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凶悪(2013) リリーフランキー怖すぎ問題。

 普段あまり邦画は観ないけれど、良い評判を聞いていたので遅ればせながら鑑賞。リリー・フランキーが怖すぎてトラウマレベル。もう二度と観たくない映画に見事ランクインした。と言いつつ情報を整理したくて流し見しながら執筆しています。

 チンピラ同士の喧嘩なんて"ごくせん"くらいしか免疫がない私は震え上がった。中盤からの回想シーンは恐ろしいのに先が気になって目が離せない。ピエール瀧の演技も本当に素晴らしい。


〈あらすじ〉

取材のため東京拘置所でヤクザの死刑囚・須藤と面会した雑誌ジャーナリストの藤井は、須藤が死刑判決を受けた事件のほかに、3つの殺人に関与しており、そのすべてに「先生」と呼ばれる首謀者がいるという告白を受ける。須藤は「先生」がのうのうと生きていることが許せず、藤井に「先生」の存在を記事にして世に暴くよう依頼。藤井が調査を進めると、やがて恐るべき凶悪事件の真相が明らかになっていく。

映画.com

<感想>

※以下ネタバレを含みます※

 約10年前の作品ということで、まだ若々しさを感じる山田孝之が雑誌記者の藤井を演じる。自宅では認知症の母と妻の3人暮らし。仕事に没頭するあまり母の介護は嫁に任せっぱなしで嫁との関係はギクシャクしている。この設定も後からじわじわ効いてきて非常に良い。

 冒頭映像で強姦、放火、殺人をやってのけたヤクザの須藤(ピエール瀧)は、現在死刑判決を受けて拘置されている。犯行時の荒々しい様子とは異なり、すっかり潮らしい態度で藤井に頭を下げるが、あの映像を見せられた観客としてはやはり須藤を信じ切ることはできない。実際に「記事にはできない」と言う藤井にブチギレるシーンでは一気に顔つきが変わる。この辺りの緩急のつけ方が、短気で暴力的でありながら情に脆い須藤のキャラクターをよく表している。須藤はその点で後に出てくる「先生」こと木村とは大きく異なっている。

 藤井は上司に反対されながらも、独自に須藤の上告内容について調査していく。拘置場での面会を中心に物語が展開していくが、中盤からは事件当時の実際の映像へと切り替わり、木村、須藤を始め、その他の舎弟たちや被害者に何が起こったのかを描いていく。いつ「ブッこまれるか」分からない緊張感に目が離せない。

 リリー・フランキー演じる木村が本当に怖い。ちょっと高い声でいつも薄ら笑いを浮かべ、須藤のことを「じゅんちゃ〜ん」と猫撫で声で呼んでくる。保険金目的でおじいちゃんの殺害依頼をしてくる家族(もダメなんだけど)に、「お酒飲ませて殺しちゃうから」と抑揚のないトーンで言う木村からは一切の生気を感じない。いや、人間としての体温を感じないのだ。それについていく若い舎弟の日野や五十嵐が少し引いているのがリアルだった。須藤の一番弟子である五十嵐に至っては、ターゲットのおじいちゃんの願いを聞いて一緒に釣りまでしてるのに上の命令とあれば容赦はしない。酒を瓶ごと一気飲みさせられスタンガンで痛ぶられるおじいちゃん。自殺に見せかけなきゃいけないのに皆んな楽しくなってボコボコにしてしまう。もう目も当てられない。

 日野を襲ったことでもう逮捕は免れないと悟る須藤。木村はまた一緒に仕事をしようと話す一方で、五十嵐が闘争資金を求めてきたと嘘の情報を流す。裏切られたと感じた須藤は自らの手で一番可愛がっていた五十嵐を殺害してしまう。これが須藤が木村を恨んでいる一番の理由であり、藤井に捜査を依頼した動機でもある。

 再び藤井のシーンに戻る。何とか上司の許可が降り、須藤の告発内容は記事として出版されることになる。しかしこの頃には藤井はすっかり事件の真相を暴くことに取り憑かれていて、母の介護を任せきりで放置していた妻の心はとうに壊れてしまっていた。「死んだ人の魂なんてどうでもいいよ。私は生きてるんだよ?」と泣き叫ぶ妻がかわいそう。

 永遠のテーマであるジャーナリズムと正義という課題。いつしか藤井の中では須藤や木村に対する怒りが膨れ上がり、制御不能なものへと変貌していた。映画のラストシーンで他の誰でもない木村本人から無言でそのことを指摘され、呆然とした藤井からカメラが引いていきエンドロール。この終わり方は非常に印象的で良かったですね。非常に。

 須藤は教誨師から勧められてキリスト教に入信し「自分は神の啓示を受けた」と言うが、どこか胡散臭く結局反省も更生もしていないところが良かった。ピエール瀧の絶妙な演技が光っていたと思う。

 重厚なストーリーで2時間があっという間。「悪」にもグラデーションがあるのだなぁと感じられる貴重な作品だった。邦画で当たるとなんか嬉しいな。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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