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真夜中のクモ退治

夜中の2時頃、ものすごい雄叫びで目が覚めた。
何事かと思ってリビングへと行くと、まだ起きていた息子が顔面蒼白になり怯えている。

「タランチュラがいた! タランチュラが俺の肩に落ちてきてどっか逃げてった!」

と、真夜中だと言うのに叫んでいる。
私は、なんだクモかと寝ぼけながら理解し、

「日本にタランチュラっていないでしょ」

アホか。と付け加えた。

「タランチュラぐらいでっかい肉厚のクモ!」

息子は今が夜中であることを完全に忘れているようで、かなりの大声で叫ぶ。
胸に手を当てて、荒れた呼吸を整え、何とか落ち着かせているようだった。
私はまだ少し寝ぼけていた。
眠気でクモへの恐怖心は半分以下に減っていて、とても冷静でいられたのだ。
私は虫がとても苦手だ。
息子を産んだ時、男の子だから将来虫退治とかしてくれて、頼もしく育ってくれるのかな? なんて思った事があったが、それは幻想だった。
息子も、とても虫嫌いなのだ。

「どこにいる?」

私はホウキを持ってきて、安眠を邪魔してくれたクモを探す。さっさと取ってさっさと眠りたいと積極的にクモ探しを始めた。
家具やテレビ台の下にホウキを突っ込み、おら~! 出てこい! とわしゃわしゃさせる。
少ししてから、でっかいクモがものすごい歩みで私に向かって飛び出してきた。

「ギャー!」

私と息子は同時に叫び、テーブルの椅子の上へと登って避難した。
本当に、タランチュラ並の肉厚なでっかいクモがいたのだ。息子は大袈裟には言っていなかったんだとゾッとした。
私の眠気は完全に覚め、恐怖だけが残った。

「あなた男の子なんだから、あなたが取ってよ!」

私は持っていたホウキを息子に押し付けようとする。

「ムリムリムリ! マジでムリ!」

息子は椅子の上で大袈裟に怯える。
絶対にホウキを受け取ってくれない。

「私だって無理! ほんっとに無理! あんなでっかいのは無理だから!」

小さかったり、大きくても髪の毛ぐらいの細身の繊細なクモなら平気だが、あんな肉厚で、子供の手のひらぐらいありそうな大きなクモなんて、まっぴらゴメンだ。
私はホウキを床に捨ててクモ取りを放棄した。
しばらくどちらがどれぐらいの恐怖を感じていて無理なのかの比べ合いになった。

「私の方が怖いと思っている!」

「俺の方が断然、超絶、怖い!」

私! 俺! というように、自分の恐怖度をプレゼンする。第三者がいないから、いつまで経っても決着がつかない。
こういう時はジャンケンで決めるしかないということになったが、それでも私は負けたらどうしようとジャンケンをする事も怖くて出来ないでいた。
仕方なく息子がホウキを手にした。

「怖くない怖くない怖くない・・・」

呪文のように呟き、心を落ち着かせている。
そして、意を決したようにクモに立ち向かって行った。

「ギャー!」

と叫びながらホウキにクモを確保し、私は、

「ギャー!」

と叫びながら掃き出しの窓を大きく開け放った。
息子はそのままクモをホウキごとベランダに投げ捨て、二人してギャーギャー叫びながら慌てて激しく窓を閉めた。

どっと疲れて時計を見れば、夜中の2時半。
たった30分の格闘とは思えない長い戦いに感じられた。

「うちら、近所迷惑すぎたね・・・」

私の冷や汗は別の意味での冷や汗に変わった。

「うん。悪いことをした・・・」

息子は苦い顔をして頷く。
安心したら、今は夜中だという現実を思い出し、私達には自己嫌悪と反省しか残らなかった。

「もう、ねよか」

「うん」

私達は今さら小声で会話をし、それぞれの部屋へと散っていった。








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