見出し画像

16歳 月夜のような恋

高校1年生の時、顔はお世辞にも良いと言えないけれど、面白くてムードメーカーな2つ年上の先輩に恋をした。なぜかイケメンばかりのグループにいる面白キャラのような存在。
彼は、他校の高校3年生で、ハンドボールがとても上手く、私たちのコーチの縁で、時々指導に来てくれていた。

おやじギャグも言うし、正直に言ってしまえば不細工な彼だけど、彼の作る雰囲気は暖かくて楽しくて心地よかった。一緒にいて楽しいし、沢山話をしたいと思った。

彼と連絡先を交換して、距離が縮まるのに時間はかからなかった。彼は本当に面白くて、どんどん彼の魅力に惹かれていった。彼のこと好きだなとやりとりするたびに、胸がキュンキュンした。

時期はすっかり忘れたけれど、外は肌寒い季節。
彼は高校卒業後、県外に就職することが決まっていた。

なかなか、ふたりきりで会う時間が取れない中、家族が寝静まった夜に連絡がきた。
"近くに行けそうなんだけど、会って話せる?"

うちの親は厳しい。夜に家を抜け出すなんて、バレたらどうなることか。

それでも会いたかった。ずっと会えていなくて、メールだけのやりとりにもウンザリしていたのかもしれない。

"会いたい"
もちろん答えは決まっていた。
家を抜け出すと決めたけれど、玄関のドアが閉まる音すら怖くて、柔らかいスリッパを挟んで、彼に会いに行った。どうかバレませんように。
今思えば、このスリルが、忘れられない恋に欠かせないスパイスだったのかもしれない。

近くで待っていた彼を見つけると、心が弾んで胸がきゅんとした。
最近どうだったとか他愛のない話をして、彼が県外に行くこと、私のことが好きだということを伝えてくれた。遠距離になるけど、付き合いたいと。

あんなに好きだと思っていた先輩なのに、遠距離になるのが寂しすぎたのか、私は告白を断ってしまう。それでも彼が好きで、それを彼も理解していた。

私はそこで生まれて初めて熱いキスをした。私のすべてが包み込まれ、クラっとするような、とろけるようなキスは、これが最初で最後かもしれないと思えるほどだった。こんなに心が満たされる幸せなキスがこの世にあるのかと16歳ながらに思った。ずっとこのままでいたい。こんな風に愛され続けたい。あんなに好きで想い合っているのに、16歳の私は踏み出せなかった。

きっとお互いが、これが最後と理解していたのかもしれない。
歩いてすぐの広い砂浜にふたり寄り添い、彼の肩に頭を置いて、夜の海を見た。何をせずとも並んで座っているだけで、ただただ幸せな時間だった。途中、薄着の私に、彼の着ていたジャケットを羽織らせてくれ、ぎゅっと引き寄せられた。見える限り水平線の太平洋の海は、月明かりを反射させ、心落ち着く明かりを作り出してくれていた。

そろそろ行かないと。

幸せな時間にも終わらせないといけない時は来る。

車に向かう道、私の家との分かれ道、彼とぎゅっと抱き合った。
これ、貰って。
彼は自分のつけていたネックレスを私につけてくれた。はじめて貰うアクセサリーだった。
この時、彼が何を思ったのかは分からない。この幸せな時間を形にしたかったのかもしれない。事実、このネックレスを見るたびに幸せな気持ちになっていたし、彼のことを思い出した。その後、彼と付き合うことはなかったけれど、私の忘れられない大切な思い出として今も胸に残っている。

肌寒い、月明かりのある夜は、私を特別な気持ちにさせる。


忘れられない恋物語

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?