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【小説】偽ツリー

「「かんぱーい!」」

カチン!と背伸びしたグラスを合わせて少しだけ口に。ユウも私もお酒は飲まないから、
シャンメリーだけど気分だけ。

「もうクリスマスかー。早いね。
結婚してもう1ヶ月くらい経つのか。」

「そうだね〜、丁度11月の25だから、1ヶ月だね。」

「付き合い始めてからだと1週間伸びるけどね。」

「ふふっ。そうだね。私たち、早かったもんね。」

サトミもみーちゃんもまほっちも皆そう言った。
交際期間1週間では危ないって。

「でも俺が言うのもなんだけどさ、
俺になんか、不安とかなかったの?
別にユミも結婚、焦ってたとかじゃないんでしょ?」

「またその話〜?いいんだって、私が
ユウがいいって選んだんだから。」

「まあそれなら俺も嬉しいけどさ。
なんか前の彼氏に結婚前に逃げられた!とか
そういうのあるんだったら知りたいし。」

前の彼氏、かぁ。

「んー。…高校時代にね、丁度今くらいの時期に
付き合ってた人がいたの。」

「えー、初耳。聞いてもいい?」

「いいよ。
そのうち話そっかなとも思ってたし​─────


​───────​───────​───────​───


「あーっ!ようやく冬休みだーっ!」

「宿題もこんなあるけどなーっ!」

「まあクリスマスまで2日あるし、
別にいいけどね〜。」

「うわっ、出た。彼氏自慢!!」

違うって〜!なんてみーちゃんが言ってるけど、
顔が赤い。先週出来た野球部の彼氏のことで
頭がいっぱいなんだろうな。

いいなー。彼氏欲しいなぁー。

「まあでも田舎で彼氏作っても
見に行くとこないけどな。」

「「「それなー。」」」

周り見ても老人ホームと田んぼと山。
こんだけ土地も木もあるんだからせめて
でっかいツリーとかどっかに置けばいいのに。

「おう、美穂。」

「えっ、あっ、おーっ!」

噂をすればなんとやら。

「じゃー、ウチら先帰ってるから、
あとで話聞かせろよー。」

「ごめんね、じゃあまた!」

じゃ、行こっか。うん。

そんな言葉の方に手を振りながら、
やっぱりいいなーって。

「やっぱりいいなーって思ってる?」

「えーっ、やめてよ心読むのー。」

そんな顔してたんだろうか。
いや、顔っていうか昼休みに喋ってたわ。

「まー今年はみーちゃん行っちゃったし、
3人でまたクリスマス会開きますか。」

「いっそみーちゃんと彼氏も呼んじゃう?」

「え、何その地獄絵図。あ、バス丁度来た。
じゃね、ユミ!またね〜。」

「抜け駆けすんじゃないぞ〜!」

「2日じゃ出来ないよ!じゃね〜!」

サトミとまほっちはいいなぁ。
私んちなんであんなバスも微妙な位置なんだろ。

今年もクリスマス4…あ、3人かぁ。
欲しいって言ってるし思ってるんだけど、
なんだかんだあのグループでいるのが楽なんだよな。

そもそもうちの高校かっこいいって思う人いないし。
もっと田舎っぽい顔じゃなくって、
ピシっていうかキリっていうか。

「すいません。」

「ぇあっ!?はっ、はい。なんで…しょうか。」

びっくりしたぁー!周り誰もいないと思ってた。
あっ、でもかっこいい。びっくりしたけど。
こんな田舎に何用で。

「えっと、僕つい最近引っ越してきたばっかりで。
この街の案内とかお願いできます?」

「えっ、あー…。」

小学生の時に聞いた不審者が言うセリフのやつじゃん。

「あのっ、飴とかお礼にあるんですけど。」

小学生の時に聞いた不審者が言うセリフのやつじゃん!

「飴…ですか…?」

「えっ、あっ、じゃあえーと…」

黒のチェスターコートに不似合いな駄菓子が
内ポケットやら胸ポケットから。焦ってるのかわいい。

「わかりました。
案内はしますので、お礼とかいいですよ。」

「本当ですか!ありがとうございます!」

まあ叫べば消防団の人とか聞こえるだろうし。
っていうかこんな無邪気に笑う人いるんだ。
23、24くらいに見えたけど、笑うと子どもみたい。

「行きたいところとか…まあ、ここの周り
何にもないんですけど。ファミレスはなぜか
1軒あるんですけどね。」

本当なんでなんだろう、アレ。

「あっ、じゃあそこでお願いします!」

「はーい。
じゃあここから歩って10分くらいですね〜。」

「え、そんなにかかりましたっけ?」

かかりましたっけ?

「あれ、行ったことあるんですか?」

「あ、あーほら、ユミさんと会う前に
1人で散策とかしてたら、そういえばあったなって。」

「あー、そうなんですね。」

名前言ったっけ?まあでっかい声で喋ってたしな。

「そうなんです。」

「まあじゃあ行きましょうか。
お兄さんはなんでここに引っ越して来たんですか?」

「えー…っと、会社の都合で。ここに。」

「あっ、そうなんですね。
何のお仕事されてるんですか?」

「お仕事…えーっと、木材関係の仕事を。」

へー、意外。線細いのに。

「あーならここはいいかもですねー。
木、めっちゃ多いんで。」

「そうですねー。」

「ここに来る前ってどこで働いてたんですか?」

「東京です。」

東京!?

「えっ、マジですか!?めっちゃ都会じゃないですか!
いーなー。私、ここに子どもの時からいるんで、
でっかい街にすごい憧れてるんですよ〜。」

「そうなんですね。ここもいいと思いますけどね。」

「どっちにもいいとこがあるってことですかね。」

「そうですよ!ここは空気も美味しいし。」

腕広げてオーバーに空気吸ってくれてる。
本当かわいいな。ちょっと変だけど。
なんかいじらしい。

「あはは、ありがとうございます。
でもこの時期なんかだと、東京の方は
ツリーにカップルが大勢、とかなんですよね。」

「えっ?」

「あれ?そうでもないんですか?
ニュースとかでそういうの見たことあって。
勘違いかな。」

「あー、いや、確かにすごいたくさんいますよね。」

やば。田舎者出しちゃってたら恥ずかし。お。着く。

「あはは…あ、あそこです。ファミレス。」

「これがファミレス…。近くで見ると綺麗ですねー。」

外装!?

「綺麗ですか?面白いですね〜。」

「え、あ、そうですか?」

「だって東京の方だって沢山あるじゃないですか。
それに、ファミレスの外褒める人って
初めて見ました。」

「…あっ、食べる所ですもんね!あはは…。
あっ、お金…持ってきてないです…。」

めっちゃ落ち込むじゃん。

「あっ、そうだったんですね。
じゃあ私、奢りますよ。ようこそ記念みたいな?」

「いいんですか!?」

「はい、じゃあ行きましょう!」




とりあえず状況を整理しよう。

あの後ファミレスに入って、とりあえず名前は聞いた。
ジローさん。若いのに昔風ですねって言った。

で、メニュー表見るなりすごい耳動くから
びっくりして聞いたら、「ワクワクしたりすると」。
愛玩用のオモチャみたいだった。

で、凄い勢いで食べて、ごちそうさまでしたって
また笑ってて、外出て。うん、外出て。

「すいません、僕5時までに帰って仕事しなくちゃで、
今日はありがとうございました。
明日も4時頃に今日会った場所で会えますか?」

何故?

「えっ、あ、いいですよ。」

私も何故?

…まあ、悪い人じゃなかったし、いいか。
かっこよかったし。いや別にかっこよかったからでは
ないけども。かわいかったし。それもいや別に決して。

ああもう明日になっちゃ…なった。
変にどきどきしてるなぁ。サトミとまほっち
起きてるかなぁ…。




「あっ、ユミさん!こんにち…なんか疲れてます?」

「いや、昨日ちょっと寝られなくて…。」

「あー、そうだったんですね。」

あんたのせいだよ、とは言えない。

「まあ、そういう日もあるんです。」

「今日はじゃあ、どこに行きましょうか?」

あ、そっか案内。

「んー…正直、ここファミレス以外特に
行く場所ないんですよねー…。」

「あ、じゃあ公園に行きませんか?
昨日帰る時に見つけたんです。」

「あー、あのちっちゃいとこですね。
私も小学校の時行ってました!」

懐かしー。今どうなってんだろ。

「あ、本当ですか?じゃあ行きましょうか。」

「え。」

え!?

「?」

「あ、え…と、手とか、あの…。」

「??」

「あ…じゃあい…きましょうか。」

「はい!」

困ったな。全然嫌じゃないしドキッとした。してる。
あんまりこういう人と関わったことないからかも
しれないけど、全然嫌じゃない。なんか怖くもない。

いや別に公園なら子ども連れの人もいるだろうし
危険とか全然そういうのもないだ

「僕、昔そこで車に轢かれかけて、
通りがかりの子に助けて貰ったことがあるんです。」

「へっ、あっ、あー、そうなんですね。」

「はい!」

あ、耳すごい動いてる。そっか。…あれ?

「あ、地元ここなんですか?」

「え?あっ、いや、
ここみたいな場所でってことです。はは。」

「あー、そうー、なんですね。
東京も村とかありますもんね。」

「そうですそうです。」

「…。」

大丈夫かな手汗とかすごいことなってるんじゃ。
じいちゃん似だからすごい汗かくんだよな…、
小さい頃、猟銃握らせてもらった時すごかった。

…え、あんなんなってたら本当嫌なんじゃ

「あ、着きましたね〜。」

「え、あっ、はい!…うわー、懐かしー!」

シーソーまだあるんだ!
昔っからキーキーいってて壊れそうだったのに。

「遊びますか?」

「えー、もう私たちそんな年じゃないですよ?」

「だって見るからに楽しそうじゃないですかー。」

「しょうがないですね。」




状況整理だ。

遊ぶ、話す、彼氏になる。以上。は?

え、何その現実離れした状況。少女漫画かよ。
でも実際そうだし…え、だって会って2日だし、
相手は年上…って言ってもそんなじゃないけど…。

さっきサトミもまほっちも
「抜け駆けしてんじゃん!後で詳しく!」
って送ってきてたしみーちゃんも「ようこそ」って。

「明日もまたここで会おっか。じゃあね、ユミ。」

ユミだって!名前呼び!
あ、いや名前では呼ばれてたけどそういうんじゃなく。
え、本当…東京ってすごいんだなぁ…。

…東京関係あるかなぁ…。

そっか、彼氏できるってこんな感じなんだ。
何にも手付かないじゃん。SNSも昨日今日、全然。
あっ、そういえば連絡先…は、明日でいいか。

明日でいいかって…。

…えー…。

…イブじゃん。

イブに彼氏と?

あっ、そういえば服何着ていこう!?
イブだよ!?髪とかどういうの好きなんだろう!?

もっと早く会ってくれれば良かったのに!!!




「あれ、今日はなんか、綺麗だね。」

「え、そう?あ…りがとう。」

そういうとこ!

「じゃあ、折角のイブだけど、ごめんね。
今日も1時間だけで。」

「ううん、大丈夫で…だよ。」

「ありがとう。
じゃあ、今日はこの間の分、僕が奢るよ。」

「あっ、本当?じゃあ、お願いします。」

「うん、じゃ、行こっか。」

「…。…うん。」




ねえ、今日はもうちょっとだけ一緒にいたい。

あんなこと言わなければもっと長く彼氏がいたのに。

聞いてはいた。でも嘘だって勿論思っていた。
あんな話は所詮昔ばなしの世界で、実際にある訳ない。誰だって、きっとそう思っている。

狸に化かされてたなんて言ったら
みんな笑ってくれるかな。

…。

…でも、信じられない、嘘つき、馬鹿にしてたの、
は言い過ぎたかもしれない。

それこそ狸相手に何言ってんだろう、だけど。
謝りたい。どうやって?

明日、行ったら会えるかな…。




「ユミー!ご飯よー!」

「はーい…。」

ジローさん、いなかったな…。

帰り際にみーちゃんと彼氏とすれ違って、
泣いちゃってたの、見られてなかったかな。

…寂しいな。

「ほら、ユミ。今日はなんだかクリスマスだって
いうのに落ち込んでたから、おじいちゃん張り切って
久しぶりに狸とってきたのよ。ほらあったかいお鍋。」

「狸!?」

「わっ、どうしたの、そんな声出して。」

狸なんてここら辺じゃ珍しくもない。
でも、今日はジローさんが来なかった。
もしかして、いや、だって毎日来てたのに。

「ごめん、ちょっと私、行ってくる。」

「行ってくるってどこに…ちょっと、ユミ!」




「ジロー!ジロー!」

なんで今日に限って来てくれないの?早く来てよ。
いつも居たじゃん。1時間だけって、
どんな見た目だっていいから。

「ジロー!私怒ってない!怒ってない…から!」

ああ、涙が出てくる。声出にくいよ。

「ジロっ…じろぉ…!来てよ…!」

痛っ。

「なんでこんなところに木なんk

クリスマス…ツリー?

「なんで…?でもなんか…飾り付けとか変…。」

わっ。消えた。…!

「…ジロー?」

こくこく、と頷く。この耳は、ジローだ。

「…ごめんね、この為に今日はいなかったんだ。」

こくこく。

「でも、人の姿で会ってくれてもよかったのに。」

かりかり…、あ、話せないから木の棒で。

「ひとにばれたらおとなになるまででられない…
そっか、そういうのがあるのね。」

こくこく。

「じゃあ、今日はなんでこれたの?」

かりかり。

「かくれて…だめじゃん、それじゃあ!
…じゃあ、大人になるまでもう会えないのかな。」

しゅん、としている。
そっか、だから子どもっぽかったんだ。

「ありがとね。ジロー。大丈夫。
私たちきっとまた会えるよ。」

こくこく。

「…じゃあ、また大人になったらね。
ツリーありがとう。綺麗だったよ。」


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「それで、その後帰ったらお母さんがね?
ユミ、あのね、今不思議なことが起きて、
狸のお肉がお菓子になっちゃったの、って。」

「そんなことがあったんだね。」

「そうそう。だから多分、ジローは化かすのが
上手だったんだろうね。最初に私に見せたもの
ばっかり鍋にあったの。」

「なるほどねー。じゃあ助けられたっていうのも
実はユミにだった、とかもあったりしてね。
…で、そのあとジローには会えたの?」

「んー?…ふふっ、わかんない。
あの後こっちに上京してきちゃったから。
でも化け狸は長命だっておじいちゃん言ってたんだ。」

「じゃあいつか会えるといいね。」

「あはは。そうだね。」

面白い人だな。ユウは。
名前も今風にしちゃって。耳、癖は変わらないんだね。


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おはようございます、こんにちは、こんばんは。
又ははじめまして!えぴさんです。

昨日に引き続き本日もこちらの企画に参加。

すいません本当、字数多くて💦
楽しんで読んで頂いていれば幸いです。

それではまたお会いしましょう、
以上えぴさんでした!

創作の原動力になります。 何か私の作品に心動かされるものがございましたら、宜しくお願いします。