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freeeの評価が断トツ?!PSRで日本の主要なSaaS上場企業を比較してみた(時価総額1,000億円以上編)

足元では少し落ち着いてきた感もありますが、近年は未上場企業でもSaaS企業を中心に高いバリュエーションで資金調達をする例も多く、”SaaS” や ”サブスクリプション”は、ビジネスモデルとしても一般的なものになりました。

今回の記事では、SaaS企業価値評価の中でよく用いられるPSRという指標を基に、日本の上場企業の比較をしてみたいと思います。

SaaSは投資家にとっても投資がしやすい?!

比較に入る前に、まず投資家から見たSaaS企業の特長を軽く説明します。

■投資家から見たSaaS企業の特長
① 特有のKPIや共通言語があり、理解や評価がしやすい
② 将来の数字をはじきやすい
③ 上場時や上場後もバリュエーションがつきやすい

① 特有のKPIや共通言語があり、理解や評価がしやすい

SaaS企業には主要なKPIや共通言語があります。これは、Salesforceをはじめ海外の代表的なSaaS企業のおかげであり、サービスの違いはあっても、ある程度共通の物差しで会社を評価することができます。

② 将来の数字をはじきやすい

多くのSaaS企業は月額課金型(いわゆるストック型)のビジネスモデルであり、単発案件の積み上げで構成されている売上高よりも安定的で、主要なKPIと合わせてみることで将来の予測がしやすいという特長があります。

③ 上場時や上場後もバリュエーションがつきやすい

SaaS企業の時価総額(バリュエーション)は、参考となるマルチプルが一般的になりつつあり、将来の数字がある程度計算できると、どれくらいの時点でどれくらいの時価総額になるか(投資家からするとどれくらいのリターンが得られそうか)の予測が立ちやすいという利点があります。

また、経営者側にとっても、資金調達面でメリットがあるほかに、ある程度安定的な売上高を見込むことができれば将来への投資もしやすく、重要なKPIや事例も世の中に出回っているので、会社の状態理解や意思決定がしやすい(つまり相対的に経営しやすい)面があることも、このようなビジネスモデルが増えている一因な気がします。

以下では、SaaS企業の評価をする際に用いられる代表的な指標である”PSR”(時価総額÷年間売上高)を用いて、日本の主要なSaaS企業を比較します。SaaS企業の財務数値を見る上でのポイントも付けたのでご参照ください。

■SaaS企業の財務数値を見る上でのポイント
・SaaS企業の企業価値はPER(時価総額÷当期純利益)よりもPSR(時価総額÷年間売上高)に相関する
→目先の利益よりも売上高の成長を重視
・売上高の成長率が非常に重要
・解約率(Churn rate)が低いことが重要(超優良SaaS企業は1%未満)
・直接原価が少なく、粗利率が高い(優良SaaS企業は一般的に70~80%)
・40%ルール(売上高成長率+営業利益率>40%)が一つの目安

→成長しないのに赤字はダメ

freeeの評価がずば抜けて高い?!

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こちらは、時価総額と年間売上高(ARR、年間のストック売上高)を比較した指標”PSR”を企業間で比較したグラフです。

これを見るとfreeeの評価が圧倒的に高く、一方でユーザベースは売上高に対して時価総額が高くないのがわかります(ユーザベースに関しては、1,000億円未満ですが、これらの会社と比較したかったため入れております。また、ユーザベースに関しては別のNoteに記事を書く予定で、今回の記事では取り扱いません)。

なお、優良SaaS企業のPSRの目安は10倍程度なので、マネーフォワード、ラクス、sansanは優良SaaS企業としてのしっかりと高い評価を受けているものと思われます。

つまり、他が低いのではなく、freeeがとびぬけて高いということです。

(今回、直前四半期のストック売上高を元に推定した年間売上高を用いてPSRを計算しております。ストック売上高以外も含めた売上高や業績予想等の数字を基に算定した場合とPSRの値は異なります)

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【飛ばしてOK】細かい補足事項:
・会社の選定は特に意味はありません。他にもSaaS企業はありますが、あくまでその一部を抜粋しております。
・PSRを計算する際の「年間売上高」は直前四半期(3ヵ月)の実績を年間に引き伸ばした数字を使っています。
・「年間売上高」にサブスクリプション売上高の率を掛け合わせた数字を「推定ARR」とし、「PSR」は「時価総額」÷「推定ARR」で計算しています。
・ARRとはAnnual recurring revenueの略で、年間のストック型売上高を指します。MRR(Monthly recurring revenue)は月のストック型売上高です。
・単純に業績予想の売上高等をベースに計算した場合と値よりも、PSRの値は大きくなっていますが、あくまで会社間比較のためです。

上の「SaaS企業の財務数値を見る上でのポイント」でも記載しましたが、SaaS企業は、売上高成長率と営業利益率を足して40%を超えているかが一つの目安と言われています。所謂「40%ルール」というやつです。

SaaS企業は、一般的に粗利率の高いソフトウェアを提供しているため、高いマーケットシェアを取ることで、将来多くのキャッシュフローが見込まれます。

したがって、マーケティングコストやソフトウェア開発コストをかけて赤字になってでも早くマーケットシェアを取る方が中長期的に企業価値向上に資する場合があります(もちろん解約率が低いことが前提であったり、ユニットエコノミクス(Sales & Marketingの効率)が健全であることが求められますが)。

特にスタートアップだと、赤字の会社がほとんどです。というか、利益を出して内部留保するくらいなら、早く売上増やすために投資をしろという発想です。

ただ、やはり無制限に赤字を出していいわけではなく、費用対効果のことも踏まえると、売上高成長率と営業利益率を足して40%を超えていれば、赤字であっても、健全な投資の範囲内だよねという目安になります。

マネーフォワード、ラクス、sansanはほぼこの水準を満たしていると言えそうです(ユーザベースはサブスクリプション以外の売上の減少により、売上高成長率が低く出ていますが、サブスクリプション売上高に限定すれば、40%ルールの水準を満たしています)。

これらの企業がしっかりと市場から評価されている理由は、売上高成長率と営業利益のバランスを見た上で、優良なSaaS企業として評価されている証左だと思います。

一方、freeeは売上高成長率は48.3%と、安定的に高い成長を続けていますが、赤字額も大きく、40%ルールと比較すると直近の数字は大きく乖離しています。

では、freeeが時価総額の点で他社よりも評価が高い理由はなんでしょうか?

1つは、市場規模かなと思います。freeeは会計システムだけではなく、管理系の統合型ソフトウェアとして、確かに市場規模も大きそうです。また、同社のIR資料を見ると、今後「取引プラットフォーム」「金融サービス」へと進化させていく中長期的な絵がうかがえ、それに伴って、狙える市場が広がることが見込めます。ただ、現時点でMoney Forwardやその他の企業とそこまで差が出るほどの違いを生んでいるようにも思えません。

手元のキャッシュは非常に潤沢ですが、これも差を埋める説明には不十分です。

ということで、freeeのPSRがなぜ他社と比べて2倍程度も高いのかが良くわかりません、、、

正直言うと少し高すぎなのでは…??とも思いますが、現時点を切り取るとここまで他社と差があるのも事実です(直近でコロナの影響でリード獲得のためのイベントが中止になり、売上は5/15に下方修正しているので、少し下がるかもしれませんが)。

では、なぜfreeeは他の企業よりも評価されているのでしょうか?上記の数字には表れていない点で一つ仮説を出したいと思います。

freeeの高評価は海外機関投資家の心をがっつりつかんでいるから?!

それは、中長期的な絵も含めて海外機関投資家の心をがっつりつかんでいるからというものです。

語弊があるかもしれませんが、freeeは個人投資家の評価は置いておいて、理解ある一部の機関投資家(特に海外投資家)に振り切っていると思います。

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(「株式会社マネーフォワード 2020年11月期第1四半期 決算説明資料」2020.4.14より抜粋)

まず、マネーフォワードの株主構成をみると、機関投資家比率が非常に高いです。機関投資家とは、企業に投資をすることを仕事で行っている、要はプロの投資家です。半数を超える機関投資家比率というのは非常に高い水準です。

もちろんビジネスがしっかり成長しているのが前提ですが、非常に著名で聡明な経営陣の方々なので、機関投資家とのコミュニケーションも非常にうまくいっているのだと思います。

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(「freee株式会社 2020年6月期第3四半期 決算説明資料」2020.5.15より抜粋)

次にfreeeの株主構成を見ると、66.1%が機関投資家です。機関投資家比率は、非常に高いマネーフォワードよりもさらに高く、経営陣等を除くと、個人投資家はなんとたった5%しかいません(ちなみに東証は世界で断トツで個人投資家比率が多く、freeeの属するマザーズでは70~80%が個人投資家です)。

また、特に海外の機関投資家の比率(47.3%)が高いことがわかります。経営者等を除いた株主の中ではなんと8割は海外の機関投資家が持っているということになります。日本のマザーズに上場していながら、投資家のほとんどは海外のファンド等ということです。

ちなみに、sansanは海外の機関投資家比率が27%、ラクスは13%です。これも決して低い数字ではないですが、freeeと比較すると構成がずいぶん異なることがわかります。

もちろん個人投資家も重要です。個人投資家は投資単価が小さい一方で、数が多いので、個人投資家が多いと一般的に株価は安定します。機関投資家は良ければ買ってくれますが、悪ければすぐに売る方もいます(仕事なので当然です)。一部のヘッジファンドは良くてもすぐ売ります。

一方で、freeeの場合は、以下の点で個人よりも、理解ある一部の機関投資家を重視した方が合理的なのだと思います。

① 大きく赤字を出してでもグロースを優先させたい
② コンシューマー向けのサービスがない

① 大きく赤字を出してでもグロースを優先させたい

freeeは大きく赤字を出しています。どうしても一部の投資家(特に個人投資家)から、赤字は嫌われます。今でこそSaaSではスピード感を持ってマーケットシェアを取るために、赤字になってでもマーケティングコストやソフトウェア開発コストを先行的にかけるのが当たり前になりつつありますが、それもあくまで一部の理解のある投資家の中での常識です。
理解を得るのが難しい投資家に向けて、反発を受けつつ、啓蒙しながらIR活動を行うのはどうしても骨が折れます。これはまだ赤字のマネーフォワードも海外の機関投資家比率が高い一因と思われます。

② コンシューマー向けのサービスがない

マネーフォワードがコンシューマー向けのサービスも提供している一方で、freeeは個人事業主の顧客は多いものの、コンシューマー向けにはサービスを提供していません。個人向けに何か施策をするメリットも相対的に低いです。

海外の機関投資家を味方にすることで、もう一段高上のフェーズへ

実は、freeeは上場時から海外の目の肥えた機関投資家をターゲットに、グローバルオファリングを行い海外投資家からも資金を集めています

「今年唯一、しかもSaaS業界初のグローバルIPOとなった。財務戦略として意義深いと感じている」佐々木CEO

もっとも現時点の株価が、上場時の公開価格2,000円から半年で2倍になっている状況を踏まえると、上場時だけでなく、継続的に海外機関投資家向けのIRを重視して行ってきたことがうかがえます。

つまり、「上場時から一貫して財務戦略やIR戦略上、継続的に海外の機関投資家とコミュニケーションを取り続けている成果として、海外の機関投資家の高い支持を得ていること」が少なからず現在の評価(株価)にも表れているのではないでしょうか。

また、先ほど比較対象にしたマネーフォワードですが、マネーフォワードも直近でM&A用のまとまった資金調達(49億円)を海外の投資家から行っています

https://ssl4.eir-parts.net/doc/3994/tdnet/1785184/00.pdf

機動的に多額の調達ができるABBという方法をとっていますが、海外の機関投資家からの高い評価が必須です。

もちろんやろうと思ってすぐできることではないですが、今後日本のSaaS企業がもう一段階高く評価されるためには、目の肥えた海外投資家を味方につけることが有効な手の一つかもしれません。

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このNoteでは、Financeを武器にしたいビジネスマンや経営者向けに、企業分析や企業価値評価に関する記事をあげていきます。もしよろしければフォローいただけるととても嬉しいです!

次回は、ユーザベースのPSRが低い理由、1,000億円未満の企業の比較の記事を出す予定です。

■過去の記事例

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スタートアップで働く公認会計士 ■配信頻度:週1~2本程度 ■記事の内容:ビジネスモデル(SaaSなど)の分析、決算書の分析■数字に強くなりたい!と思っている方に役に立つようなnoteを目指しています

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