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国分寺崖線の階段をめぐる

住宅街の中にある階段に妙に惹かれる人は少なくないはずです。街の中に突然現れる階段は、見つけるとつい登ってしまう不思議な雰囲気を持っています。今回は、西東京・武蔵野台地の崖線を舞台に、まだ見ぬ魅力的な階段を探して街を歩きます。

国分寺崖線とは

調布市の一角に住んでいる自分にとって、近所に階段に多いということはなんとなく予想していました。というのも、ここには「国分寺崖線」という特徴的な地形があるからです。国分寺崖線とは、古代の多摩川の流れが土地を削って作った、世田谷区から立川市まで続く河岸段丘の連なりです。崖線の上が武蔵野段丘、下が立川段丘となっています。崖線の斜面には緑が残っている箇所もあり、航空写真では連続する緑の筋としてそれを見つけることができます。各自治体は、東京の住宅地における貴重の自然としてこれを保全する施策を打ち出しています。

(世田谷区ホームページ『国分寺崖線ってなあに?』より)

国分寺崖線や立川崖線など、特に武蔵野地域の崖線は「ハケ」と呼ばれることが多いです(最近初めて知りました)。一般的に、台地の下は水が得やすい土地であり、昔から人が住んできた地です。武蔵野の崖線にもまだ湧水が残っているところがあり、昔の人にとって生活の重要な場所だったのかもしれません。この湧水箇所とその地形こそ本来の「ハケ」であり、「ハケ=崖」ではないと指摘する人もいます。
由来についても掘り下げたいところですが、ここで大切なのは、崖線は緑や湧水といった貴重な自然が残るエリアというだけでなく、台地の上と下の地域を分ける境界線であり両者を繋ぐバッファゾーンでもあるということです。そう考えると、ハケを貫きながら性質の異なる地域どうしを繋ぐ装置、つまり坂や階段という独特の空間にちょっと興味が湧いてきませんか?

すき間の階段

今回は、国分寺崖線の中でも仙川~成城付近(調布市・世田谷区)の崖線を巡ってみました。この写真は、実篤公園から少し北へ行った住宅地の中、ちょうど崖線の斜面の中腹に立って撮影しました。住宅が等高線に沿うように並んでいて、右側の住宅は地階の車庫が見えているのに対し、左側の住宅では2階レベルになっています。このあたりは宅地化され緑は残っていませんが、その分崖線の高低差を強く感じることができました。(しかもこの写真は一段目で、右側に登ると二段目が現れる。めっちゃ高いですこの崖。)

歩いていくと、このような風景が続きます。地階の車庫が続く風景は結構珍しいですが、調布市のガイドラインでは崖線中腹ではこのような土地の使い方が推奨されています(でもまあそうするしかないよね)。
さて、突然ですがこの写真のどこに階段があるかわかりますか?
実は左手前の電柱の横に…

ありました。巨大なコンクリートのすき間を切り裂くように通る道です。これはもう登るしかない。

登りました。階段の上からの景色です。壁の圧迫感が強い下からのアングルとは一転、空が広く、遠くの街並みまで見渡せます。意外と植物もありました。
この階段はコンクリートでできていて、側面もやはりコンクリートの擁壁です。一見無機質にも見えますが、大人ふたりが並んで歩いてちょうどいいくらいのスケールと、両サイドの住宅による「囲われ感」によって、何とも言えないノスタルジックな雰囲気が醸し出されています。スケールと囲われ感というものが、住宅地の階段のキーワードなのかもしれません。登ってみたくなる階段って、人工物にしろ植物にしろ、何かに囲われているものが多い気がするのです。

緑のトンネル

少し南下して、自然の残るエリアにも行ってみましょう。ここが一番お気に入りの階段を見つけた場所です。それがこちら。

ちょうどいい階段幅、ゆったりとした踏み面、木々による囲われ感。木漏れ日が美しい緑のトンネルといった感じです。階段はコンクリートのテストピース(強度試験をする円柱供試体)が使われていて、山の遊歩道のように見えます。全体的に経年変化によっていい雰囲気が出ています。
自然の状態に近いように見えるこの階段ですが、マンホールも見えています。調布市の下水道台帳を確認すると、しっかりと管渠が描かれていました。つまり人が歩く階段の下では水が流れ落ちていて、私たちの暮らしを日々静かに支えているのです。

(中央の線が階段と下水管:調布市公共下水道台帳施設平面図 図郭番号403 より)

側面のツタや鉢植えもいい感じ。「森のテラス」という看板がありました。調べてみると、このオープンガーデンでたまにワークショップやコンサートなどのイベントが行われているようです。機会があれば行ってみたいな。

おわりに ―階段のこれから―

本当はもっともっと紹介したい場所がありますが、今回はここまで。好きなものはたくさんあるけれど、なぜそれが好きなのか、その理由って意外と自分でもわかってないんだなと感じます。自分の感性を分析していく過程の中で新たな発見があるのもまた楽しみの一つです。こういうちょっとマニアックで「オタク趣味」だと片付けられてしまいがちな話題について、(あまり詳しくないからこそ)わかりやすく丁寧に書きたいという気持ちもあります。
魅力的な階段のキーワードとして「スケール」と「囲われ感」があるという話をしました。もうひとつ、大切な要素としてその階段が「使われていること」を加えたいと思います。どの道でも地域の人たちが散歩コースや通勤・通学路としてごく普通に歩いている風景を目にしました。人が通れば、そこは家族や近所の人との会話の場所になったり、子どもたちの遊び場になったりします。そうすると次は住民が階段から見えるように植物を育てたりして、そこで暮らす人々のストーリーがにじみ出す空間になります。そういえば、映画やドラマでも重要なシーンで階段が登場することがあります(『君の名は。』や『耳をすませば』など)。階段は、街の中でも特に物語性を持つ場所です。しかし、全ての人が使うことのできる場所ではなく、不便なことも多いでしょう。こうした道路の多くは「細街路」と呼ばれ、都市計画の観点では防災上好ましくないとされています。空間としての魅力と安全性・快適性の両立を、今後なんとか考えなければいけません。なぜなら、こうして地形と自然に寄り添って暮らす生活がたまらなく愛おしく、ゆたかだなあと感じるからです。

―――

(おまけ)

写真はすべて新しく購入したGoogle Pixel 3a XLで撮影し、SnapseedというGoogleから出ているアプリで編集しました。グーグルさまさまです。
せっかくなので、採用しなかった他の階段もみてください。

ありがとうございました。
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kota
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