしかないのだ、と。

だからこそ、マルクスは「資本主義」はものっそい厳しい見方で捉えます。それを筆者はこのようにイメージし、表現します。

資本主義とは一つのシステムであり、それはそのシステムの外にあるものを自己のなかに次々と取り込んでゆく。

実は、この「システムの外にあるもの」が曲者で。

まず思いつくのは、天然資源や自然環境です。でも、資本主義が取り込むのはそれだけじゃないんです。資本主義が貪欲に取り込むものとして、私たち人間も例外ではないのです。

曰く、「一人一人の人間もまた資本主義というシステムに取り込まれ」「資本主義のシステムに適した存在であるべく変容させられている」と。

私たちは、日々いろいろあるけれども、思考は自由だし、行動だって自由だと思っている。でも、実は、空気のように当たり前に「資本主義」のシステムに適した考え方や行動をしているのだと。

その意味で、私たちは決して自由なんかではないのだと

生まれたときから、資本主義のなかで生きているから、「資本主義のシステム」を否応なしにインストールされていることにも気づかず、そのシステムの適用範囲内で思考や行動をしていることに思い至らない…だと…?!

…って、怖すぎません?(滝汗)

しかも。

これは第二章で指摘されることなんですが、そんなふうに私たちの中に自動的にインストールされている「資本主義」は、全く以て「人間の幸福を目的としたものではない」と言うのです。

ここで言う「資本の他者性」とは、資本が人間の道徳的意図や幸福への願望とはまったく無関係のロジックを持っており、それによって運動していることを指す。その意味で、人類にとって資本は他者なのだ。

え、何?
資本主義って、どんどん進歩してずんずん向上して、私たちを幸福へと導いてくれるんじゃないの? ってなりますよね。私はなりました(泣)

でも、現実として。

資本は、自分以外のものを引くほど貪欲に取り込んでは、勝手に肥大化し増殖し続ける。そういうシステムとして動いている。でも、それだけであって。資本主義にとっては、私たちを幸せにするとか、よりよい未来を導くとか、「いや、知らんし」ってなってる。

なんかもう、「資本主義」って、知れば知るほど、暗澹たる気持ちになってしまうのです。

でもね。こうも思うんです。

ちゃんと「現在」を知らなければ、「未来」は明後日の方向へ全力疾走してしまうのかもって。

というか、もう今ですら全力迷子をぶちかまして、ものっそいスピードで右往左往しまくっている。
それを止めるには。
それを正すには。
無慈悲なまでに透徹した視線で「現在」を捉える必要がある。

そして、「現在」の真ん中には「資本主義」が鎮座ましましているのだから、淡い期待を持った楽観視などせず、キビシクスルドク「資本主義」の本質を見つめる必要がある。

そんな風に思うんです。

そのために、マルクスの残してくれた『資本論』が助けになってくれる。んじゃ、学ばなきゃね、って思うんです。

■そんな身も蓋もない…

さて、本書の真骨頂は「包摂」という概念をもとに現代社会を読み解いたことです。

「包摂」というと肯定的な意味合いで用いられることの多い概念です。
駄菓子菓子。
もちろん?、ここでは否定的なニュアンスを帯びています。曰く、

ここから先は

787字
この記事のみ ¥ 300
期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が参加している募集

#わたしの本棚

18,272件

#新書が好き

743件

記事をお読みいただき、ありがとうございます。いただいたサポートはがっつり書籍代です!これからもたくさん読みたいです!よろしくお願いいたします!