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住宅設計者の「家と子育て」12 子育て目線の家づくり~家に求める安全性

家の中というのは案外危険が多く、残念なことですが設計由来のお子様の事故というのも年に何度か目にします。

こういった事故は建築基準法を守っているだけでは防げないものも多いのですが、設計上の気遣いである程度避けられるため、不特定多数が購入対象となる共同住宅や建売住宅、賃貸物件などはこのような不慮な事故が起きないように徹底的に安全性を検討するべきだと思います。

一方で、安全性をひたすら追求すると場合によっては使いづらさや見た目の鬱陶しさなどが出て居心地が悪くなる場合もあり、注文住宅の場合は住み手の家族構成や生活様態などによって万人向けの安全性よりは使い勝手や住み心地、見た目の良さなどを優先することがあります。

そこで、自分の家はどうしたかという本題に入ります。

当初はそれまで目に入った痛ましい事故などの影響もありなるべく子どもの安全優先でと考えていたのですが、家づくり計画が始まった時点での息子の年齢が2歳半で、この頃から息子の身体能力やコミュニケーション能力の発達が著しく進歩しだして性格も何となく定まってきました。

特に、自分の身体だとどういうことができるかというような感覚が身についてきたようで、それまでは危なっかしく思えたようなことも「このくらいは大丈夫かも」と思えるような内容が増えてきました。

入居まで1年前後あることも考えると、より「大丈夫そう」な感覚が強まり、よほど気を抜いたら落ちることはあるかもしれないとか、転んでぶつかったときに結構痛いかもくらいは許容するというスタンスで普段の心地良さを優先して計画していくことにしました。

このように、子供の成長過程によって心配の種類は変わっていくというのは育ててみて初めてわかった感覚で、今後もいろいろ考えは変わっていくような気もしますが、ひとまずこの段階で、必ずしも安全とはいえないけど住み心地や見た目を優先してもまあ大丈夫だろうと判断した場所を紹介します。

ベランダ

まずベランダですが、庭の木が出てくるので、よく見えるように手摺は割とオープンな感じにしています。

竣工時

横桟はデッキから120cmと60cmの高さに入っているので、ある程度の背があればそうそう落ちることはありませんが、遊んでいるとボールなどが落ちてしまうこともあり、当面はネットを張って様子を見ることにしました。

ネットを設置

ネットは手摺と同系色のグレーの50mm間隔のものを選んだのですが、張ってみると思ったほど目につかず、いっそ蔦でも這わせてみようかなどと思い始めています。

60cmの位置の横桟が足がかりになるという懸念はありますが、普段の行動を見ていてまあ大丈夫だろうと判断しました。

自分の過去からの予測として、小学校中学年くらいになると柵を乗り越えて飛び降りたりするかもしれませんが、もうこの頃はどんな腰壁だろうと超えていくので、万が一落ちても下は土に砂利敷きなので死ぬことはないかなという感じです。

階段

幼児のいる家の階段ではゲートを最初から設計することもありますが、入居時期が4歳直前で保育園でも階段の上り下りはよくしているのでゲートは無しで大丈夫でした。

オークの階段

形状は折り返しで中間に広めの踊り場があり、万が一落ちても6段分で済むのでそんなに酷いことにはならないかと思います。

段鼻の角は既製品の階段などに比べると角が立っているので、ぶつけるとかなり痛いですが、逆に気をつけて上り下りするような気もするので見た目の好みを優先しています。

玄関と踊り場

踊り場は玄関と空間的に繋がっているので柵を設けています。

この柵も本気で転落を防ごうとすると10cm以下の間隔にしますが、この場所でそのピッチだと空間の繋がりが途絶え、いかにも公共施設のような感じで息苦しくなってしまうので今回は20cmピッチにしています。

抜けようと思えば抜けれますが、ここも性格的に大丈夫だろうという判断になりました。

逆にもう少し大きくなって抜けて遊ぼうとしたときに頭だけが挟まるのは少し怖いので、大人の頭でも抜ける幅になっています。

また、このくらいの隙間があると買ってきたものを一旦置いておくこともできて何かと便利というのもあります。

階段まわりでもう1点、ちょっと危ないかもと思っている部分が階段上の小上がりから手すりを兼ねた棚の上に乗り移れるようになっているところです。

ちょうど柱を手がかりにして簡単に移動できるので、ここでふざけて落ちたりするのは避けたいので、引っ越し当初に危険性についてやや大げさに脅しておきましたが、子どもの性格次第では避けた方がいい計画かもしれません。

生活し始めてからも、室内の階段の腰壁廻りというのは棚やスツールなどを置いていたりすることもあり、割と盲点になりがちなような気がするので気をつけたほうが良いポイントに思えます。

角となる部分は段差やベンチなどところどころにあります。

例えば、階段同様に窓辺のベンチのいわゆる直方体の辺となる部分はほとんど面を取っておらずぶつけると痛いですが、ここも好み優先になっています。

オークのベンチ

ただ、このように角を立てるのはオークやタモなどの硬めの広葉樹だと良いのですが、杉や檜などの柔らかい針葉樹の場合は、角が傷みやすいこともありやや大きめに面を取ったりします。

杉の框

一方、頂点となるような部分はさすがに尖っていると怖いので面を取りました。

一部R面としたステップ

キッチン

キッチンは2歳ころまではバリケードで入りにくくしてましたが、それ以降は常に入れる状況で過ごしていました。

火などへの恐怖感を花火で覚えたのか「熱いよ」というとすぐ逃げていくような性格になったのと、意外にもキッチンの引出を開けることに全く興味を持たなかったので、包丁などもシンク下の引き出しに入れて特にロックなども掛けない状態ですが、ひょっとすると将来的に状況が変わるかもしれないので念のためロックができる包丁差しを採用しています。

まとめ

これが0歳時がいる状態での計画だとだいぶ違った形になっていたと思われ、子どもと暮らす家の安全性と言っても子どもの性格、人数、成長過程によって気にするべき内容はだいぶ変わってくると思います。

子育て中に先を見通すのはなかなか難しいですし、親の考え方次第でも危険と思う箇所は様々なので、ある程度の一般解を念頭に置きながらその時の感覚で考え尽くすしか無いのですが、何を優先するかは設計を依頼する際にしっかり話し合うようおすすめします。


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特に子育て目線ではない自宅の設計経緯をまとめたマガジンです。
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