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住宅設計者の自分の家づくり 07 住宅の性能

これまでの話は言ってしまえば好みの問題とも言えますが、性能となるとこれは良いに越したことはありません。

では住宅の性能とはなにか、となると、一般的な論として話しやすいのは住宅性能評価で表示される内容になると思われます。具体的にはの10項目になります。もちろん全ての項目において最低限の配慮は必要とはいえ、どの程度のレベルを目指すかは費用との折り合いもあり人それぞれです。

それでは、今回の計画について項目ごとにどのように考えたかを説明します。

構造

構造については、あまり金額に関係なく強くすることが可能です。

特に今回のように1階に個室で細かく壁が入り、2階にLDK関係が来る場合は構造強度を高めやすく、特別な対策をせずとも耐震等級3、耐風等級2となっています。

ただしスケジュールの都合で認定は取得せずあくまで設計上です。
(後日談:地震保険が結構高く、耐震等級3で半額になるのですが、認定を取得していないとこの割引対象にはならずちょっと後悔してます)

耐風等級が3にならなかったのは平面計画上の理由ですが、特に暴風を警戒する地域ではなく、住宅密集地のため暴風雨をまともに受けにくいという側面もあり2で問題ないと判断しました。

また、実験的に住友ゴムのS-PLUSという制振ユニットを採用しています。

制震ユニット

本当はミライエという1ランク上の制振ユニットを入れようかと思っていましたが、階高が低くユニットが物理的に入らなかったために妥協しました。

余談ですが、前回の窓の話で書いたように窓を寄せて大きな壁面を取れると構造的にも有利な設計がしやすいです。

火災

防火については準防火地域ということで2階建てに求められる最低限の法令遵守という内容で対応しています。

もちろん自主的に準耐火建築物などにするということは可能ですが、火災保険の割引はあるものの施工コストや壁厚、使える仕上げなどでの制限が多くなるため採用していません。

特に今回は今のところは喫煙者もおらずキッチンもIHヒーターと屋内に火の出る機器を設置しないこともあり、内部については最小限で良いと考えています。火災警報器も基準上最低限度にしていますが、普段と違う面としてはキッチンの警報機も煙感知にしています。

通常は調理の煙で反応しないように熱感知としていますが、熱感知器の外観がどうも受け付けられず、法規上はどちらでも良いので、実際どの程度問題があるかの実験的な意味合いも含め煙感知にしてみます。

脱出対策は1階は手前の玄関と奥の庭側両方からの避難ができ、2階も同様に奥のデッキ側と玄関側のFIX窓から避難可能です。

玄関側は窓の外に庇があるので、飛び降りるのも比較的容易になっています

劣化対策

劣化対策としては基礎の高さや水廻りの仕上げ、防水などがあります。

一般的には基礎高は地盤より400mm以上が推奨されていますが今回はベタ基礎構造上の告示による最低基準の300mmです。

判断基準としては基礎まで外断熱で基礎や土台が水や湿気に晒されにくいこと、浸水の心配がない地域であることなどがあります。

土台は防腐注入材などを使用する例もありますが、シロアリや腐朽に強いとされる米ヒバの非注入材を採用して地盤から1m以下の木部は防蟻剤を塗布します。

予算に余裕があればヒノキや青森ヒバなどにしたいところですが、これもまた外断熱や防蟻措置、防湿措置も含めてのコストパフォーマンスで米ヒバで問題ないと考えます。

水廻りについては浴室がユニットバスではなく在来型なので少々劣化対策基準上は弱いというか、認定取得するとなると面倒なところではあります。

ただし浴室が1階であること、床下が床下点検口から目視できること、浴槽の排水が浴室床に直接排水するタイプで、浴室の排水口から外部排水桝までもすぐなので排水廻りで不安は少なく特に問題は無いと考えています。

バルコニーの防水は一般的なFRP防水で、サッシ下もしっかりと高さを確保しています。

サッシ下の高さを確保するということはサッシからの段差が大きくなるということですが、ウッドデッキを高めに設置することでサッシの下端と同じ高さでデッキに出れるようになっています。

屋内側のベンチと同じ高さのデッキ

維持管理更新

給水給湯をさや管ヘッダー方式にしていること、基礎下に排水管等を埋めないこと、最低限必要な箇所に点検口を設ける程度になります。

ヘッダーの上に点検口が来ます

温熱環境

断熱については2016年の基準よりも強化し、HEAT20のG1グレードを目指し、外皮平均熱貫流率で0.54W/㎡K(2016基準0.87、G1基準0.56)、冷房機の平均日射取得率2.7(2016、G1基準共に2.8)、暖房期の平均日射取得率3.2(基準なし)、一次エネルギー消費量78.2GJ/年(2016基準94.4)となっています。

断熱方法は壁と基礎は外断熱、屋根は垂木間断熱+付加断熱としています。壁の外断熱は壁厚が増えるため建築可能面積が減る(今回だと各方位9cmの損)というデメリットがあるものの、施工管理のしやすさと経年変化の少なさ、軸組も蓄熱体として扱える(暖房が蓄熱タイプなので)というメリットを優先しています。

屋根は基本的に外断熱にすることが多いのですが、高さの規制が厳しいために2x6の垂木間に下端揃えで10cm厚のウレタンフォームを設置し断熱材の上部を通気層として、垂木下に3cmの付加断熱という形で屋根の薄さと断熱性能を確保しました。

冷房は2階については小屋裏冷房で2階天井からの輻射熱を抑制し、窓からの日射は庇の他に簾等も活用しながら極力室内のエアコンを使わずに過ごすことを目指しています。

1階は日射が少なく床もタイルとモルタルなので基礎の温度に近い環境にできればエアコン無しでも過ごせるかもと考えていますが、少なくとも除湿は必要になると思い寝室にエアコン設置予定です。

暖房は冬場に日射がほぼゼロの1階はヒートポンプ式温水基礎蓄熱暖房に頼り、2階は蓄熱のおこぼれと窓からの太陽熱で過ごせることを目指しています。

空気環境

主にシックハウス対策になりますが、現在建材はほとんどフォースターか対象外ですし、内装はほとんどが左官、タイル、無垢フローリングとなっているためシックハウスの心配は少なく換気量は基準ギリギリで0.5回/hを少々超える程度です。

換気は3種換気(自然給気+機械排気)で臭いや湿気の対策として浴室、トイレ、玄関収納、キッチンが常に負圧になるように計画しています。

性能的には熱交換式の方が良いのですが、壁や天井に目立つ機器を付けるのが嫌なので採用しませんでした。

これは見た目重視の悪い面かもしれませんが、特定の家族が暮らす家においては意匠を性能より優先させることもあると考えています。

以上はコロナ問題が出る前の想定ですが、このようなことがあると換気量はもう少し多い方が良いとか、独立した換気系統の部屋があった方が良いとかいろいろ気持ちに揺れが出てきます。

光環境

性能評価では居室面積に対しての割合、方位に対しての割合で開口率を出しますが、等級などがなく数値を示すだけとなっているように、ほとんどその数値に意味はありません。

基本的に、南風が抜けるような窓の計画、建物上部にこもりがちな熱気を天窓から排出できる計画などをベースにし、何より気持ちよく過ごせることを最重視して窓の位置を計画しています。

2段になっているうち上の天窓が開閉式

音環境

透過損失等級で検討するものですが、今回の敷地は行き止まりの道路沿いで大きな道路からも離れた住宅地で、幸い今の所飛行機の航路からも外れているので外部の音への対策はほとんど何も考えておりませんし計算もしていません。

内部の音が外に漏れることについても夜中にピアノ演奏をするなどの予定もないので特段対策はしておりません。

性能評価には関係ないですが、内部の音環境(反響等)も検討は必要です。

今回は全体的に左官やタイルなど硬い材料が多いために反響はしやすい内装ですが、ベッドやソファ、ラグなどの吸音性素材で調整していこうと考えています。

また、ほとんどドアがないため様々な音が筒抜けになる計画ですが、少なくとも子供が小さいうちは気配が伝わるとポジティブに考えて暮らしてみようと思います。

時間が経つとドアが増えてくるかもしれません。

上下階の音の伝播については木造に於いては過去、防振吊り天井などの採用などもしたことがありますがあまり効果はなく、どうしても必要なら二重天井などが考えられますが、気にしなくて済む間取りで解決するのが一番良いと思います。

今回は子供室の真下に寝室としているので子供側からすると少し嫌な配置かもしれません。

高齢者への配慮

全体に段差は多めで、階段の踏面を25cm確保してゆるやかな勾配にしていることと鉄砲階段ではなく折返しにしていること以外にはあまり配慮していません。

階段廻りはゆとりを持って

祖父母が90歳を過ぎても割と急な階段を上り下りしていたこともあり、健康に過ごせれば少なくとも今後30年は特に問題ないだろうと思いますが、この家で暮らせなくなるほどの障害を負った場合は家を賃貸に出して車いす対応などの賃貸や施設に入るような方向で考えています。

防犯

ハード面ではここは性質上あまり計画をおおっぴらに出来ませんが、必要最低限での対応を考えています。

いまや現金を家に置くということもなく、換金価値があるような品も無いので対策にあまりコストを掛けるのも本末転倒な気もしています。

心理面では玄関が大きなガラス面で双方丸見えというのをはじめ、割と中からも外からも見えやすい窓の取り方にしているのは防犯上はプラスではないかと思います。

仕上げ

以上が性能評価的な内容ですが、それ以外の性能面として仕上げについても言及しておきます。

仕上げの性能で一番考えやすいのはライフサイクルコストで、どんなに安い材料でも毎年更新が必要であれば長い目で見るととても高価なものになってしまいます。

特に外部で補修に足場が必要な場所などはイニシャルコストだけで選ぶと大変なことになり、例えば屋根材を10年に一度のメンテナンスを20年で一度に済むように出来るような材料にグレードアップするならイニシャルコストで数十万円高くても損はしない可能性が高いです。

外壁のメンテナンス期間も屋根と近いものを選ぶほうが良いです。

今回は屋根は変色やサビに20年保証、穴あきに25年保証のフッ素鋼板のものを選んでますが、屋根の面積が小さいこともあり一般的なガルバリウム鋼鈑に比べ10万円以下の差額で済んでいます。

外壁は樹脂系左官材ですが、30年後も色あせが少ない(塗膜劣化が少ない)と謳われているタイプのものでこちらも通常タイプに比べ10万円強程度の差額です。

予算が許せばさらに30万円ほど追加して土系の左官材にしたかったところですが、下地のモルタルで壁の厚みがさらに3cmくらい増すので内部の広さへの影響があることと、軒の出が30cmと小さいために1階の北側などはかなりカビの発生などが進みやすいと想定されるので樹脂系で防カビ性の高い素材の方が合っていると思うことにします。

他にはデッキ材などは最近はメンテナンスが不要な樹脂の擬木タイプにしたがる方が多いですが、やはり足ざわりは木の方が圧倒的に良いです。

今回は耐久性と肌触りを両立するものとして熱処理をした杉材を採用していますが、この商品も半分土に埋まった状態で25年以上普及せずにもっているという実績のある素材でほぼメンテナンスフリーです。

デッキなどはその気になれば自分でも交換ができるので本当は安い杉材などでも良いのですが、今後の施主に擬木ではなく木でもメンテナンスが楽な例として見せるために採用しました。

内装仕上げに関しては個人的に左官の壁が好きで、なるべく見に来るみなさんにも左官を使ってもらいたいという思いもあり壁天井のほとんどを左官にしてますが、性能やコスト面で他の素材に比べて大きく有利かというとそうでもないと思います。

少々の蓄熱や調湿は期待できるものの、掃除はしにくく、ひびは入りますし、部分補修にも向かないのでやり直す場合は最低壁1面の塗り替えになります。

ですが、肌触りの良さ、仕上がり面に対する光の画一的ではない乗り方は他の材料では得難い魅力ですし、ヒビを含めた経年変化も味となるのが左官の良さでもあり… まあ内装はあまり性能面を気にせず自分の好みで選ぶのが一番かと思います。

この質感が左官の魅力です

内装仕上げと性能という観点ですと、収納と寝室のベッドが接する面で採用している桐ボードなどは吸湿や防臭性能とコストのバランスが良く、見た目は好みが分かれるかもしれませんが、収納内はさほど仕上げを気にする場所でもないためオススメです。

次回は照明について書きます。

※この記事は2019年に自社ブログに書いた内容に加筆訂正したものです
竣工後の写真などは下記リンク先でご覧いただけます。


このシリーズをマガジンにまとめておりますので、こちらも併せて是非ごらんください。

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