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02. お腹の不調がつらい50才女性

はじめに:
「中医学タメシテミル」の次の相談者はBさんです。
Bさん、ご自分の体調を正直に書いてご相談くださり、ありがとうございました。しんまいの中医薬膳師ですが、中医学の考え方と雰囲気にふれていただくために、相談内容を読み、仮説だらけですが自分なりに解釈し、対処法を説明させていただきます。

今回のご相談

基本データ

女性 50歳 Bさん 
体格:ぽっちゃり型。身長154cm、体重54キロ、平熱36.6度
アレルギー:花粉・ハウスダストなど
既往症:慢性疲労症候群、慢性扁桃炎(手術済み)
性格:楽観的

気になる症状

最も気になる症状
お腹の不調
:数年前から便秘と下痢を繰り返す。ストレスや緊張で便秘や下痢になる。「家にいるときは症状が和らぐが、外出する日は下痢になる」とのこと。便がでても細い便。残便感あり。少食・食欲不振・胃もたれ・腹の張りの症状は時々あり。一方、みぞおちの不快感・ゲップ・吐き気・腹痛・胃の付近のつかえや痛みなどの症状は無し。
頭痛:「便秘が続くと頭痛がでて、頭痛を薬で止めるか排便できなかったら吐きます」というコメントもあり。頭痛の箇所は「頭全体」。天候は関係なし。

他に気になる症状
慢性疲労症候群
慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome: CFS)という言葉は知りませんでした。大変お辛いと思います。これはきついですね。
運動:全くしない。「運動すると疲れるのでできません」とのこと。
暑がり:傾向として、暑がり・のぼせる・夜に熱っぽいことがある。

それ以外の症状
口や喉が乾く、口内炎ができやすい。時々、咳がでる、息切れがする。
首と肩のこりがある。時々耳鳴りがある。尿の色が濃い・排尿の頻度が少なめ、手足や体が重だるい。好き嫌い:温野菜が嫌いで、他はなんでも召し上がるようです。

該当なし
目の疲れ・充血・クマもなし、のど、身体の痛みはなし、震え・身体の痛みもなし(頭痛以外)、睡眠(眠れる)、三食規則的に食べ・間食はあり・夜食はなし、喫煙・飲酒なし。


弁証

中医学での弁証とは、患者さんの症候やそれ以外の身体の状態を診察して、問題の症候をひきおこしている人体の機能の状態を明確にすることです。その状態の名前を「証」といいます。「証」の用語は、中医学で決まった用語の中から選びます。証を確定する作業を「弁証」といいます。

脾胃気虚 & 肝脾不和では?

Bさんは便秘と下痢をくりかえし、出かける際は下痢となる。便秘が続くと頭痛になる。頭痛を止めると排便ができず吐く、とのことでした。この症状は本当にきついと思います。慢性疲労症候群も重なり、なおさらでしょう。

さてここからの話は、Bさんの大腸に腫瘍や炎症がないことが前提ですが、Bさんの症状は、西洋医学では「過敏性腸症候群」にあたると思います。

過敏性腸症候群(英語表記irritable bowel syndromeの頭文字をとって「IBS」といいます)は、
お腹の痛みや調子がわるく、それと関連して便秘や下痢などのお通じの異常(排便回数や便の形の異常)が数ヵ月以上続く状態のときに最も考えられる病気です。
もちろん、大腸に腫瘍や炎症などの病気がないことが前提になります。

https://www.jsge.or.jp/guideline/disease/ibs.html

しかしおなじ「過敏性腸症候群」の症状であっても、中医学では、Bさんの場合は体内でどういう現象が起きて、その症候にいたったかを考えることが重要になります。(その「現象」の名前を「証」といい、「証」を確定することを「弁証」といいます。)

中医学では一般に「過敏性腸症候群」のように便秘・下痢をくりかえすような症状に結びつく「証」には以下のようなものがあります。

1. 肝鬱気滞(かんうつきたい)
2. 脾胃気虚(ひいききょ)
3. 肝脾不和(かんぴふわ)
4 脾腎両虚(ひじんりょうきょ)

https://www.seishin-do.co.jp/symptoms/irritable-bowel-syndrome085/
  1. 肝鬱気滞(かんうつきたい)は、まず肝鬱(=緊張やストレスで「肝」の気が滞りがある状態)がおきて、その影響で脾胃(ひい。ここでは胃腸とほぼ同義)も調子が崩れ、結果として便秘・下痢になるという流れの現象です。この「証」は、肝のトラブルがメインです。Bさんは、「楽観的」「眠れる」と相談シートに回答しています。また、「目の充血」やら「精神的なストレスによる頭痛はない」(頭痛は便秘由来である)とのことです。これらの状態は「肝鬱」の人の典型的な様子とは食い違います。→Bさんは肝鬱気滞には該当しないと思います。

  2. 脾胃気虚(ひいききょ)は、脾胃のパワーが弱いために、消化機能が低下して下痢や便秘になるという「証」です。下痢:脾胃のパワー不足は、慢性的な下痢、未消化のものが便に混じる、胃のあたりが張る(膨満感)、食欲減退、疲れ(倦怠感)などの状態につながります。便秘:脾胃のパワー不足のせいで、排便する力が不足するので、便秘にもなります。これには「虚秘」(きょひ)という「証」の名もついています。この便秘の場合は「便意があるのに排便困難、便は固くない、排泄後に汗が出て息切れする」という症状がでます。これは、Bさんの回答内容に似ているし、そもそもBさんは消化器官が弱いかたです。ですので、わたしは、Bさんはベースの状態は、脾胃気虚だと思います

  3. 肝脾不和(かんぴふわ)は、情緒不安やストレスなどの影響で肝気鬱結(かんきうっけつ)(精神的なストレスがあると「肝」の「気」がのびやかに流れずに停滞ってしまうこと)がおきて、その影響で脾胃の運化(胃腸の消化機能)が弱まるため、腹の痛み・腹脹・下痢の症状、あるいは大便がすっきりと出ないという状態をひきおこす「証」です。わたしは、Bさんがストレスを感じているとき、これに近い状況がおきていると思います。

  4. 脾腎両虚(ひじんりょうきょ)は、脾の弱りに加えて、腎(生殖・成長、生命維持に関係する、腎臓を中心とした機能。加齢により弱る、水分の代謝を整える)の弱りからくる下痢・便秘です。Bさんは、ストレスの影響(肝の影響)をうけているので、これも該当しないと思います。

ということで、わたしはBさんには  2. の脾胃気虚という証(この場合体質といってよい)があって、それに加えてここ数年はストレスを感じると3.の肝脾不和ような状態が重なる、と考えました。

また、Bさんは、相談シートでは、暑がり・のぼせる・夜に熱っぽい、口や喉が渇く、と回答されています。本来は詳細をうかがってから断言すべきですが、いったん「陰虚」(血・水などの潤いの不足)という状態もイメージしておきます。対処法を考える際は、陰虚を意識して、栄養・潤いを与える食物をとる(補陰)ことも念頭に置きます。


対処法

脾胃気虚、虚秘、肝脾不和、という証に対して対応したいとおもいます。

対処法 その1:食べる

Bさんへ:思うように身体を動かせないという中での対処法なので、まずは毎日の食事で工夫をしてみましょう。消化のよい調理法を選んでいくようにします。(小さく切る。煮込む。肉なら挽いた肉にするなど。)

「肝脾不和」「脾胃気虚」「虚秘」「陰虚」証に対して、薬膳の理論からすすめられる食材をご紹介します。普通のスーパーに売っていそうなものを選びました。Bさんの好きなものが入っていると良いのですが。(以下は一例です)

肝脾不和への対応:「疏肝(行気)」「健脾」の食材がよい
脾胃気虚への対応:「健脾」「潤腸通便」の食材がよい
虚秘への対応:「潤腸通便」「行気健脾」の食材がよい
陰虚への対応:「滋陰清熱」の食材がよい

疏肝
【意味】:鬱結した肝の気の状態をほぐし、肝の気を巡らせる。
【効果】:同じストレスをうけてもスルーできる(比較的気分が楽になる)
【食材】:キャベツ、にら、ピーマン、三つ葉、らっきょう、オレンジ、みかんのすじ(きつらく)、レモンの皮、かじきまぐろ

健脾
【意味】胃を健康にする
【効果】消化機能がよくなる(快便になっていく)
【食材】穀物・雑穀全般、イモ類・豆類・きのこ・肉さかな・発酵食品。
例:うるち米、黒米、はとむぎ、各種雑穀、さつまいも、じゃがいも、里芋、山芋・長芋、大豆、いんげん豆、タピオカ、大豆、豆乳、納豆、枝豆、えのきだけ、おくら、かぼちゃ、カリフラワー、小松菜、さやいんげん、しそ、そら豆、なす、人参、ブロッコリー、マッシュルーム、大豆もやし、れんこん、アボカド、干し柿、りんご、栗、あじ、いか、いわし、うに、鮭、サバ、舌平目、鯛、たら、ヒラメ、ぶり、鴨肉、牛肉、豚のレバー、鶉の卵、卵黄、黒砂糖、氷砂糖、はちみつ、味噌、みりん、など(たいがいのものがはいってる)

潤腸通便
【意味】腸を潤して便通をよくする
【効果】便秘の改善
【食材】さつまいも、りんご、山芋・長芋、じゃがいも、鶏肉、蜂蜜

行気健脾
【意味】滞った気の巡りを促進する
【効果】虚秘による便秘の改善
【食材】レモン、みかんの皮

滋陰清熱
【意味】津液・陰血の不足を補い、内熱を冷ます
【効果】不足した体液(水分)を作り、熱っぽさをさます
【食材】レモン、りんご、梨、キウイフルーツ、バナナ、ごま、白きくらげ、アワ、八いつ、乳製品、豆腐、鴨肉、魚介類

調理法:
Bさんは規則正しい食事をされているようですが、料理はお好きですか?ご自分がつづけやすいスタイルで、なるべくいろいろな食材をとりいれてくださいね。

写真:さつまいもとりんごの蜂蜜煮

さつまいもとりんごの蜂蜜煮の作り方
さつまいも1本を皮ごと3-4mm厚さの輪切りにし水にさらす。りんご1個は皮ごと八つ切にして、芯をとる。レモン一個は皮ごと輪切りにする。あればみかんの皮を少し刻む。水400ccとそれらの材料すべてを鍋にいれて蜂蜜を一回しかけて、蓋をして約20分煮る。(参考:『実用 中医薬膳学』辰巳洋・著)

対処法 その2:動かす

Bさんは「運動は疲れるのでできません」と回答していらっしゃいます。慢性疲労症候群もあれば大変ですよね。ですが、「証」の状態に変化させるのには、体内の「気」や体液を動かすことが とても効果的なのでおすすめしたいです。Bさんの楽観的な性格を全開して、まけないぞ「気」を流すぞ!と思っていただき、座ったまま・寝たままでも出来ることをしてほしいです。前回のAさんへ情報とも重なりますが、以下にご案内します。

  • リンパのマッサージ:「腸活」x「マッサージ」などのキーワードで探してみてください。TVをみながら、あるいはお風呂の中でも。

  • 乾布摩擦:「乾布摩擦」x「腸」などのキーワードでネットで好きな方法を検索してください。タオル1枚。薄い服の上からでよいです。毎日このような動きで摩擦すれば、血行も気のめぐりよくなり姿勢も改善されて、胃腸の状態にも良い影響がでて来るのではないかと思います。参考:『服を着たままでOK!乾布摩擦で健康&美を目指そう!』(ふとん・寝具の西川)

  • その他:寝ながらできるヨガやストレッチもありますね!「寝たままできるヨガ」「寝たままストレッチ」などで動画を検索してみてください。わたしもやってみようかな。

対処法 その3:やすむ

入浴・睡眠・リラックスタイムにちゃんと時間を割くことも重要です。入浴はぬるめのお湯にゆっくりとつかるといいようです。睡眠もしっかりと。

対処法 その4:くすり

「脾胃気虚」に対する方剤としては、Bさんの疲労感なども考えると、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)があっている気がします。「肝脾不和」の下痢(Bさんのストレス性の下痢)に対しては柴芍六君子湯(さいしゃくりっくんしとう)という薬があります。ご興味があれば、専門家のいる漢方薬局や東洋医学を専門とする病院などで相談してみてください。

よくばらずに一つだけ毎日続ける

まずは一つだけでも確実にできそうなことを選び、1週間、毎日やってみてください。続いたら、次に1ヶ月、2ヶ月と、しつこく続けることをおすすめします。30日あれば、新陳代謝で身体のほとんどの部分は入れ替わりますから、不調な状態も、薄皮が剥がれるごとく、うっすらと改善されてくると思います。


最後に

お礼

Bさん、とても辛い体調について教えて下さり、ありがとうございました。この記事のどこかしらが何かのヒントとなり、体調が改善されて行くことを祈っています。

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もしご興味のある方は相談をお寄せ下さい。

参考文献

『食養生の知恵 薬膳食典 食物性味表』日本中医食用学会編著・日本中医学院監修 日本中医食用学会
『実用 中医薬膳学』 辰巳洋・著 東洋学術出版社
『中医臨床のための方剤学』神戸中医学研究会・編著 東洋学術出版社
『漢方的おうち検診』櫻井大典・著 学研
『「赤本」の世界 民間療法のバイブル』 山崎光夫・著 
『中医学ってなんだろう』小金井信宏・著 東洋学術出版社
ウェブ『体質で考える「過敏性腸症候群」』誠心堂薬局
ウェブ『過敏性腸症候群(IBS)ガイド』日本消化器病学会ガイドライン
ウェブ『筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)について』兵庫県庁

※ほか、日本中医学院の教科書とノート

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