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哀れなるものたち(2023)  またもすごい映画に出逢った。

 絶対観ると決めていたがアマプラでなかなか見放題にならないから有料レンタルした。結果、その価値は十分あったと思う。「女性の身体は女性自身のもの」という忘れがちなことを思い出させてくれて嬉しかった。2時間超の尺もあまり気にならなかったのがすごい。

 ただ、一人の女性が成長していく物語としては性的な側面に偏り過ぎな気がしたのと、女優がここまで体を張らないと伝えられないテーマだったのかは少し疑問に感じた。エマ・ストーンが自ら主演とプロデューサーを務めているとはいえ、モザイクもない完全な裸体をスクリーンで披露することで( CG処理されているのかもしれないけどね)、また女性の身体が表面的なエンタメとして消費されてしまいそうな気がしなくもない。過激≠良作だと思うので。  

 それを除けば数々の受賞も納得の出来だったと思う。

 いつも通りあらすじ&感想いきまーす!


〈あらすじ〉

不幸な若い女性ベラは自ら命を絶つが、風変わりな天才外科医ゴッドウィン・バクスターによって自らの胎児の脳を移植され、奇跡的に蘇生する。「世界を自分の目で見たい」という強い欲望にかられた彼女は、放蕩者の弁護士ダンカンに誘われて大陸横断の旅に出る。大人の体を持ちながら新生児の目線で世界を見つめるベラは時代の偏見から解放され、平等や自由を知り、驚くべき成長を遂げていく。

映画.com

<感想>

※以下ネタバレを含みます※
※R18映画なのでレビューもやや過激です※

 成人した身体に新生児の脳を移植されたベラはいわば逆コナンくん状態。映画冒頭で描かれる彼女は奔放で、無知ゆえに残酷で暴力的だ。子供が虫の足をもいでバラバラにするような感覚だろうか。検死用の遺体の目にグサグサとナイフを刺したり、手でカエルを潰したりして面白がる。自分の希望が通らないと大声を上げたり物を壊す。

 ベラはある日自分で快感を得る方法を発見する。ひたすら快楽を追求するベラは、婚約者であるマックスを差し置いて自分を旅に連れ出した遊び人のダンカンと激しく求め合う。オーガズムのことか性行為自体のことか分からないが、ベラはそれを furious jump(激烈なジャンプ)と呼ぶ。すごく相応しい表現だと思う笑。食欲も旺盛で食べたいものを吐くまで食べる。マズローの欲求でいえば第一段階の生理的欲求をひたすら満たしていく。ダンスパーティーでダンカンがどんなにエスコートしても自己流で踊り出してしまうベラが面白くてかわいい。

 旅の中で色々な人やものに触れ、多くの本を読むうちに知的好奇心が向上したベラは、この世界の成り立ちや仕組みに興味を抱くようになる。しかし途中で出会ったリアリストの男性は飢餓に苦しむ人々の姿を見せ、残酷な現実を突きつける。そのあまりの不条理さにベラは打ちのめされ絶望する。それはまさに私たちが大人になっていく過程で経験する苦しみそのものだ。世界に対して抱いていた夢や希望が一つ、また一つとついえていくあの感覚と重なってしんどい。

 この頃ベラの語彙力は信じられないスピードで上昇しており、複雑で抽象的な表現を多用するようになる。ロンドンで帰りを待つ生みの親ゴッドやマックスに向けて手紙で近況報告をするのだが、その内容も幼稚なものから詩的なものへと変化している。「ベラの心はズタズタだ…」と心配そうに呟くゴッドの背中が渋い。

 ダンカンにお金を全て取られてしまったベラは、今度は自ら望んで娼婦として働き始める。欲望のままに男性を求めていた時とは違う、生きるための手段としての性行為だ。望まない相手との望まないプレイ(ダンカンのことを愛していた訳ではないんだけど)を通して、ベラは「男性が求める性的対象としての女性性」という新たな一面に気付いていく。客の相手をする間に倫理学の本を読んでいたり、淫売と罵るダンカンに「自分の力で稼いでるの」と踵を返すベラがかっこいい。

 ゴッドが危篤という知らせを受け、久しぶりにロンドンに戻ったベラ。婚約者のマックスに娼婦をしていたことを打ち明けるが、マックスは「君の身体だから君の自由にすべきだ」と言ってくれる。なんと寛容なのだろう。やっと結婚式をあげようとしたその瞬間、ベラの本来の夫だと名乗る男が尋ねてくる。またもついて行ってしまうベラには流石に呆れたが、彼はめちゃくちゃモラハラ男。ベラの行動を制御するため割礼(性器切除)をしようとしてくる。なんとか逃げ出したベラはこの男にヤギの脳を移植し映画は終了する。

 自由奔放なベラの好奇心を受け入れ、そっと応援してくれるゴッドやマックスの言動が非常に温かく、まるで子供の成長を見守る親のよう。ベラは唯一の家族である二人と愛情で結ばれていたから、安心して外の世界に飛び出すことができたようにも思える。まさに親子間の愛着形成そのものだ。

 子供の好奇心+どこにでも行ける成熟した肉体。世界の綺麗な部分も汚い部分も吸収しながら、ベラは自立した一人の女性として大きく成長する。良識のある社会、良識のある行動とは果たして何なのか。ベラの話を優しく聞いてくれるゴッドとの会話が好きだった。特に旅を終えてからは哲学的でウィットに富んだ会話ができるようになっており、ゴッドもどこか嬉しそうだ。

 強烈なベラの冒険を観てあなたは何を思うだろうか。まとまった時間が取れたときにぜひご鑑賞ください。コメントお待ちしてます。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。




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