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虚言と現実の狭間

知人からどうでもいい嘘をつかれ、あとでそれに気がついた、みたいな経験は誰でもあると思う。

Facebookで高卒の友達が、そこそこな大学を最終学歴にしていたのを発見した時の気まずさだったり。そんな嘘が可愛く感じるくらい、壮大な虚言癖な人とごくたまに遭遇する。

数年前に知り合いの知り合いが集まる飲み会に誘われた時の話。
そこに30後半ぐらいの、謎のセレブオーラを必死に出してる男がいて。
話す内容も、今自分は香港に住んでいて、ジュエリーデザイナーしてて、今は一時帰国してて、来月は仕事でイタリアに行く、みたいな感じで。
自分的には「へー。ジュエリーデザイナーってそんな世界中飛び回るもんなのかね。そんなひともいるのね。」ぐらいの温度感で、特に話を掘り下げることもなく、飲み会は終了。
その人と個人的に連絡先交換するわけでもSNSで繋がりもせず。

その人のことも記憶からすっかり消えてた数年後、その人とたまたま飲み屋でばったり再会。自分は彼のことを覚えてるけど、彼は自分のことを覚えてないようで。
初対面のフリをして「お仕事はなにをされているのですか?」と聞いてみたら、
「グラフィックデザイナーをしている。」と。
ジュエリーではないけど「デザイナー」と答えているので、本当にそうなのであろう。
その彼が話の流れで「明日土曜の昼にでもお茶しにウチにおいでよ」と言ってきた。
彼が全然タイプでもなく、エロい意味合いでのお誘いだとしたらめんどくさいけど、このデザイナーがどんなおしゃれな生活してるのか好奇心が襲ってきて、行くことにした。

翌日、最寄駅で待ち合わせした。駅から5分ぐらい歩くと、オフィス街の中にある築20年ぐらいのマンションに到着。
想像してたより、地味な生活してんのね、、、。と思いつつ、部屋へ。
部屋は6畳の1Kぐらい。すごい質素。一昔前の会社にありそうな古びた机の上に、macbook air1台と、J-POPのCDが二十枚ぐらい、それと「初心者のためのillustratorの使い方」「初心者のためのDreamweaver」なる本が二冊。
あとはソファーベッドとちっこいコーヒーテーブルがあるだけの部屋。
なぜこれだけ世界を駆け回るような「世界的デザイナー」の机の上に、超初心者用デザイン教本があるのか。
部屋から漂う印象として感じたのは、「親がそこそこ裕福で、毎月仕送りをもらってそれだけで生活してて、実際は無職でデザインもできないけど、デザイナーという設定で日々送っている人」のオーラ。
あまりに部屋がおしゃれ感ゼロで殺風景だったため、もしかしたら借り住まいなのかなと思い、
「ここはいつから住んでるのですか」と聞くと、
「5年ぐらい住んでるかな」と意外な返事が。
2年前に会った時、香港に住んでるって言ってたけど。う〜む。
東京にも部屋を契約してただけかな。
でもあまり深掘りしない方が良さそう、、、と思いながら、
「デザインはどんなものを手掛けてるのですか?」
と聞いてみたら、
「雑誌とか書籍とかCDとかのデザインしてるよ。」と。
なんかざわつく。
机の上に、誰でも知ってる結構有名な邦楽アーティストのCDがあったので、
「このバンド好きなんですか?」と聞いてみたら、
「あのCDも俺がデザインした。ボーカルとは友達でよく一緒に遊ぶ。」と。
そのCDの歌詞カードのデザインをチェックしたことがあったので、
「あれ?あのCDデザインした人って確か、〇〇ってデザイナーじゃなかったっけ?」
と言ってしまった。
すると彼が
「・・・てかそんなの関係ねえし。」
と強気に返答。
小島よしお以外でこのフレーズ聞いたの初めて。

その時に、
(このバレるわけのないはずの嘘が、バレたときの咄嗟の反応。多分今まで話してた全てが嘘に違いない。ジュエリーデザイナーやグラフィックデザイナーなど、壮大なアーティストの嘘の肩書きで自尊心を保って生きてきたんだろうな。嘘と現実の境界線なんてないんだろうな。)
と虚言確定。
これ以上その空間にいるのもしんどくて「楽しかったです。そろそろ行きます」とそそくさと退散。

虚言癖のひとは、嘘をつくことで羨望の眼差しをもらい英気を養ってホルモンバランスを保っているもの。
たとえ虚言だとしても、イメージングをして努力し自己暗示をかけ続ければ、それが現実となる場合もある。
けどどうあがいても現実化が困難な虚言だと、どうしようもない。

例えば、出会いもなく地味に生活してるような人に「彼氏できた?」と毎回聞いたり、相手の自尊心を落とすのを趣味な人も結構いる。そういった場合などに、処世術として、やんわり嘘をつくのは自分を守るために時として必要。
だが、いずれバレる可能性のある大掛かりな嘘は、最終的には自分を傷つけるだけなので怖いなと思いましたとさ。

追記:
そうそう、「女帝小池百合子」を読んだ後に、ふとこの虚言癖の彼をまた思い出しました。

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