2日目 畜犬談

青空文庫:https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/246_34649.html

おれが読んだ太宰治の短編の中で、5本の指に入るくらいには好きな作品。

太宰の他の作品や、あるいは私生活を引き合いに出して、きっちりとこの作品の位置づけについて語れるほど太宰に詳しくはないのだが、この作品からは非常に精神的に安定している印象を受ける。『人間失格』だとか『20世紀旗手』とかにみられる陰鬱な感じはあまり受けない。

なんといってもこの話の魅力は犬に対する太宰の考えとそれを語る軽妙な語り口。太宰治というと、どうしても先ほど挙げた作品に代表されるような破滅的なイメージがあるが、そう言う側面以上に、作家として優れた実力を持つ人物だったんだろうなと改めて感じさせられる。

話の筋もどことなく前向きで希望に満ちている。その前向きさの塩梅も明るすぎず、ちょうどよい。喧嘩を応援した後でも犬を一度殺そうとするところなど、作者のリアリズムというか、ある種ロマンチックすぎる態度を否定するような態度が、いい方向に作用していると思う。そのような態度を経ているからこそ、この作品のラストのシーンのセリフはなかなかグッとくるものがある。

話自体短いのと、前述のように語り口のテンポがよくて読後感もいいので、太宰治に「暗くて死にたがりの作家」というようなイメージを持っている方がいたらぜひ冒頭のリンクからこの短編を読んでみてほしい。そのイメージを微妙に保ちつつ、違う側面からの魅力を発見できるのではないか。


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