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52ヘルツの声

「52ヘルツのクジラたち」という小説を読みました。

タイトルの52ヘルツとは、クジラの声の周波数のことです。
一般的にクジラは10~39ヘルツという高さで歌います。でも、この世界にはたった一頭だけ52ヘルツで歌うクジラがいるみたいです。

周波数が違うからこそ、その声は誰にも届かない。
世界で1番孤独だと言われているクジラです。

52ヘルツで歌うクジラのように、誰にも届かない声をあげて孤独に生きている人達は沢山いるんだと思います。
その声が誰かに届くことを信じて鳴き続けている人、誰かに届けることを諦めた人、この話には色んな52ヘルツのクジラたちが出てきます。

私も小学校、中学校、高校と誰にも言えない悩みがあって、家族も友達もみんないい人達だったけど言えなくて、ひとりで抱えていたこと思い出しました。今考えればちっぽけに思えてくるような悩みです。

私にもあったように、皆大なり小なり誰にも届けることの出来ない鳴き声がきっとあるんじゃないかと思います。
誰かにその声を聴いてもらうことが全てではないけれど、そこに寂しさを感じている人がいるなら、この本を手に取って、町田そのこさんが創る温かい世界にもぐってみてほしいです。そういう現実逃避、おすすめです。

この物語の中には、孤独を抱えて苦しむ主人公のキナコに一切振り回されない美音子ちゃんという人が出てきます。私はこの美音子ちゃんが凄く好きです。

美音子ちゃんとキナコはルームシェアをはじめるものの、キナコはしばらく精神が安定せず、マシンガンのように喋ったり、急に泣き出したり。

そんな中で美音子ちゃんは、キナコが自分の事情を話そうとするとさっさと自室に引っ込むけれど、キナコが夜中に泣きじゃくっているとドアの隙間からキンキンに冷えた缶ビールを転がすような人。

人と関わる距離をきっぱり決めていて、自分の出来る範囲内での優しさがしっかりある人。
そういう優しさって崩れることがなくて偽善でもなくて、素敵だなと思います。

中途半端な優しさは時々刃にもなりうる、そんなシーンがこの物語に出てきたからこそ余計に美音子ちゃんの優しさはぐっときました。

「52ヘルツのクジラたち」は、読んでいると途中涙が零れてくるくらい胸が苦しくもなったけれど、最後は心がじんわりと温かくなるような、「あなたは独りじゃないよ」と語りかけてくれているような、そんなお話でした。

ぜひ読んでみてください。

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