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ゆるく語る映画の感想シリーズvol.1「春に散る」

※この記事は”ネタバレあり”で書かせていただきます!
ネタバレしてほしくない方はこのまま閉じてください。


予告からめちゃくちゃ気になった映画「春に散る」を公開日に観に行ってみた。

横浜流星、佐藤浩市のW主演映画。
ボクシングを題材にした”一瞬”を全力で生きたいと思う人間の熱を極限に燃やした映画となっております。

各カテゴリーごとに書いていきます。

◆ストーリーについて

ストーリーは所謂、スポ根ものを主軸とした物語。
佐藤浩市演じる元ボクサーの「広岡仁一」と横浜流星演じるブランクありのボクサー「黒木翔吾」が共に世界を目指す。

二人の出会いはとある居酒屋でのこと、40年ぶりに日本に返ってきた広岡が喧嘩に巻き込まれ、そこで自衛のために使ったボクシング技術を目の当たりにした、黒木が弟子入りを頼むところから始まる。
いきなりだが印象に残っているのはたまたま広岡と1戦交える事となった黒木がきれいなクロスカウンターをもらうシーン。
思わず「おっ!」とうっかり声がでてしまったくらいの衝撃だった。
このクロスカウンターがこの後も要所要所にでてきて、本作のボクシングシーンではキーになっている。

そこではあっさり別れてしまう二人だが普通はあそこで別れたら、もう二度と会えないところを偶然とはいえまた出会えてるからそのあたりはご都合主義だなと思う。映画なので仕方ないと思うが、もう少し自然でも良かったかも。

次のシーンでは広岡はかつての旧友と順番に再会を果たしていく。
哀川翔演じる「藤原二郎」と片岡鶴太郎演じる「佐瀬健三」の二人だ。
この二人がまた良いキャラしている。
特に鶴太郎の演じる「佐瀬」がとても良い感じでこの人がこの映画でのバランサーの役割をしている、彼がいるだけでそれぞれの関係性や物語が成り立ってると思った。

久々の再開を通じて、実はそれぞれの人生に色々あったことわかるが、ここで広岡が心臓に病気を持っており長くは生きられないことが判明する。
ボクシングを教えることを拒む理由もそこにあったのだ。

その後は何度も黒木が教えてくれーと何度も突撃してくる。
このシーンはちょっとコミカルなところもあり面白い。
そこで黒木と広岡が同じ境遇でボクシングから離れたことがわかる。
理不尽な判定で負けを経験し、広岡は日本を離れて米国へ行き引退をしたが、黒木は再デビューを望んだ。

「俺には今しかないんだよ!!」
このシーンは観ててとても熱いものを感じた。
THEスポ根なセリフかもしれないが、伝わるものが確かにあったのだ。

渋々、練習をみることになる広岡だったが、次第に協力的になっていく様になり、内心はこうしたかったと本音の姿だったのだろう。
ひたすら練習、練習、練習の繰り返し(スポ根はこのシーンが一番おもしろい)ついつい観ている自分も体が動いてしまう、映画館では本当に迷惑なやつ担っていたと思う。

一度はかつて広岡たちが所属していたジムに入る予定だったが、そこで世界戦を控えた東洋太平洋(OPBF)チャンピオンである優秀な選手とのスパーリングで爪痕を残す(ここでもクロスカウンター。というか相打ち?)
すると、その相手から目の敵にされ逆指名で試合をする件はだいぶ早送りだが、この辺は時間的に仕方ない。
復帰して1試合挟んでいきなりOPBFのタイトルマッチだし、そこに勝ったらすぐに世界戦ってというかなりラッキーな状況。
試合自体は割りとしっかりやるのですが、スパーでやったクロスカウンターをチャンピオンが狙ってダウンを取ったり、黒木が練習で身につけた左フック対策のボディブローも出るし、伏線回収があるのも面白い。
わかりきった展開かもしれないが、練習でやったことが結果につながるのは観ていて気持ち良いものだ。
無事勝利をするのだが、その後黒木は目に病気があることが判明。
ボクシングものあるあるだが、網膜剥離の一歩手前という状況に。(一応簡単な治療すれば試合はできるレベル)
もちろん顔面にパンチを喰らえば失明の可能性も高い。
それでも試合をしたい黒木と先のある黒木を潰したくない広岡。
このあたりはまるで親子喧嘩のようで、二人の関係が深まったようにも見えた。
その後に広岡が倒れ、黒木も広岡の心臓の病気を知る。
奇しくもお互いに似た境遇となり、覚悟を決めた二人を止めるられる者はおらず、世界戦に向けて黙々と準備を進めるシーンは残り僅かなローソクの火が勢いを増すように、どんどん熱量が増していく。

そして迎えた世界戦、対戦相手である窪田正孝演じる「中西利男」はいかにも強そうなオーラがある。
試合前は飄々としていて謎キャラだったが、練習シーンで垣間見えていた人間らしさが試合となるとより人間らしくなり熱い男だということがわかる。この試合で個人的には中西がかなり好きになった。

試合はテレビで観ているような本格的な角度で臨場感もあり、もうどっちが勝っても面白かったと言えるような名シーンになっている。
ここまで絡んできた全ての人がこの試合を中心に手に汗を握って応援している姿は映画館で見ている人も巻き込んでいき、まるで同じ試合会場にいるような感覚になっただろう。

白熱した試合は判定となり、新チャンピオンとして黒木が勝つ。
何かを成し遂げた瞬間は例えフィクションであっても、称賛の拍手したくなる。
しかし、試合後に黒木は目の病気が悪化してしまう、これまで息子が殴られる姿は観たくないと拒んでいた坂井真紀が演じる黒木の母親の心配する姿はリアルだったが、目の病気が酷くなることはわかっていてもやりきった黒木の顔は清々しかった。

一方で広岡はひとり病院を抜け、桜の木の下で亡くなってしまう。
あまりにもあっさりとしたシーンで度肝を抜かれたが、この試合に向けて広岡も戦っていたんだなと思った。

試合から半年後、黒木は社会人として新たなスタートを切っていた。
走り込みをした場所を通り、亡くなった広岡を思い出し、
「わかったよ、走るよ」と一言、そして涙をこらえて前に進む。
黒木はまだ広岡が亡くなったことのショックを受け止めきれてないかもしれないが、それでも広岡が教えてくれた前に進む気持ちを胸に社会人として再々デビューをするのだ。

◆役者について

横浜流星といえば、元々格闘技に精通しており、本作の公開前にはボクシングのプロライセンスも取るほどのストイックさを持つ俳優。
彼の演じた黒木はブランクがある状態から、徐々に体のキレを取り戻し、試合が決まると更に研ぎ澄まされていく様子が伝わってくるのは流石だった。

ボクシングへのストイックさと真面目さ、また家族思いの優しさ持ち、時に感情的になるシーンもあるが、一本芯が通った気持ちのいい青年を演じるに当たり、横浜流星の右に出るものはいないかもしれない。
身勝手さが時に自分に返ってきてしまうこともあるが、周りを巻き込んで応援させたくなる不思議な魅力も横浜流星だからこそ違和感なく発揮できていた。

一方で佐藤浩市に格闘技のイメージはあまりなかったですが、レベルの高いボクシングをやっていたと想像できるくらいベテランのテクニックが光る場面が多々ありました。
実際ボクシングをやってる人からしたら、もしかしたらそうでもないかもでしれないが素人の私にはすごいことをやっていると思わせるには充分なレベルだったと思います。

またこの映画の中で広岡は終活をしている印象でした。
過去同じ釜の飯を食った仲間の生活を気にしたり、自身と似た境遇の黒木を世界チャンピオンにすることで自分が成し遂げられなかった自分のボクシングの理想を叶え、残されていた家族のことも姪の手で終了したことを見届けていた。
思い残すことなくやり遂げた最期の顔は本望だったのかなと思いました。

そして、主演である二人以外に特に気になったのは世界チャンピオン中西を演じた窪田正孝です。
飄々としつつも、どこか憎めない性格。
底の見えない感じが相手に恐怖を与えていた。
練習している姿は少ししかなかったですがチャンピオンとして勝ちを目指し調整する姿はかっこよかったです。
白熱する試合のシーンができたのは間違いなく窪田正孝のおかげで、崖っぷちで死すらも恐れず向かってくる主人公相手に見事に立ち向う姿はあっぱれでした。

片岡鶴太郎や坂井真紀など流石の演技力の高さにただのスポ根作品に留まらず、色々と考えさせられる深い作品になっています。

◆最後に…

好みもあるかと思いますが、個人的に最近観た映画の中ではかなり面白かったです。
私は黒木に自分を重ねるところがあり、試合中は特に手に汗を握ってしまいました。

人生を細く長く生きることも大切ですが、一つのことを最後までやりきること。
怪我や死ぬまでとは言わないが、一瞬のために何かを頑張る姿は胸打つものがありました。
自分の吐いた言い訳に対してクロスカウンターを喰らったような感覚を与えてくれる作品です。

観終わったあと、劇場を背にやったこともないシャドーをしたり、いつもより長く走ったりしてしまう、私のような影響を受けやすい方にはピッタリの作品かもしれません笑

公開したばかりですが、ネタバレがあっても面白い作品なのでぜひ観てない方は観てみてください。

ではまた。

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