見出し画像

聖なる鹿殺し(2018)

 噂には聞いていたが、これはすごい映画である。人間の醜いところを凝縮したような内容で、自分も同じ人間であることが嫌になるほど。作中に好感が持てる登場人物がほぼ皆無なのだ。マーティン役のバリー・コーガンの才能には恐れ入る。自分の魅せ方をよく分かってるなぁと思う。「Saltburn」も面白かったのでいつかレビューしたい。

<あらすじ>
 心臓外科医のスティーブン、妻アナと長女キム、長男ボブの4人家族は順風満帆な日々を送っていた。スティーブンは過去の出来事がきっかけで、ある青年マーティンと親交を続けていた。彼を自宅に招き入れたことをきっかけに、子供たちが原因不明の病に襲われてしまう。スティーブンは究極の選択を迫られることになる。

<感想>

※ネタバレを含みます※

 まず最初に感じるのは、青年マーティンのキャラの強烈さだろう。とにかく今までの人生で遭遇したことのないタイプなのだ。一見すると自信がなくて自分を卑下するようなタイプだが、異様なまでに執念深く、一度付きまとったら絶対に引き下がらない。彼を演じるバリー・コーガンの表現力が凄まじくもはや演技とは思えない。何気ない表情から視線の動き、噛み合わない会話、パスタの食べ方。どれも見ていてもゾワゾワする感覚になる

 実は医師のスティーブンは酒を飲んだ状態でマーティンの父親の手術に入り、結果として父親を死なせてしまった過去がある。マーティンはそのことを逆手にとり、なんともあざとく様々な要求をしてくるのだ。

 ある朝、息子のボブが突然下半身が麻痺して歩けなくなってしまう。戸惑うスティーブンを前にマーティンは衝撃の事実を告げる。

「先生は僕の家族を一人殺した。だから家族を一人殺さなければならない。誰にするかはご自由に。もし殺さなければ皆死ぬ。あなたは死なないから大丈夫」

スティーブン以外の家族には以下の順に症状が現れると言う。

1.手足の麻痺 2.食事の拒否   3.目からの出血  4.死

すでに発症しているボブの歩行障害は1の症状に該当するのだ。 

 さてと。この映画が本当にゾクゾクするのはここからだ。ストーリー前半では不気味な青年マーティンにスポットライトが当たっていたのだが、家族間で生き残りをかけたサバイバルが始まっていくと、少しずつ歯車が狂い始め、各々の醜さが露呈していく。

 まずなんと言ってもスティーブンのうざムーブが半端じゃない。マーティンの言うことは絶対信じないマンとなった彼は食べたくないとい言うボブの口にドーナツを押し込んだり「歩けるだろ!オラ!」みたいな感じで無理やり歩かせようとする。妻に飲酒手術事件がバレて問い詰められる時も、少量だから関係ないとか同僚の〇〇もミスしたことがあるとか、言い訳のオンパレード。挙句の果てに子供達のどちらが優秀か学校の先生に聞きに行くというド畜生ムーブをかます。「彼は自分のせいでこんな事態を招いているのに意地でも謝らないんです。もうね、どんどんどんどん腹が立ってくるんですよ」(A氏)

 スティーブンだけではない。みんなここぞとばかりに保身に走る。自分が選ばれないようにするには①父親に媚を売って自分を選ばないようにさせる②マーティンに媚を売って自分だけは助けてもらう、の2択しかない。

 姉キムは幼い弟に「残念だけどあんたが死ぬのよ」的なこと言い、父親にあえて「私を選んでいいわ」と同情を誘う作戦を決行。一時期いい感じだったマーティンには駆け落ちを持ちかける。

 弟もパパに必死の命乞いアピールを始める。映画冒頭で長髪を注意されたボブは、床を這ってハサミを取りに行き自分で髪をちょきちょき切る。「パパ、言われた通り髪切ったよ!!パパの言う通り早く切ればよかったんだ」「僕の夢はパパと同じ心臓外科医なんだよ」やめろ…もうやめてくれ…ボブはまだ幼いこともあってアピールの仕方がストレートで健気なのだ。

 子供達が見ている目の前でマーティンの足にキスをするママ(ニコール・キッドマンだよこの人)。全裸で夫の好きな「全身麻酔プレイ」をしようとしたり、「1人選ぶなら当然子供よ。私たちならまた作れるしねぇ♪」と鬼畜発言。お前いけやお前。

 各々のアピールタイムが終了したが決められないスティーブンは、最恐最悪の方法で選ぶことにする。この記事を書くために再鑑賞したが、あらためていかに後味の悪い結末か思い知った。

 一体誰が選ばれたのか。その答えは是非自分の目で確認してみてほしい。胸糞ゲージ満タン必須だ。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?