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血の呻き/沼田流人(著)

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北海道のプロレタリア作家・沼田流人(ぬまた・るじん)。当時のタコ部屋(監獄部屋)を主題とする長篇小説。ロマンス要素が強め。 新字・現代かなづかいにあらため、人名や読みにくい漢字… もっと読む
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目次 沼田流人『血の呻き』

上篇第1章 第2章 第3章 第4章 第5章 第6章 第7章 第8章 第9章 第10章 第11章 第12章 第13章 第…

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血の呻き 上篇(1)

血の呻き 沼田流人・著          一  彼は、胸の上に頭を垂れて、ぼろぼろな小さ…

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血の呻き 上篇(2)

         二  瘠せこけた、冷たい指が彼の顔をつついた。 「何だ」  明三は、恐ろ…

血の呻き 上篇(3)

         三  次の日、明三が戸口から出ようとする時、背後から追ついた少女が声を…

血の呻き 上篇(4)

         四  明三は、渇いた者のように酒場に飛込んだ。彼は、誰かに言葉をかけ度…

血の呻き 上篇(5)

         五  赭土の丘の上の監獄では、老耄れた看守長が、彼を待っていた。総ての…

血の呻き 上篇(6)

         六  明三は、その終日を海岸の壊れた倉庫の中で、眠っていた。そして、日が暮れてから、宿に帰って行った。扉の所で茫然立っていたきく子は、走り出て来て彼の手を摑んだ。 「兄さん……。帰って来た。帰って来た。まあよかった。どこへ行ったの」  彼女は、息を切らしながら、せかせかと訊ねた。 「仕事を探しに……」  明三は、沈んだ声で呟くように言った。 「姉さんは、泣いてたのよ」 「泣いて、………どうして……」 「何も、言わないのよ」 「そうかい。お父さんは」 「お父

血の呻き 上篇(7)

         七  彼は、悩ましい思いに充された、心の盃を抱いて、酒場へは入って行っ…

血の呻き 上篇(8)

         八  白痴の茂が、路傍に蹲んでいた。それは、荒れはてた二階建の空屋の前…

血の呻き 上篇(9)

         九  風は煙のように砂塵をまきあげてのろのろと地の上を這い流れた。軒の…

血の呻き 上篇(10)

         一〇  彼は、W町の角で物思わしげな顔をして、向うから歩いて来るきく子…

血の呻き 上篇(11)

         一一  昼過ぎに彼は、看板屋を出て寺へやって行った。  時子は、寺の裏…

血の呻き 上篇(12)

         一二  明け方、明三がまだ眼を覚まさないうちに、靴修繕師の叫声がした。…

血の呻き 上篇(13)

         一三  明三は、走ってD寺にやって行った。軍隊払下の破服を着た男は、あの時のままで、まだ扉の下に踞まっていた。明三は、手に持っていた柳の枝で、蛇でも追うように二度ばかり地を叩いた。  ぼろ服の男は、遂に顔をあげた。 「何だ、茂か」  それは、白痴の少年なのだった。 「いい服を着たね。……いるかい」  彼は、扉を指して、微笑いしながら訊いた。然し、少年は、黙り込んだまま彼の通路を避けて、そのまま背を向けて踞まった。明三は、室に這入った。  時子は、呆然壁を見