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【読書】「塞王の楯」今村翔吾

どんな攻めをも、はね返す石垣。
どんな守りをも、打ち破る鉄砲。
「最強の楯」と「至高の矛」の対決を描く、戦国時代の物語。

第166回直木賞受賞作

大津城の戦いの顛末を知らない私は、後半一気読みの面白さ。
ボーイミーツガールの要素もあり、ホンワカした気分にもなれ、バディ物として胸アツ、泣きそうなところもあった。

戦国もののテレビドラマなどで、主人公がよく「この乱世を終わらせるため」と言うが、主人公を善人にしないとみてる人が居心地悪い思いをするからこのようなセリフを吐かせるんだろうな、とヒネクレタ見方をしている。
この本の主人公は城の堀や城壁の石垣を積む職人。この立場の者からすると「乱世」が終わってしまうと失職の恐れはあるが、やはり日々の生活が争いのない中で営まれるのは至極自然な思い。
その土地を総べる殿様も領地を失いたくない、それ以上に「領民を守りたい」という心があってもおかしくはない。

最近読んだ「黒牢城」に続きの戦国物だが、メインででてくる殿様では「黒牢城」の「荒木村重」よりこの「塞王の楯」の「京極高次」の方が好きだ。


理想の上司。

高次は己が無力であることを恥ずかしいとは思っていない。皆の力があってこそ己は支えられていると憚らず公言しているのを聞いたことがあるという。加えて家臣の才を妬むこともなく、何事も思い切って任せ、それでいて全責任は自らが負う覚悟も決めている。そのような高次のもとならば、遺憾なく才を発揮出来ると優秀な者がこぞって集まって来ているのだろう。しかも家臣たちは皆、
ーーー殿には己がいなければ。
と思っている節がある、風変わりな家風なのだという。

「塞王の楯」蛍と無双

落涙1
主人公・匡介にバディの玲次が言う、

「匡介・・・・お前が来た日のことを今もはっきりと覚えている。
陰気な野郎だなってさ。
でも石積みの才は憎らしいほどあった。初めは負けねえと意気込んだが、いつの日か違いを思い知らされた・・・・腹立たしい反面、俺はお前の全力が見たいと思ってしまったんだよ。
それで荷方(にかた)の仕事を全うしてきた。いつか来るこんな日のために。そのいつかは今だ。
てめえ一人の勝負じゃねえ。荷方を舐めるな」
玲次はけっと喉を鳴らして不敵に片笑んだ。

「塞王の楯」蛍と無双

落涙2
玲次が命がけの石の運搬に臨む、

耳の近くを弾丸が掠めて玲次は顔を顰(しか)めた。
「悪いな・・・」
 玲次は小声で呟いた。己には妻と男女二人の子どもがいる。器量がとびっきりいいとはいえないが気立ての良い妻。己の膝の上に座るのが大好きな娘。そして腕が曲がって生まれた息子。己が死ねばきっと困ることは目に見えている。そうなれば人を守るため、自らの家族を守れなかったことになるとも言えるだろう。
 だが今、もしここから逃げ出してしまえば、皆が大好きでいてくれる己ではなくなる。これから幾多の苦難に直面するだろう息子に、胸を張って励ますことができなくなる。
「塞王を支える・・・・これがおっ父の仕事だ」
 穴太(あのう)で帰りを待っている家族に届けと念じながら、玲次は 雨に煙り、戦火に荒れる近江の空に向けて言った。

「塞王の楯」雷の砲

主人公・匡介と玲次は同じ「楯」と作る者としてのバディではあるが、その一方で「矛」である銃をつくる国友彦九郎(くにともげんくろう)も別の意味でのバディであった。お互いが切磋琢磨することによりこの戦乱の世を早く終わらせる。大津城の戦いの最終盤、匡介と彦九郎が楯を挟んで対峙する場面は手に汗握る。


「大津城の戦い」当時の城主は「京極高次」。
高次の出世は自身の功ではなく、妹(絶世の美女と言われた)や妻(浅井長政の娘)の尻の光(閨閥)に拠ったといわれ、高次は陰で蛍大名と囁かれた。
しかし、この物語はそれを踏まえつつ何より領民の命と生活を守るを第一義とし、蛍大名と誹られるのをものともせず、領民、家臣より慕われた名君として登場する。

人の評価とは難しいものだと思った。
(ちなみに、お借りした画像は江戸城の石垣です。)

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