モンステラ（誕生花ss）

　開店おめでとう、というメッセージと共に大振りの花がスタンドに飾られ、店先を華やかに彩っている。独立する前にお世話になった店からのものが三点。どこで聞きつけたのか、通っていた専門学校からも贈られてきたのには、流石に驚いた。計四点。
　小さいながらも洒落たレンガ造り風の外壁に、居心地の良さを第一に考えた内装……出来る限り理想を追求した、私の喫茶店。花のスタンドを内と外に二点ずつ配置したら、それだけでお店がいっぱいになってしまう。
　開店祝いに来てくれた友人達にケーキを振る舞いながらも、何度か時計に目をやってしまった。
　友人達が帰り、新しい店に興味を持って来てくれた初めてのお客様の対応をし、夕方になった。もう誰も来ないだろう。予想以上にがっかりしている自分に驚きつつ店のシャッターを下ろそうと外に出ると、いつの間にか花のスタンドが三つに増えていた。え、と思い、よく見ると、増えたのは花ではない。観葉植物……生き生きと大きな葉のあちこちに穴の開いた、エキゾチックなモンステラだった。植木鉢には『始めたからにはやり通せ』の文字が、幼い頃から馴染みのある筆跡で踊っている。
　忙しい家業の合間を縫って、恐らくは料亭の作務衣姿でここまで鉢を抱えてやって来たのであろう父の姿を想像する。
　笑える、と思いながら頬を拭った。

《今日のお花はモンステラです。花言葉は「うれしい便り」「壮大な計画」などで、開店祝いなどによく使われるところから発想しました。》