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【英語×企業×社会動向のリアル】~静かなる英語“共通語”化の進行~

今、「静かなる英語“共通語“化」が進行している。
10年ほど前からよく聞かれるようになった「英語公用語化」との明確な違いは、【話す力】を中心に置いていることだ。人材活用や社会動向など5つの背景をもとに、英語共通語化の進行について紹介する。

★サマリー:人材活用編★

①積極採用が進む《高度IT人材》 獲得に向け国内業務の英語化が浸透
:人材不足解消、特にDXの推進に不可欠な高度IT人材の不足が著しく、企業が競争力強化のために、《外国人高度IT人材》を積極的に採用する傾向が強まっている。彼らを受け入れるため、国内業務でも“実質的には英語を共通語にする企業”が増加傾向にある。

②ジョブ型雇用など、組織・人事制度もグローバル水準で海外市場へ
:成長戦略を海外市場で描く企業では、グローバルな規模での組織再編や、ジョブ型雇用など組織・人事制度のグローバル化が進展。複数国にまたがるプロジェクトや多国籍社員によるリーダー研修などのため、英語が共通語として使われる。

☆サマリー:社会動向編☆

③コロナ禍以降、オンラインでの業務が定着。英語力の基準も「スピーキング力重視」にシフト
:コロナ禍以降に広まった海外とのWeb会議では、スピーキング力が物を言う。そこで英語4技能(聞く・読む・書く・話す)の中でも、「スピーキング力(話す力)」にフォーカスして社内基準を定め、スピーキングテストや研修に力を入れる企業が増えている。

④2022年、人的資本の情報開示指針を受け、グローバル人材育成のストーリーと定量化を
:人的資本経営では、人材開発・研修や幹部候補育成への取り組みを定量化し、戦略に基づくストーリーの開示も求められる。グローバル成長戦略をとる企業は、それを担う人材の確保・育成に適切な投資が行われていることが期待される。

◆サマリー:CEFR(セファール)活用◆

⑤グローバル・スタンダードの語学力基準としてCEFR(セファール)の活用が広がる
2010年頃に増加した「英語公用語化」の経験を踏まえ、日本企業ではスピーキング力を重視した「英語共通語化」が進んでいる。その際の語学力基準として、国際的にも汎用性が高いCEFRを用いる企業が増加している。

企業のグローバル競争力にとって、それを担う「人材の国際通用性」は重要な要素。静かに進む英語共通語化のトレンドを踏まえ、各社の取り組みの有効性を継続的に確認し、柔軟な変化が求められる。以下、詳細を見ていく。


①積極採用が進む《高度IT人材》 獲得に向け国内業務の英語化が浸透

DX推進に不可欠な高度IT人材の不足が叫ばれて久しい。
実は、人材の獲得競争はグローバル化しており、海外から積極採用する取り組みが進んでいる。海外大学卒・大学院卒のエンジニアの英語力は、押しなべて高い。彼らはIT技術と英語力を強みに、働く場所を選べる立場にある。そんな人材を惹きつける上で、日本語能力を求人条件に入れるのは現実的でない。非常に限られた採用条件となってしまうからだ。
また、最先端の技術情報、英語のまま方がスピーディーに導入できる。このような背景から、《海外高度IT人材》を日本国内で雇い、国内業務を英語で行えるようにする企業が増えている
 
外国人材の採用・維持には、ストレスなく英語で業務が行える職場や、バイリンガルな社内コミュニケーション、英語によるさまざまな生活サポート提供が不可欠だ。受け入れる日本人社員側の英語力や異文化理解力を高めていかなくてはならない。
 
「英語公用語化」の時代に先鞭を切った楽天、ファーストリテイリング、ソニー、武田薬品、ソフトバンクグループなど数十社が、社員の英語力強化を対外的に打ち出している。
最近では、シャープやメルカリなどの取り組みが注目されているが、IT人材を多く必要とする企業では規模を問わずこの傾向が顕著である。

(社内公用語を英語にしている主な企業)
日産自動車/ソニー/ソフトバンクグループ/楽天/ファーストリテイリング/ブリヂストン/武田薬品/資生堂/メルカリ
(今後、社内公用語を英語にする予定の主な企業)
シャープ ※2023年から/マネーフォワード ※組織限定

SaaS企業のHENNGE社では、2014年に社内公用語英語化へと舵を切った。言語をはじめ社内ルールや文化の面でも、外国人材の働きやすい環境づくりを進めている。

会社全体では外国籍は約20%、あとの80%は日本人です。部署によってその比率は変わり、例えば開発部門は3/5が外国籍です。社内では、言葉でのコミュニケーションは何語でもいいのですが、一人でも母国語が違う人がいたら英語を話すことをルールにしていますので、開発部門はすべて英語で言葉が飛び交っています。

プロゴス社主催・HENNGE社登壇セミナーより引用

②ジョブ型雇用など、組織・人事制度もグローバル水準で海外市場へ

成長戦略を海外市場で描く企業では「グローバル視点での組織そのものの再編」が進んでいる。海外部門は国内メイン組織の一部門という位置づけではなく、最初からグローバル前提で機能をもつ組織が構成される。たとえば、グローバル横断的なR&Dや新商品開発、各国成功事例のノウハウ共有化による組織全体のレベルアップなども日常的に行われる。
また、ジョブ型雇用の一部導入により、スキル定義に基づくポジション配置が国境を超えて実施できるようになった。グループ内での人材流動化には、共通語としての英語で業務遂行できる能力が前提となる。

こうなると、日本語を用いて国内で業務をしてきた日本人社員は、変革を迫られる。多くの企業で英語に関する研修を提供しているが、中計でのゴール達成に向け数年以内に…という期限を設けて全体のレベルアップを目指すケースが多い。

一方、将来のグローバル幹部候補となる人材プールは国籍を問わず、英語によるリーダーシップ研修を実施。グローバルに通用するビジネススキルと経営感覚の醸成を求めている。ここでは、英語でマネジメントができる/複雑な議論をリードできる/厳しい交渉もやり遂げることなどが前提。また、異文化への対応力も含めた英語でのコミュニケーション力がマストスキルだ。

こうした取り組みを行う企業の例としては、オリンパス、アサヒグループホールディングスなどがある。

例えばグローバルグループ一体経営体制へ転換、グローバル人事制度の転換などがあります。グローバルグループ一体経営体制への転換は、複数のリージョンをいかに一体化して経営していくか、さらにはその中でどのように新たな執行体制を構築し、責任の所在を明確化していくかといったことです。人事制度に関しては、
人材と機能のグローバル最適配置を目指すべく徹底的にスピードアップを図っており、
その結果、2019年には22人中3人だったシニアマネジメント層の外国人社員は、2021年7月時には30人中15人にまで増えました。

プロゴス社主催・オリンパス社登壇セミナーより引用

③コロナ禍以降、オンラインでの業務が定着。英語力の基準も「スピーキング力重視」にシフト

コロナ禍の海外渡航制限を機に、企業では海外業務をオンラインで行うことが一気に普及した。そしてこの傾向は今後もある程度定着し、手軽さも相まってWeb会議の実施は日常的なシーンになると予想される。
そこで行われる会議、商談、相談、同僚との雑談…などのコミュニケーションはいずれも《その場で聞き取り、その場で「話す」》こと。読み書きより、いわゆる《コミュニケーションの瞬発力》が重視される。

2021年にレアジョブが実施したビジネスパーソン対象の調査では、リモートだからこそ英語のスピーキング力・リスニング力の重要性が増した、という結果を得られた。

オンラインのコミュニケーションでは対面と異なり、身振り手振りなどの非言語的表現が限られる。画面を通してでは、相手の状況や細かい表現もつかみにくい。そのため、言語的要素がおのずと重要になり、より高いスピーキング力が必要になる。

こうした背景から、スピーキング力の向上がフォーカスされるようになってきた。コーチングや、カウンセラーのサポートを得ながら実務に役立つスピーキング力を一定期間集中的に学習し、確実にレベルアップをめざす短期集中型の需要が増えている。

④2022年、人的資本の情報開示指針を受け、グローバル人材育成のストーリーと定量化を

2022年8月、政府は人的資本情報可視化の指針を開示した。この開示事項の1つに“人材育成”が掲げられ、研修項目別の従業員参加総時間(延べ時間)、 従業員一人当たり研修投資額などが具体的な開示項目例に挙げられている。

可視化の目的は単に数字を示すだけではない。比較可能な意味をもち、前提となる経営戦略・人材戦略からストーリーとともに説明することが重要だ。グローバル戦略を掲げている企業なら、投資家は「納得性のあるグローバル人材投資を行っているか?」という点に注目するはずだ。日本人の語学力の低さ、国際感覚の乏しさは周知の事実である。海外の投資家から見てこのハンデをどう克服するかは、ストーリーを持って語られるべきであろう。

人的資本情報の開示はまだ始まったばかりで、試行錯誤の段階にある。先陣を切った企業の事例を調べたり、横並びの発想で様子見する企業も多い。
しかし、人的資本情報の開示は、自社の取り組みを投資家にアピールする場でもある。積極的に独自色を出して開示する企業に有利に作用していくと思われる。指針の具体的な内容については下記を参照されたい。

出典:「人的資本可視化指針」(内閣官房)

⑤グローバル・スタンダードの語学力基準としてCEFR(セファール)の活用が広がる

これまで述べてきた、静かなる「英語共通語化」への一連の動きに用いられている英語力基準が、4技能(聞く・読む・書く・話す)ごとに能力を測定できるCEFR(セファール:ヨーロッパ言語共通参照枠)である。
10年前の「英語公用語化」時代には、英語力基準にTOEIC®L&Rが用いられて定着してきた。しかしこれは、あくまでも「聞く・読む」という受容スキルを測るためのテストだ。このテストの高得点者を“国際業務の適性がある”として採用・配置すると、「話すこと」が求められる業務で十分に話すことができず、業務に支障をきたすなどのミスマッチが生じた。
 
この教訓もあって、現在進行中の「英語共通語化」では、スピーキング力を中心に位置づけている。また、スピーキング力はスピーキングテストでないと測ることはできないという前提にもとづいている。そこで、4技能別で定できるCEFRのスピーキングレベルが用いられるようになったわけだ。

TOEIC®L&Rスコアでは、スピーキング力の実態は測れない。海外では職位に求める英語のレベルもCEFRで設定

2021年にレアジョブが約5,000名を対象に実施した大規模調査では、「TOEIC®L&Rのスコアでは、英語を使って十分に業務ができるとされるレベル」にある人々のうち、たった8%しか、CEFRで同等の「英語を使って十分に業務ができる:B2」レベルのスピーキング力を持ち合わせていなかった。

そこで、グローバルビジネスを本格的に展開しようとする企業では、英語力の基準をCEFRに変え、その技能の中でも、英語研修を【話す力】を重視した内容にシフトしつつある。

日本企業では今後広がる状況だが、実はCEFRは、国内のビジネス以外の学校・大学や研究領域ではすでに浸透している。NHKの語学番組では2012年からレベル表記にCEFRを採用。文部科学省が示す学習指導要領においても目指すレベルの指標はCEFRによって設定されている。
CEFRはすでに海外で広く活用されており、ヨーロッパはもちろんアジア諸国でも英語教育の枠組みとして使われている。またグローバル企業が語学基準として、採用、社内公募のポストの条件などに用いている。

ある調査によると、日本の企業で英語使用部署にいる社員に求められるのはB1レベル以上、責任あるポストにいる場合にはB2とされている。しかし現実は、大半のビジネスパーソンのスピーキング力は必要とされるより1~2レベル低い。またB2というレベルはグローバルビジネスの世界では最低限のレベルであり、海外のグローバル企業の採用要件はC1、C2レベルと非常に高い。こうした比較から課題を明らかにできるのも、国際標準かつスキル別測定が可能なCEFRならではの利点である。

「静かなる英語“共通語”化」の動きの中で、CEFRのメリットに注目し社内の英語基準に活用するケースが今後も増えていくと思われる。

本記事では、英語×企業×社会動向のリアルな動きと、着実に進行している英語“共通語”化の動きを紹介した。短期的にも中長期的にも、企業活動や社会の動き応じて英語の重要性は今後より一層高まっていくはずだ。


【スピーカー紹介】
株式会社プロゴス 取締役会長
安藤 益代(あんどう ますよ)

野村総合研究所、ドイツ系製薬会社を経て、渡米。滞米7年半の大学院/企業勤務経験を経て帰国。シカゴ大学修士。ニューヨーク大学MBA。英語教育・グローバル人材育成分野にて25年の経験を有する。国際ビジネスコミュニケーション協会で、TOEIC®プログラムの企業・大学への普及ならびにグローバル人材育成の促進などに本部長として携わる。EdTech企業執行役員を経て2020年よりレアジョブグループに参画。国内外のEdTechコンテストの審査員も歴任。講演、インタビュー、執筆多数。2022年4月より現職。

お話しできる分野)法人市場動向、グローバル人材育成、英語力関連 など

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