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幸せを求める勇気『サイコだけど大丈夫』

Netflixで配信されている韓国ドラマ『サイコだけど大丈夫』。

このドラマが好きすぎて、繰り返し見ている。次に何が起こるかわかっているのに、見るたびに新鮮に感動する。

好きだからこそ、どう書こうか何を書こうか迷って時間がかかってしまった。「ここが好き!」はあげればキリがないので、思い切って中心人物の3人に絞って考えてみたので聞いてほしい。

まずは少しだけ登場人物の紹介をします。

予告に出てくる、このきれいな女の人が童話作家のコ・ムニョン。欲しいものは必ず手に入れないと気が済まない。反社会性パーソナリティ障害の傾向があり、人の気持ちも愛も知らない。

精神病棟で働くのがムン・ガンテ。幼い頃に親を亡くし、自閉スペクトラム症の兄ムン・サンテと暮らしている。ガンテは患者さんや兄のために尽くし自分のやりたいことや感情を表に出さない。

私は映画『めがね』や、西加奈子さんの小説『うつくしい人』など、人が変化していく作品がとても好きだ。なんだかちょっと疲れてしまったり、色んなことを諦めている人がものや人、景色などに出会い少しずつ変わっていく物語。このドラマもそれに近く、ドハマリした理由である。

(※これよりネタバレあり)

変化する関係性

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物語が進むにつれ、ガンテ(弟)、サンテ(兄)、ムニョン(作家)は大きく変化を遂げる。少しずつ縛られているものから解放されていく(=癒やされる)。

最初の3人の関係は、図にするとこうだ。どんな特徴があるのか、何に縛られているかに注目してほしい。(見づらく申し訳ない)

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ガンテは一番わかりやすく、義務感や責任に縛られている。自分の幸せは二の次にして兄を守らなければならないと思っていて、感情や希望を押し殺して笑っている。(キム・スヒョン氏、目が笑っていない演技がうますぎる)

ムニョンは家族に縛られていて、うまく人間関係を築けない。ガンテが自分のものになるよう、まったく心のこもっていない「サランヘ」を連発したり(名場面だ)、追い回したりして一方的だ。ただ、ガンテへの執着にも見える態度は、一種の希望を抱いているように見える。現状から救い出してくれるのではないかという、期待。

サンテは自分の殻にこもりがち。絵を描いたり、セリフを完璧に言えるくらいお気に入りのアニメを見ていたりする。いつも弟に「ご飯食べた?」と聞かれ、与えられる立場におり、「守られる対象」という枠から出ることができない。

そしてこれが、変化した3人の関係だ。

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詳しく見ていこう。

サンテとガンテ(兄と弟)

サンテは自分で稼いだお金で弟にごちそうしたり、今度は弟に「ご飯は食べたのか?」と聞いたりする。兄として家族を守るという意識が強く芽生えたように見える。

また、ガンテと離れ仕事をし一人の人間として自立したいと願うようになる。そんな兄を少し驚きつつ受け入れるガンテの表情がとてもいい。サンテを守っているだけと思っていたガンテもまた守られていることに気づく。

サンテとムニョン(兄と妹)

サンテはムニョンを次第に家族として受け入れるようになる。ムニョンが寝込んでいると聞くとおかゆを持って駆けつける。変に気を遣ったり遠慮したりせず、まっすぐに向き合う。このシーン、本当に温かくてよかった。サンテの無邪気さ、純粋さにこちらまで救われる。

サンテ役のオ・ジョンセ氏の演技がすばらしい。

ガンテとムニョン

自分の感情をすぐに相手にぶつけるのではなく少し待ったり、素直にアドバイスを聞いたりと、コ・ムニョンはガンテの言うことを聞いて少しずつ世界とのつながりを持とうとする。本当にかわいい!従順でかわいい!!

一方のガンテも、ムニョンには心を開く。我慢することをやめて、心の底から笑うように。2人はお互いに大切な存在になり支え合うようになる。

何が彼らを変えたのだろうか?

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彼らは急激に変わったわけではなくて、少しずつ変化した。目を背けたくなること、逃げたいことに正面から向き合った結果だ。自分も他人も、過去も現在も未来も、まっすぐに見つめることは怖いことだ。知りたくなかったことを知るかもしれないし、傷つくかもしれない。

それでも向き合うなかで、3人は多くの人に出会っている。その人たちがじわりじわりと、3人の心を溶かしていったのだ。いくつものきっかけをきちんときっかけにして、変わっていった。

■ サンテ
・バイトをさせてくれたジェス(自立のきっかけ)
・「病院の壁に絵を描いてみないか?」と提案した院長(必要とされて仕事をするきっかけ)
・相棒ムニョン(挿絵作家としての仕事の第一歩)
・入院患者たち(守る立場になるきっかけ)
■ ガンテ
・ムニョン (自分を解放するきっかけ)
・ジュリオンマ(本当の母親のように見守ってくれる、自分を愛するきっかけ) ※ジュリはガンテと同じ病院で働く看護師
・院長(いつも味方でいてくれて、助言がすばらしい)
■ ムニョン
・ガンテとサンテ(誰かと一緒にいることの温もりを知るきっかけ)
・ジュリオンマ(誕生日のわかめスープ、温かいご飯から伝わる愛情)

特に私が好きなのはコ・ムニョンとサンテの作った絵本が出来上がって、それをジュリオンマに渡すシーン。サンテからの「偽物で本物のお母さんへ」で始まるメッセージが大好き。

サンテは「偽物」と「本物」を厳しく区別するけど、ジュリオンマのことは認めていて本物の家族と同じくらい大事に思っている。他人のために何かをしてあげる、他人を受け入れるその姿勢に泣いた。サンテの成長がうれしくて泣き笑いである。

大丈夫じゃなくても大丈夫

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新しいドラマを見始めると、英語版のタイトルをチェックするようにしている。よりわかりやすくなっていたり、はたまたニュアンスが微妙に違っていたりするのも面白い。

このドラマの原題は『사이코지만 괜찮아』、日本語へはそのまま訳されている。英語では "It's Okay To Not Be Okay" で、こちらのほうがより広い意味でメッセージを伝えている。

ある患者の「世の中、入院してない患者だらけだ」というセリフが心に残る。サンテのように生まれつきの性質をもつ人もいるし、何かのきっかけでトラウマを抱える人もいる。「大丈夫じゃない」人はそこら中にいる。それでも大丈夫。大事なのは、幸せを求める勇気を持つこと。私はこの作品が大好きだ。

追伸:

もちろん、つっこみどころはある。コ・ムニョン母はどうやって生き返った?最後あっさり捕まりすぎでは?安定剤飲んでそんなすぐ起きる?とか。

サスペンスドラマとして見るには、まとめの雑さなどが気になるだろう。ラブコメとしては重すぎる。そういうのは全部ぶっ飛ばして、私の中ではこれは癒しの物語であり、完璧じゃないところもまた愛すことにした。

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