【大人との対話】イベントレポート#5. 株式会社コルク 代表取締役社長 佐渡島庸平
我慢しない方法を見つけよう
さまざまな分野で活躍するオピニオンリーダーから直接話を聞き、学校や家庭とは違ったアプローチで子どもたちの興味・関心を広げるイベント『大人との対話』。第5回は編集者の佐渡島さんをゲストに迎え、全教研に通う小学6年〜中学3年生の8名が参加。「何で今日は制服を着てきたの?」という佐渡島さんの意外な問いからスタートし、これまでの“当たり前”を見直すきっかけとなるような対話が展開された。
登壇者・参加者紹介
【参加者】
佐渡島さんを除いて左から時計回りに、野島さん(中学2年生)、権藤さん(小学6年生)、峰さん(中学3年生)、井上さん(中学3年生)、藤家さん(中学1年生)、吉住さん(小学6年生)、前川さん(中学1年生)、石橋さん(小学5年生)
好きなことがやりたいのか、お金がほしいのか
佐渡島:今日はみんな、僕から何か役に立つ話が聞けると思って参加してくれたのかな?まず言っておきたいのは、成功する法則みたいなものがどこかにあって、それを知っていればうまくいくと思っている人もいるかもしれないけど、そういうことじゃないんだよね。人からいい話を聞くよりも、自分の好きなことや、体験してみたいと思う気持ちの方が、人生を歩んでいく上では重要だと思う。例えば、峰さんは何で今日制服を着てきたの?
峰:きちんとした格好をしていないと、佐渡島さんに失礼かなと思ったので。
佐渡島:きちんとした方がいいって誰が思っているのかな?こういう場には正装がいいというのは、実は社会が思っていること。その常識に自分の気持ちを合わせたってことだよね。実は僕はそう思ってないんだよね。心理学の面白い実験があるんだけど、ある一人の人に対して、体型や顔の雰囲気に合わせてスタイリストが選んだ服を着て撮った写真と、その人が自分の好きな服を着て撮った写真の2枚を用意して、色んな人に見せた結果、魅力的だと思った人が多かったのはどっちだったと思う?
前川:自分の好きな服の方だと思います。
佐渡島:そう。ほとんどの人がそっちを選んだの。自分の好きな服を着ている方が自然と表情もいきいきして、魅力的に見えたんだよね。井上さんは将来やってみたい仕事はある?
井上:僕は駅長になるのが夢です。
佐渡島:じゃあもし駅長がお金をもらえない職業だったらどうする?
井上:自分の好きなことではあるんですけど、お金がもらえないなら続けられないかなと思います。
佐渡島:ということは、駅長がやりたいんじゃなくてお金が稼ぎたいってことかなぁ?
井上:いや、駅長をやりながら、お金も稼ぎたいです。
佐渡島:例えばステーキが食べたいと思ったらお金を払うよね。何で自分の好きなことをやっているのに、職業だったらお金をもらいたいの?みんなどう思う?
吉住:好きなことだったとしても、仕事はきついところもあるから、その分をお金で補ってもらいたいです。
佐渡島:お金ってさ、嫌なことのために払われるのかな?ということは、お金のために嫌なことをずっと我慢しないといけないのかな?それは、嫌なことを嫌って言うより、お金の方が大事だと思っただけじゃない?今日みんなが制服を着たのも、僕にどう思われるかわからないっていうことを優先して、自分の好きな服が何なのか考える時間を取らなかったんだよね。でもさ、本当は全部自由なんだよ。石橋さんは嫌なことを全部我慢できる?
石橋:自分がこうだと強く思うところがあるなら、嫌だって言ってもいいと思います。
佐渡島:権藤さんはどう?ずっと我慢できる?
権藤:ちょっとだったらできるけど、ずっと続いたら自分が崩壊すると思います。
野島:僕も、ある一定のラインさえ守っていれば意見は言っていいと思います。
みんなが我慢しないとどうなる
佐渡島:他の人にも聞いてみようか。我慢した方がいいと思う人?5人!我慢党が多いね。じゃあなぜ我が国に我慢が必要か語ってください。
吉住:自分だけじゃどうしてもできない部分があるので、仲間と協力するためには我慢して、周りと合わせる必要があるのかなって。
藤家:たまに嫌なことを言ってくる友達がいるんですけど、我慢しないと余計喧嘩になって、もっと自分が我慢する結果になるかもしれないから。
峰:みんながわがままを言うと、社会のバランスが崩れるからだと思います。
佐渡島:そんなに優しそうなオーラがあふれているのに、無法者になっちゃうようなことを考えているの?
峰:(笑)。
佐渡島:そんな簡単に無法者にはなれないからね。ちょっと自分のわがままを通しただけで無法者になれるなら、峰さんは大物だよ(笑)。
前川:僕は我慢しないと相手に迷惑がかかるからだと思います。親に反抗し過ぎた時とかは、あんなに言わなければよかったなって反省しちゃいます。
佐渡島:だったら我慢しないで、相手も傷つけない話し方を練習した方がいいと思うけどな。我慢に慣れてしまったら、ずっと我慢するだけになるよ。お墓に「前川はよく我慢した人生だった」って書かれても全然嬉しくないよね(笑)?だったら「前川は我慢せずよく楽しんでいた」の方がよくない?我慢するために生まれてきた人は一人もいないはずなのに、なんで我慢しちゃうんだろう?みんなの主張にはある共通項があるんだけど、気づいたかな?
自分がどんな人間かわかるには時間がかかる
吉住:周りの人のことを考えているところ。
佐渡島:そうだよね。我慢党は“周りの人のことを考える党”と言ってもいいかもしれない。でもここで考えてほしいんだけど、さっきトイレ休憩の時間があったけど、そこまで我慢しなくても、途中で「ちょっとトイレに行っていいですか?」って出て行く人がいたら、それをきっかけに「じゃあここで5分休憩を入れようか」ってなるよね。それでよくない?家で食事している時に「焼肉を食べ始めて90分経ったから、トイレ休憩入れます」って中断したりしないでしょ(笑)?みんなが我慢しているせいで、我慢している人がいないか気にしないといけなくなって、その分仕事が増えているんだよね。あれ?さっきの話だと、周りに迷惑をかけないために我慢するんだよね?
そもそも、周りの人に迷惑をかけない方法は我慢しかないんだっけ?我慢するってことは、自分の意見も言わないってことだよね。それはコミュニケーションを諦めたってこと。僕が今いきなりストレッチを始めたらみんな戸惑うと思うけど、「腰が痛いからストレッチしながら話すけど気にしないでね」って先に説明すれば問題ないよね。そうすれば僕は腰が痛いのを我慢せずに、みんなと楽しく話せる。我慢党は“先に自分の考えを説明する党”には変われないのかな?
吉住:でも、やっぱり周りからどう思われるかが気になります。
佐渡島:さっきの制服の話にもつながるね。つまり、我慢をしないで自分の“好き”を貫き通すためには、周りの目を気にしない技術も身につける必要がある。算数の問題の解き方より、そっちを学んだ方が人生楽しくなりそうだよね。でもそれって、なかなかできることではない。僕は今43歳なんだけど、40歳のことを論語では「不惑」と言うんだ。惑わなくなって、自分がどんな人間がわかる年齢だということ。周りの目が気にならなくなることとか、相手を傷つけずにうまく話すこととか、たったそんなことでも40年は最低かかるよって昔の人は言っているんだよね。
知らない人との会話にこそ学びがある
佐渡島:例えばハワイに行きたいとして、「ハワイに行かせてくれなきゃ中学受験はしない」と親に言ったら、それはわがままだよね。でも、ことあるごとにハワイの話をしてみたり、旅行会社のパンフレットやハワイの写真集を親の目に触れるところにしつこく置いてみたり、「ハワイの神が僕に降りてきた」とか言ってみたり、そんなことを3ヶ月くらい続けていたら、さすがに親もその白々しい演技に気づいて、「じゃあ受験が終わったらハワイに行く?」って言ってくれそうだよね。そんな風にハワイに行くための方法は無限にあるはずなんだけど、それを考えずに我慢する道を選んでしまっていることが多いんじゃないかな。
僕は今、コルクという会社でクリエイターのエージェント業をやっていて、作家のためになる条件を出版社に交渉するんだけど、これまで日本にはなかったシステムだから、出版社からしたらやりづらい部分もあるんだよね。でも長期的に見たら、話し合いをした方がお互いのためになるし、文化も発展していくと思っているから、僕は我慢しない。今日みんなに肝に銘じてほしいことは、努力しているつもりになっているけど、我慢するということは、一番楽な方法を取っているということ。楽しくないけど楽なんだよ。我慢しない方がずっと難しい。24時間365日死ぬまで我慢しないでおこうと思ったら、すごく大変だし面倒だよ。でもその面倒なことをこなしていくことで、人間としての器が変わる。僕たちの脳って、どんな時が一番活発になると思う?
吉住:好きなことをしている時。
佐渡島:お、いいね。“好きなことをやる党”に変わってきたね(笑)。実はね、人と会話している時なんだよ。特に、知らない人。みんなからしたら、友だちのような横の関係でも、先生のような上の関係でもなく、僕みたいな斜めの関係の人と話すのが一番。友だちから「今日どうだった?」って聞かれたら、部活のこととか授業のこととか、何を聞かれているかすぐにわかるけど、僕から同じ質問をされると何について答えるべきかよくわからないよね。知らない人と話す時には、相手が何を知っているのか探って、自分の前提を交えて話す必要がある。さらに雑な表現じゃ伝わらないから、言葉の定義を知って正しく使わないといけない。
人間はみんな、我慢したくなって当たり前なの。人と話すのってすごくストレスだから、それを避けるために我慢してコミュニケーションを取らないようにしている。我慢していても、人と話しても、どちらも心がすり減るんだけど、我慢はただすり減るだけ。殻に閉じこもる一番楽な方法だから、そこを選ばずに、自分の好きなことや周りの人と仲良くなれる方法を見つけてほしいな。
問いの形をしていない問題に気づく
吉住:学生の時はどんな風に勉強していましたか?
佐渡島:僕は灘高に行ったんだけど、入るためにやったことはね、我慢だったんだよね(笑)。
一同:(笑)。
佐渡島:灘高は自由な高校だったから、入った後はほぼほぼ寝ていた。学校では寝ればいいと思っていたんだよね。学校に行って寝て、起きてテニスして、また寝て、起きて彼女と会って(笑)。でも学校自体は我慢して行っていたよ。そもそも受験は無理矢理にでも詰め込まれた人が勝つっていう不自然なルールだから、本質的な価値はどこにもないと僕は思っているんだよね。それよりも、自分が今日どの服を着たいかとか、何を食べたいかを毎日考える方が重要。そこからさらに、今着ている服や食べている料理を作った人は何を思って作ったのか、相手の思考を逆算して考えるようになると、もうそれだけで結構忙しくなる。ほとんどの問題集は答えを出すために作られているけど、何でこの料理を作ったのかという問題にはリードがどこにもないから、そっちの方が断然難しいんだよね。みんなの身の周りには問いの形をしていない問題がいっぱい転がっていて、それを見つけて解いていくことの方が本質的だし、人生がもっと楽しくなると思うよ。
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『大人との対話』は第6回以降も近日中に開催予定。noteでも随時レポートを公開していく。