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『ニンジャスレイヤー』最近どう?

先日、話題の画像生成AI「Midjourney」に関連して、早速これを『ニンジャスレイヤー』翻訳チームが小説の挿絵制作ツールとして使いこなしていることがITmedia NEWSの記事になっていました。

また別の日には、新幹線の車内販売でお馴染みのスジャータのアイスクリーム、通称「シンカンセンスゴイカタイアイス」がJR東海の通販サイトで正式名称として扱われている、と何気なくツイートしたものが1300RTされることなどもありました。

この愛称は、言うまでもなく『ニンジャスレイヤー』に登場するアイコニックな高層ビル「マルノウチスゴイタカイビル」に由来するもので、現在ではいわゆるインターネットミームのひとつとしても親しまれています。

あるいはまた…刺激的な文体でたびたびSNSを賑わせる謎の社会派コラムニスト「逆噴射聡一郎」氏の著作をご存じの方もいるかもしれません。彼は『ニンジャスレイヤー』の国内独占翻訳権を有するクリエイターユニット「ダイハードテイルズ」所属の作家です。

かようにネット上では今もたびたび話題に上る作品『ニンジャスレイヤー』。日本文化と「ニンジャ」を著しく曲解したクセの強い文体で知られるインターネット発の海外小説ですが、実は本作は、先日7月24日にTwitter連載12周年を迎え、今もなお最新作が以前と変わらぬ超ハイペースで公式に翻訳連載され続けている、バリバリの現役作品でもあります。

本記事は、12年のうちの既に9年間以上を熱狂的ニンジャヘッズとして過剰に入れ込んでいる筆者が、差し出がましくも「え~ニンジャ? あのトンチキ日本でアイエエエの小説でしょう?」のようなごく一般的な認識をお持ちのあなたへ向けて送る、2022年8月いま現在の『ニンジャスレイヤー』はどうなっているのかの状況をざっくり要約したまとめ記事です。

『ニンジャスレイヤー』とは――
アメリカ在住のブラッドレー・ボンド氏とフィリップ・ニンジャ・モーゼズ氏によるサイバーパンクSFニンジャアクション小説。近未来の日本・ネオサイタマを舞台に、突如として平安時代の邪悪な魂"ニンジャソウル"を宿して超人ニンジャと化した人間たちと、虐げられた末に自らもニンジャとなり全ニンジャを殺すと誓う復讐者「ニンジャスレイヤー」の戦いを描く。

日本国内では、原作者から翻訳権を得た作家集団「ダイハードテイルズ」所属の翻訳チームの本兌有・杉ライカ両氏が2010年よりTwitterアカウント@njslyr上で、過去に例のない長編小説のリアルタイム翻訳連載を開始。3部作全21巻の原作小説の書籍化、漫画化、アニメ化などを経て、現在も第4部にあたる最新シリーズがTwitterとnoteで連載中。

そもそもどこで読めるの?

その前に、まず原作『ニンジャスレイヤー』がどこで読めて、初めて読むならまず何から読んでいけばよいかというのを最初から案内しますね。

原作小説を連載しているニンジャスレイヤー翻訳チームのTwitter公式アカウントは@njslyr(https://twitter.com/njslyr)です。このアカウントを運用しているのは作家集団「ダイハードテイルズ」で、2016年からnoteを小説発表のメインプラットフォームとして活用されており、『ニンジャスレイヤー』を始めとする彼らの作品の多くがnote上に掲載されています。

2030年代のネオサイタマを舞台に、妻子をニンジャに殺されたフジキド・ケンジが復讐者「ニンジャスレイヤー」となって戦う姿を描いたもっとも有名な3部作は、KADOKAWA/エンターブレインから刊行されている物理書籍版(同電子書籍版)全21巻を通して読むこともできますが、現在はTwitter連載時のアーカイブを公式のnote上ですべて無料で読むこともできます。下記のリンクがその全エピソードの目次です。

このほか、Twitter連載時のログを有志がTogetterにまとめたものを、同じく有志の方が制作したスマートフォンアプリ「NJRecalls」を通して読むこともできます。このTogetterまとめを利用した読みかたは公式にも推奨されており、note以前はこれが未書籍化エピソードを後から追う唯一の方法だったこともあって、今も重宝されています。

ちなみに、この初期三部作に含まれる200話超もの膨大な物語は、実はそれぞれが一話読み切りの単発エピソードとして完結しており、どこでも好きな話から読むことができます。全体としては繋がっているけれども、毎回舞台や登場キャラが異なるオムニバス作品なのです。

一方で、現在連載中の第4部にあたる最新シリーズ「エイジ・オブ・マッポーカリプス(Age of Mappor-calypse)」では、フジキドに代わる新たなニンジャスレイヤーとしてマスラダ・カイという20代の青年が登場し、作中の設定年代も下って2048年ごろの世界が舞台となりました。このシリーズは三部作と異なり、Netflixなどの連続ドラマをモデルとした続きもののシーズン制連載になっており、その連載も既に丸6年を迎えて第3シーズンまでが完結。第4シーズンのクライマックスに差し掛かっているところです。

こちらの最新シリーズから追うなら簡単で、第1シリーズの第1話から順に読んでいくのがおすすめです。残念ながら物理書籍版はまだ刊行されていないため、読書は電子的な手段に限られますが、これも前述のNJRecallsアプリから全話無料で読むことができるほか、ダイハードテイルズ公式によるサブスクリプション制コンテンツ「ニンジャスレイヤープラス」マガジンを購読すれば、連載版に大幅な加筆修正を施した最終稿を、膨大な追加資料や限定エピソードとともに読むこともできます。

まとめると、定番の『ニンジャスレイヤー』から読んでみたい方は第1部の第1話にあたるエピソード「ゼロ・トレラント・サンスイ」を、

最新シリーズの初めから読んでみたい方は、エイジ・オブ・マッポーカリプス第1シーズン第1話にあたるエピソード「トーメント・イーブン・アフター・デス」から読んでみてください。

そもそも『ニンジャスレイヤー』が何なのか、ボンド&モーゼズとは何者なのかの概要から知りたい方は、公式によるこちらのガイド記事を読んでみるか、もしくは有志作成の大変に読みごたえのある「ニンジャスレイヤーWiki」をご活用ください。

ここまでが前置き。

本編はどんな話がどこまで進んでるの?

電子的に鎖国された日本を舞台としていた三部作に対して、現行シリーズ「エイジ・オブ・マッポーカリプス」では世界全土が舞台となりました。かつてのニンジャスレイヤーをご存じの方は、ネオサイタマという都市が初代「ブレードランナー」で描かれたような混沌のメガロポリスとしてのビジュアルイメージで描かれていることもよくご存じかと思いますが、ブレードランナーが『2049』で自らそのSF観をアップデートしたのと同様に、本作もまた2048年に始まる近未来の地球の新しい姿を提示しています。

ある時は東南アジアの謎めいた独裁国家ボロブドゥールで、またある時は魔術ギルドが電子的に支配する旧チェコ共和国デジ・プラーグで、ニンジャスレイヤーことマスラダ・カイはある人物を追う。その中で、彼の知らないかつてのニンジャスレイヤー「フジキド・ケンジ」の足跡との交錯があり、三部作で描かれた強大なヤクザ組織ソウカイヤや、宿敵ダークニンジャが率いるザイバツ・シャドーギルド、そして多くのお馴染みのキャラクターたちがその後どうなったかの事情もここに大いに関わってきます。こうして【シーズン1】では、マスラダとその協力者たちの出会いと現在の世界の様相が順を追って描かれ、その旅路は南米ナスカ高原でクライマックスを迎えます。

続く【シーズン2】では、強力なロシアン・マフィアの親玉でありニンジャ「シンウインター」が支配する極寒のアラスカ・シトカを舞台に、閉鎖された帝国でのニンジャスレイヤーの戦いが描かれる。スーサイドシルバーキーなどの第1部や2部で活躍したニンジャの本格的な再登場もこのシーズンから。ネオサイタマの若き帝王ラオモト・チバ率いる、新生ソウカイ・シックスゲイツの参戦も熱い見どころのひとつです。

【シーズン3】で、戦いの舞台は北米・カナダへ。そこはタイクーンというニンジャキングがカラテで君臨する大ニンジャ王国なのですが、実はこのタイクーンとはアケチ・ニンジャ、すなわち明智光秀本人です。彼はかつてカナダの都市であったエドモントンをその名も「ホンノウジ」と改め、インターネットを全面的に禁止した厳格な鎖国体制を敷いている。そこでニンジャスレイヤーとしての力をほとんど失ってしまったマスラダが、再起を図りながら、時代も場所も超越した明智光秀と織田信長の壮絶なる因縁に巻き込まれていく。

そして連載中の【シーズン4】、フォーカスは再び混沌のネオサイタマに移ります。エジプトで長い眠りから覚めたリアルニンジャ、セトが画策する闇のニンジャ狩りゲーム「ストラグル・オブ・カリュドーン」の標的とされてしまったニンジャスレイヤー。次々に現れる個性的な刺客ニンジャたちとの戦いのなかで、意に反して強制されたゲームの盤面をひっくり返し、セトの真の狙いを打ち破るべく、裏で糸を引く「ダークカラテエンパイア」のリアルニンジャたちとの直接対決に挑んでいく。かつてのニンジャスレイヤー、フジキドも意外な形で乱入し、物語は佳境の第6話「アシッド・シグナル・トランザクション」の連載が完結したところまで来ています。

本編のあらすじは概ねこういった感じ。思えば、Twitter上での12年間の連載のうち6年は現行シリーズをやっているわけだから、じきにフジキドよりもマスラダが主人公の時代のほうが長くなるのですね。

マスラダ・カイは魅力的な主人公で、若いながらも芸術家肌の自由な発想と天性の直感によって、他人に教えられるまでもなく、いつも「だいたいわかって」しまうキャラクターです。その意味では、不器用ながらに地道で泥臭い努力を重ねていたサラリマンのフジキドとは対照的なのですが、しかしマスラダはマスラダで、その無鉄砲さゆえに人より多く傷つき、寡黙にしてその内的な弱さを決して他人に見せないことから、ひとりで抱え込んでしまうナイーブなところもある。ナラクの力を失った【シーズン3】では、彼の人間としての性格が顕著に表れる場面も多く、より身近なキャラになった。

そんなマスラダに寄り添うのが、奔放で素直な性格の自我持ちオイランドロイド(ニンジャスレイヤー世界のアンドロイド)のコトブキ。そしてどうしようもないがやるときはやる男、ハッカーのタキ。何も特別な力を持たないごく普通の2人が、普通さゆえにニンジャスレイヤーの助けになる。
長い物語の中心となる彼ら3人に、旧三部作からの様々な協力者、あるいは敵対者を交えた多種多様の人間模様。その幅と層の厚さこそが、キャラクターエンタメ大河小説としての『ニンジャスレイヤー』の魅力です。

そしてまた、このストーリーに奥行きを加えるのが膨大な量のサブエピソードの数々。これらは前述のサブスク制マガジン「ニンジャスレイヤープラス」で更新される記事として提供されるのですが、そのなかには時系列が本編を大きく遡るような読み切り作品や、連載の形式上Twitterでは難しそうな実験的作品、はたまた「シャード・オブ・マッポーカリプス」のような小ネタ、豆知識を掘り下げたような設定資料集的コンテンツも存在します。

他方、「スレイト・オブ・ニンジャ」と題されたシリーズでは、本編には登場しないある場所、あるキャラクターの短い断片が、いわばショートストーリーとして断続的に連載されています。例えば、死の都と化したロンドンへ探索行に赴くフジキドとユカノ、オーストラリアの荒野でモーターサイクル馬賊として奮闘するイグナイト、ヨハネスブルクで図らずも舎弟を抱えることになったルイナーなど。これも既にかなりのボリュームに達していて、本編ではとても回収しきれない「あのキャラクターの今」を描くのに効果的に働いています。

これら補足作品の奥深さはプラス記事の見出し一覧から読み取っていただくとして、ここでは、逆噴射聡一郎先生の例の独特の語り口による「ニンジャスレイヤープラス」掲載エピソードの紹介をご案内しておきますね。

三部作がTwitter連載されていたころ、週に2日3日とエピソードが並行連載で交互に進んでいくのをとんでもないハイペースと思って読んでいたのですが、今はそれを遥かに超える供給があります。しかもこれが、この12年間ほとんど休むことも途切れることもなく、延々と続いている! 「ニンジャ」ただひとつを源泉として、無限に湧き出るボンド氏とモーゼズ氏によるイマジネーションの実験場、それが『ニンジャスレイヤー』という小説です。

コミック版はどこまで進んだの? アニメは?

さて、ここまでは原作小説の話。現在はこれ以外にも、田畑由秋先生脚本・余湖裕輝先生作画によるコミック版『ニンジャスレイヤー』が秋田書店の「月刊チャンピオンRED」誌上で連載中です。

これは元々、2013年からKADOKAWAの『コンプティーク』誌で連載されていたのが、第1部「ネオサイタマ炎上」編の完結に伴って、異例の出版社移籍を果たしたもの。いくつかある『ニンジャスレイヤー』の公式コミカライズ作品のなかで、最も原作小説に忠実にメインストーリーを追ったシリーズで、原作ファンとしても自信をもっておすすめできます。

特にこの秋田書店版の第2部「キョート・ヘル・オン・アース」編では、漫画ならではの豪快なコマ割りによる高解像度のアクション表現、3DCGモデルを多用した密度の高いサイバーパンク背景描写が極まっており、変な話、小説と同じかそれ以上に、初めての『ニンジャスレイヤー』体験として間違いのないものです。興味のあるかたはぜひ上記の第1巻から。

こちらは現在、単行本最新刊10巻の発売を経て、第2部の後半へ差し掛かる重要なエピソード「リブート、レイヴン」が連載中。この話の原作は、ニンジャスレイヤーを支える中年の私立探偵タカギ・ガンドーの過去を情緒たっぷりに描いたハードボイルド・探偵サイバーパンクSFの傑作で、このコミカライズはニンジャヘッズにとっては本当の本当に、待望のやつなのです。

一方、アニメは2015~16年の『ニンジャスレイヤー フロムアニメイシヨン』以降、残念ながら続編制作の動きはなさそうです。前のアニメ化は賛否こそあったものの、最終話ではニンジャスレイヤーとラオモト・カンとの天守閣上の決定的な決着をTRIGGERらしい全力の作画で描き切っており、わたしは大好きでした。

実際のところ、アニメをきっかけに原作の熱心な読者になった方は大勢お見かけするので、その意味でも「フロムアニメイシヨン」と冠しただけのことはあったなと思います。アニメは別にゴールじゃないからね。ニンジャは息の長いコンテンツなので、この先まだいくらでも再アニメ化の機会もあると思っています。

マルチメディア展開という意味では、翻訳チームが原作小説と並んで力を入れているプロジェクトが「ニンジャスレイヤーTRPG」。わたし自身はTRPGプレイヤーではないため、ここでは短く触れておくにとどめますが、これは原作者(主にモーゼズ氏)監修のもと翻訳チーム自らが開発した公式のTRPGルールブックです。2018年に初版、2021年に第2版が発売され、公式Discordを通じて多くのプレイヤーのフィードバックを受けながら日々拡張されています。

同じゲームで言うなら、2018年に発売された『AREA 4643』もある。

4643は「ヨロシサン」と読み、作中に登場する架空のメガコーポ「ヨロシサン製薬」がモチーフになっています。プレイヤーがマルチバース世界の『ニンジャスレイヤー』登場キャラクター、ヤクザ天狗、イビルヤモト、ドールハウス、またはニンジャスレイヤーその人となって戦う、ステージ見下ろし型の高速アクションSTG。プラットフォームはSteamで、直近では今夏、RTA in Japan 2022 Summerの正式採用種目にもなりました。

めちゃめちゃ活発なファンコミュニティ

ここまで紹介してきた通り、公式展開が現在進行形で充実すぎるほどに充実しているため、オンラインのファンコミュニティも依然として活発に続いています。最も大きなものは、やはり今でも小説の翻訳連載に伴うTwitter実況です。不定期の本編連載開始時には、◆◆◆のスリケンマークがツイートされるや否や、どこからともなくニンジャヘッズが集まってきて、1ツイートごとに一喜一憂するさまを見ることができるでしょう。

この盛り上がりをロングスパンで端的に表すのが、Twitterのニンジャスレイヤー公式アカウントのフォロワー数。詳細は公開されているTwilogのStatsから確認できるのですが、実はアニメ放送当時の2015年に6万人を超えてからほぼ横ばいだったのが、2年ほど前くらいから再び上昇に転じ、2022年に初めて7万人を超えています。このことからも作品人気の根強さが分かる。

実況といえば、実況と感想用の公式ハッシュタグが、2021年より正式に #ニンジャスレイヤー へ変更になりました。初期Twitterにおいてタグに2バイト文字が使用できなかったことの名残りでしたが、初見さんに優しくなったという意味では時代に即したアップデートと言えると思います。

イラストをはじめとする二次創作作品は、以前と変わらず #ウキヨエ というハッシュタグで共有されています。これにより、連載中の作品に関するリアルタイムの挿絵やイマジネーションがどんどん生み出されている。今でこそVTuberのライブ配信などにファンアートタグは欠かせないものですが、これもそのハシリと言えると思います。二次創作ガイドラインが公式に整備されている点も、安心して活動できる理由のひとつですね。

そしてそんな二次創作のまとまった発表の機会となるのが同人即売会。ちょうどこの週末は、夏のコミケ時期に合わせてWeb上でも、かねてからの有志の方による『ニンジャスレイヤー』オンリーオンライン即売会「ニンジャオン」が開催されています(開催おめでとうございます!)。

さらにさらに、各国語向けの熱心な有志翻訳活動と、それに伴う世界的なファン層の広がりもここ1、2年の大きなトピックに含めて良いでしょう。手前味噌ながら、昨年書いた下記の記事で紹介した韓国におけるニンジャヘッズの動向については、内外より特に大きな反響がありました。

韓国ではここ数年のあいだに原作小説の有志翻訳が飛躍的に進行し、三部作の最終章まで完了しているばかりか、連載中の現行エピソードもほぼリアルタイムにハングル訳されています。その人気ぶりは、第2部第2巻までで止まっていた原作小説の公式韓国語版の2年越しの再刊行を後押しするほど。

ウキヨエタグでファンアートを投稿する韓国のニンジャヘッズも増え、ニンジャ実況Twitterタイムラインに韓国語や中国語が入り乱れる光景は、今では当たり前のものになりました。折しも本編が世界全体を舞台とするなかで、読者層もまた広く国際化が進んでいる状況と言え、これもまたサイバーパンクSFというジャンルの持つ同時代性や無国籍性の魅力を示すひとつの姿かなと思います。考えてみれば、日本語訳もボンド&モーゼズ氏の原作に基づく翻訳版のひとつに過ぎないわけですからね。

ファンコミュニティでの様々な二次創作が増えるなかで、個人的にはもっとあってもいいかなと思うのは、朗読。VTuberによるライブ配信カルチャー全盛の昨今、ニンジャほど朗読・実況向きなコンテンツもなかなかないと思うんですよね。公式ガイドラインでも朗読動画の収益化は認められていることだし、ここはぜひニンジャヘッズを公言しておられるにじさんじのオリバー・エバンスさんあたりに、いつか良い声で読んでもらいたいもの!

公式noteメンバーシップ開始

そしてここnoteに関係する最近の大きな動きとしては、「メンバーシップ機能」のサービス開始があります。これに伴い、これまで定期購読マガジンとして運用されてきた「ニンジャスレイヤープラス」を始めとするサブスクリプション制月額有料コンテンツも、2022年8月よりメンバーシップ配下のコンテンツとして整理されることになりました。

noteのメンバーシップは、他の多くのプラットフォームのメンバーシップ機能、例えばYouTubeのそれやPatreon、PIXIV FANBOX、Fantiaなどといったパトロン系サービスと概ね同様で、クリエイターを継続的に経済支援するためのもの。ダイハードテイルズにおいては、これまでも定期購読マガジンが同じ機能を果たしていましたが、メンバーシップ機能内のプランが整理されたことによって、より目的が明確化した印象があります。

ダイハードテイルズのメンバーシップは、例えば『ニンジャスレイヤー』関連作品が過去掲載分も含めてすべて読めるものなら590円/月、他にTRPG関連のコンテンツを集めたもの、それ以外の作品を集めたものがあり、これらを組み合わせた複数のプランから選ぶことができるようになっている。

また、いずれかのメンバーシップに入ることで参加できる公式Discordサーバーもあります。ここではTRPGの各種セッションのほか、翻訳チームのお2人がホストを務める週2回のラジオ配信があり、濃厚なニンジャ談義が繰り広げられている。他にも、逆噴射聡一郎先生が主宰する映画実況会も定期的に行われるなど、今っぽいクリエイターサイドとの双方向コミュニケーションが積極的に図られています。

「ニンジャスレイヤープラス」を最初期から購読しているわたしとして感じることは、彼らの作品の発表速度はまったく異常なほどで、しかもそのペースが途切れることが全然ないから、普通に生活していたら必要なエンタメがニンジャで全部埋まって余りあるほどになる。実際なりました。月590円は他のあらゆる文化的娯楽と比較しても意味の分からないコスパで、実質無料と感じています。

『ニンジャスレイヤー』の旺盛な翻訳活動は、もともと翻訳チームの本兌氏、杉氏がともに会社員生活との二足のわらじであった時代から続いていましたが、現在はお二人とも専業作家として翻訳・執筆をライフワークとされています。物理的な雑誌や書籍上に連載ベースを持たない彼らが、作家として専業化できた背景には、ネット上の強固なファン層の醸成と、ほぼ同時に起こったオンライン収益化プラットフォームの整備・発展があり、その意味でも『ニンジャスレイヤー』は時代の申し子、正しくインターネット小説であると言えると思います。

読もう! 『ニンジャスレイヤー』

以上、長々と本作を巡る近況について解説してきましたが、これでもまだ作品の魅力については少しも具体的に語れていないのが気がかりです…。

この記事の冒頭に、初めて読むならどこからがいいかを書いてみたものの、実際もう、すぐにでも公式Twitterアカウントをフォローしてしまって、流れてくる最新の連載を読んでもまったく構わないと思います。文章に触れていれば、特異な翻訳文体として知られる「アイエエエの小説」が、実は映画脚本のト書きを高度に圧縮したようなTwitterに最適化した140字のグルーヴと、豊かな日本語の語彙と深いイマジネーションに裏打ちされた強い映像喚起力を持っており、しかもそれらが「翻訳文学」という必然を前にして、完全なる表裏一体のものとして構成されている本作の特異性が少しずつ分かってくるはず。

最先端のSFサイバーパンクにとどまらない『ニンジャスレイヤー』の魅力を、あともうひとつだけ挙げるならば、個人的にはこれが自己表現やアートを強く肯定し、創作が導く可能性を信じる物語である点にもぜひ触れておきたいと思います。第1部から一貫して、手を変え品を変えこのモチーフが提示される。

ある時はすべてを失った墨絵師シガキ・サイゼンが最後に瞬きの中で観た神話的光景として、ある時は暗黒ハイクに傾倒するキョートの高校生ナブナガ・レイジの青春のアンビバレンツのなかの苦い記憶として、またある時は冴えないTシャツ屋が啓示めいたニンジャとの邂逅によって世界を自ら変え得る力を得たパンクの逸話として。

特に今のニンジャスレイヤー、マスラダ・カイは、若きオリガミ・アーティストとして活躍する機会をニンジャによって永遠に奪われてしまったという出自もあって、折に触れてこのテーマと向き合うことになります。最新話『アシッド・シグナル・トランザクション』でも、ニンジャのジツによって 侵食されるネオサイタマを、表現者・ザナドゥが空間上に立体的な色彩を描くことでマスラダのオリガミに構図と意味を与え、危機を退ける場面が描かれています。

ザナドゥは心の中でガッツポーズした。そう、これは眺める位置によって構図が無限に変わる、立体の絵画めいた、幻影と色とオリガミのインスタレーションだ。ニンジャスレイヤーのあのオリガミを頼りに、即興で作り出したものだ。あのオリガミの力……だが不思議と、彼の胸には達成感が湧いていた。

あのオリガミには、忌まわしい黃金の光に抗う力がある。ただそれだけでは、ここまで遠すぎて届かない、誰の目にも止まらない。ザナドゥの幻影が構図を与え、意味を増やした。「勝手にやらせてもらったけどよ……コラボレーションって事で頼むぜ。ニンジャスレイヤー=サン」彼は呟き、三点着地。

『アシッド・シグナル・トランザクション』#4-12,13

ニンジャは子を成せないから、自らの死に際して遺伝子(ジーン)に代わる情報遺伝子(ミーム)を残そうとする、という設定もこれら全体に大きく関わってくるものです。生と死の狭間にある霊的な次元「オヒガン」の存在は夢を肯定し、それを電子的に解釈したものこそがインターネット。すべてのクリエイターはニンジャスレイヤーから勇気を得られるよ。

以下、最新のTwitter連載からの引用でこの紹介記事を終わります。さっそく、Midjourneyで生成したAI挿絵を最大限に活用していますね。

この記事は、オンライン即売会プラットフォーム「pictSQUARE」上で2022年8月13日に開催された有志によるニンジャスレイヤーファンイベント『ニンジャオン外伝-VR忍殺島-』へのサークル参加に合わせて書き下ろしたものです。ニンジャスレイヤー公式、およびダイハードテイルズ様とは無関係です。わたしは偶然ここへ来たニンジャヘッズで、怪しくない。

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