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1922(2017) 絶望ネズミ。

 スティーブン・キングの同名小説をNetflixオリジナルで実写映画化。ミストで父親役を演じたトーマス・ジェーンが主演を務めている。私はこれを知ったとき「いやあなた、運無さすぎでしょ」と思わずつっこんでしまった。記事のタイトルだとネズミが絶望しているような感じだが、絶望するのはネズミではなくこの男だ。鑑賞した方なら分かると思うけど、作中で一生分くらいのネズミを拝むことができる。

 妻を殺したことで転落していく男の物語。なんというか、悲劇としての美しさを描いていると思うので個人的にはエンタメ性が高いと感じたし、こういう映画にありがちな「暗い」というレビューにはあまり賛成できない。JOKERも「話が暗い」という低評価をよく見かけるけどその悲哀がいいんだよ!と思う。あくまで個人的には、ね。

<あらすじ>

初老の男ウィルはホテルの一室で、過去に犯した妻殺しの顛末を書き記していく。1922年。ウィルは妻アルレットや14歳の息子ヘンリーと農場を営んでいた。しかし田舎暮らしを嫌うアルレットは、自身が権利を持つ農場の土地を売り払って都会に引っ越したいと言い出す。農場を離れたくないウィルは、強引に土地を売り出そうとするアルレットの殺害を決意。同じく都会行きを嫌がるヘンリーを説得して片棒を担がせ、計画を実行に移すが……。

映画.com

<感想>

※ 以下ネタバレを含みます※

 話はウィルが綴る手記に沿って進んでいくので、ウィルの声でナレーションが入る。私はこういうタイプの映画嫌いじゃなくて、それこそ映像付きで小説を読んでいるような感覚になるので、すっと物語の中に没入することができる。以前紹介したこちらの作品も同様で、思えば全体の雰囲気も似ている。

 舞台はタイトル通り1922年のアメリカ。主人公ウィルの強い訛りや農道を走るキャデラックなど、ちょうど今から100年近く前のアメリカにタイムスリップしたような映像に引き込まれる。まさにアンテベラムに出てくるあの場所のよう。

 妻の殺害シーンや井戸の中で朽ち果てていく死体の描写が結構えぐい。死んだ妻の口からネズミがIN&OUT。一体ネズミに何の恨みがあるんだと思うくらい、作中の至る所にネズミが出てきてウィルと視聴者にトラウマを植え付ける。

 母親殺害に加担した息子ヘンリーも信じられないスピードで地獄へと転がり落ちていく。父親ウィルは不幸になっても息子だけは何とか人生を建て直し、ある日年老いたウィルのところに孫が訪ねてくる…なんてシナリオもありそうだが、この作品はそんなに甘くはない。妊娠した彼女と駆け落ちしたヘンリーは強盗を繰り返しながら都会へ逃亡するが、反撃されて彼女が銃弾に倒れ、絶望したヘンリーもその後を追ってしまう。そして二人ともネズミに顔面を食べられてしまう。見るも無惨な姿となったヘンリーは憔悴したウィルの元へ無言で帰宅する。

 妄想なのかオカルトなのかは不明だが、ウィルが死んだ妻の霊から息子の顛末を聞かされるシーンも良い。まるで殺害した妻に「お前のせいだ」と言われているよう。ウィルは不器用な男ではあるが息子のことを愛していたのは確かで、駅のホームで帽子を胸に当てながら直立し、息子の遺体を乗せた汽車を待つ姿は哀愁に満ちている。ちなみにヘンリーの彼女シャロンの家は裕福で葬儀の参列者も多い。ウィルもきちんと顔を出している。一方で貧しいヘンリーの葬儀にはシャロンの親は来ないばかりか、他の参列者もほとんどおらず、振り返れば死んだはずの妻と大量のネズミが居座っている。ここの対比も悲壮感をよく演出していて良かった。

 もとは殺人を犯したウィルが悪いとはいえ、あまりに最悪な事態が重なる展開に「次はどうなるんだ?」と身構えてしまう。そしてこの映画に限っては何か物音がしたらそれは間違いなくネズミだ。途中からは罪悪感に苛まれるウィルの幻覚ではあるのだが。強気だったウィルは追い詰められていくうちに何もかも失い別人のようになっていく。まるでアメリカ版「人間失格」のようなストーリーだが「神様みたいないい子でした」と言ってくれるマダムの代わりに、死んだ妻とヘンリー、シャロンが恨めしそうにウィルの前に立ちはだかって物語は終了する。

 純度100%のバッドエンドとネズミが欲しい時には是非ご鑑賞ください。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。



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