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【722回】可哀想に、って(伊坂幸太郎「逆ソクラテス」その5)

伊坂幸太郎「逆ソクラテス」
その5は、「非オプティマス」の続きから。

◯「非オプティマス」で気に入った言葉②

「もし、平気で他人に迷惑をかける人がいたら、心のなかでそっと思っておくといい。可哀想に、って」

伊坂幸太郎「逆ソクラテス」非オプティマス(p180)

僕は北海道に住んでいる。北海道は、町と町が離れている場合が多い。例えば、週末になると、札幌まで買い出しに行くという人がいた。片道3時間半、車を運転して。日帰りで。180kmから200kmくらいの距離を、買い物のためだけに往復する。
「えっ、遠い!」というよりは、「あ、今週も行ってきたのね」という感覚である。

いや、さすがに、毎週はできませんけどね。

各市町村の市街地間も20kmや30kmなど離れている。信号も少ない。道幅も広い。車の流れも良い。となると、自然、車のスピードも出やすくなる。
運転していると、うしろにぴったりとくっつけてくる車に出会う。距離が近い。とても近い。これ、急ブレーキを踏んだら、後ろの車は僕にぶつかるのではないか。時々、右側に寄る。僕を追い越したいのである。近づかれると、焦りそうになる。怖い。ここまで近づくか。ここは冷静に、左側に車を寄せる。後ろの車は、スッと追い抜いていく。見えなくなる。僕はまた、車を走らせる。

「もし、平気で他人に迷惑をかける人がいたら、心のなかでそっと思っておくといい。可哀想に、って」

いや、これだよ!

後ろから煽ってくる車で遭遇した。その時、怖いと思うのをやめた。
「ああ、お腹が痛いのだな。急いでトイレに行かないといけない。これは、ゆずってあげなければ、運転手が漏らしたら大変だ」
「急がないといけない。可哀想に」

恐怖がなくなるわけではない。でも、冷静でいられるときが増えた。


「もし、平気で他人に迷惑をかける人がいたら、心のなかでそっと思っておくといい。可哀想に、って」
何にでも首を突っ込みそうになる。
「あなたの迷惑をやめてください」と言っても仕方ない場面もある。

可哀想に。
または、残念な人だな。
僕はこの人の行為に、エネルギーを使いたくないな。
そうやって心の中で、そっと思っては、相手と距離を離す。
自分が、振り回され続けないように。

僕自身が、逆に、相手に、同様に思われている場合もあるだろうな。
それはそれで、相手の不愉快について、話を聞いてみたい。

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