性格は体験に先立つ〜シンエニアグラム原論 vol.2


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 よく考えれば、妻と酒が二者択一になることは正気の沙汰ではない。エチルアルコールと人間(配偶者)を天秤にかけられるはずがない。しかも彼らは人間(配偶者)を捨て、エチルアルコールを選ぶ。

 水原氏の行動も同じだ。生活をともにしている妻にも隠して野球賭博を続けていたことは、妻よりギャンブルを優先していたからだ。この狂気ともいうべき転倒した価値観を抱くようになること、それが依存症という「病気」の本体なのだ。

 水原氏の大谷選手に対する言動もこれで説明がつくだろう。傍にいて通訳だけでなく私生活のめんどうまで献身的に行っていたことも、スポーツ賭博の負けが込んで返済の金に困っていたからかもしれない。


これは文春オンラインに掲載された信田さよ子さんという専門家の見解だ。
(2024/06/27)
依存症研究の第一人者だそうだ。
依存症という「病気」の本体の従来説からの転倒はまだ頷ける。
しかし、水原一平被告の通訳の域を超えた献身ぶりの動機が借金返済に由来するというのは戴けない。
因果が逆だろう。

第一、水原一平は2012年には日本ハムファイターズに球団通訳として採用されている。
外国人選手の家族の生活のサポートにまで配慮した面倒見の良さが、球団関係者の間で評判を勝ち得た。
その結果、2017年に大谷の専属通訳としてメジャーデビューする道が開かれたのだ。
身を削り公私にわたってサポートする彼の献身スタイルは、既に始まっていた。
水原一平が大谷の口座に初めて手を出したのは2021年11月のことに過ぎない。
(連邦検察が公開した裁判資料による)

つまり私が言いたいのは、エニアグラムでいう性格タイプは現実に先立つということだ。
たとえば、アルコール依存症患者の家族という過酷な環境に先立って、性格タイプという因子を入れて考え直してみる必要がある。
(信田さよ子さんの専門である)アダルトチルドレンにも9通りのスタイルが見つかるのだろうか。
持論になるが、アダルトチルドレンとは一つの物語である。


芥川龍之介の「ぼんやりした不安」の正体が、迫りつつあるファシズムという社会的現実が要因なのかどうか。
芥川の生涯および自死は、エニアグラムが教えるタイプ4から考察してみるべきだ。

夏目漱石と妻鏡子との不仲説の真因は、タイプ5とタイプ8の男女の組み合わせから考察した時になにが見えてくるか。
(「道草」が漱石の言い分だとしたら、妻鏡子の言い分は「漱石の思い出」に述べられている。)

幼少時の養子体験が漱石の人間観を決定づけたとは露思わない。
同様に倫敦留学が漱石の文学観や世界観を形作ったわけではない。
彼がエニアグラムが教えるタイプ5の性格的因子を有していたからだ。
「養子体験とその後の顛末」は現実をどう彫るかという彫刻の素材に過ぎない。
「道草」を初めとした一連の作品は、その文学的解釈を見直さざるを得なくなるだろう。

三島由紀夫は、なぜ太宰治を近親憎悪的に嫌ったのか?
どちらもタイプ4で、似ていては困るからだ。
芥川、太宰、三島というタイプ4の負の系譜について、その同一性と差異を考察できる日は来るだろうか。

エニアグラムでいうウィングと本能のサブタイプ論、健全度のレベル理論が役に立つに違いない。
三島が3寄りの性的本能優位(sx)だろうというのだけはわかる。

もうひとりのタイプ4、小林秀雄はどうだろう。
小林が5寄りの4で、自己保存本能優位(sp)。
2番目が性的(sx)で、社会的本能(so)が盲点だろうというのも、私の中で推測はついている。
芥川、小林、太宰、三島、こう並べてくると、作風も内容も全く異なる。
異なるが孤高という観点から見れば一致している。

漱石だって孤高である。
4的孤高、5的孤高について述べないといけないと言うべきか。

スティーブ・ジョブズがやはり、養子だったという事実。
つまり両親から捨てられた子だった。
(漱石は金で買い戻された)
そのことが成人後も傷となって残り、ジョブズの冷たい人格形成の一端に深く影響した。
評伝の中でも実しやかにそう言われている。
若い放浪時代の友人が証言していたと記憶している。

私の解釈はこうだ。
里親から真実を知らされ、若いジョブズは傷ついたろう。
それは事実には違いない。
その現実からなにを受け取り、切り捨て、どんな人生観、世界観を築くか。
そのスタイルもまた9通りあるに違いない。

大事なことは、そのスタイルから見えてくる真実だ。
逆説的にタイプ固有の真実が明かされる。
ジョブズの人生で繰り返される心理パターンが!

スティーブ・ジョブズはタイプ7。
それも8寄りの7で、ソーシャル(社会的)-自己保存のタイプ。
私の長年の研究ではそうなる。
そのことはいずれ稿を改めて論じよう。

脱線してしまった。
次回からまた水原一平に話を戻そう。


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