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大川企画vol.1『ラブワクチン』クロスレビュー

演劇クロスレビュー。今回はプロデューサーの大川望美が様々な演劇を作り上げるプロデュース企画、大川企画の旗揚げ公演を取り上げる。

今回のレビュアーはヤバイ芝居と公社流体力学の二人です。

大川企画vol.1『ラブワクチン』
会場 / Geki地下Liberthy
演出・脚本 / 友池一彦(TOMOIKEプロデュース)

出演 /
 岡部直弥、吉田知生、後藤泰観、茉宮なぎ、宮藤あどね、板橋康人、平野隼人、池田貴栄、倉貫匡弘、岡田竜二、国崎恵美、友池さん 

あらすじ
 石原佳祐はマスク工場に就職した。新型ウィルスが蔓延し世間が大きく騒ぐ中、ウィルスはSEXすれば感染しないという噂が流れる。そんな中、工場が国の政策で行われるイベントのコラボマスクを作るという大きな仕事が舞い込む。その担当としてやってきた男性に石原は心を奪われる。何故ならその男は石原の理想の男性まさにそのものだったからである。
 
ヤバイ芝居(観劇者)
 大川望美(プロデューサー)の「消滅する舞台を見過ごせない」という意味のツイートを見たのが、発端。大川企画、旗揚げ。こういう心意気は見過ごせない。我々が「小劇場演劇」として観ているものは大部分が「心意気」だ。誰が観るんだ?でもやるんだよ!フライヤーを見る。手練れの集団ぽい。やらかした?クロスレビューのコンセプト「まだ誰にも知られていない演劇を知らしめる」とズレてるくさい。面白かったと言えますように。どっかの演劇ジャーナリストか。無くなっちゃうGeki地下Libertyに行くと作演出・友池さん(さんまでが芸名)のユルい前説。始まる。ダルい。後々の展開を匂わせていくリズムと(舞台である)町工場の閉塞感が相まって、芝居は今ひとつ弾けない。コロナから始まってジェンダー/YouTubeビジネス/政治腐敗と問題意識のワンプレートで胃にもたれる。が、後半から俳優と演出の粘り腰でリアリティを醸し出す。国崎恵美(終始、険しい顏でラウンドキャラクターを演じる・笑)も弾ける。事件は収束しても事態は終息しない。ほんの少しだけ、全員が前を向けて、幕が降りる。現実はハード。前説の友池さん、目は笑っていなかったのに気づく。しかも関西弁。この全てから目を背けないシブとさが(俺の思う)関西演劇。全然、関西と関係無いのかも知れない。倉貫匡弘の北関東感も含めて、侮れない演劇だった。5点。

公社流体力学(美少女至上主義者) 
  旗揚げではあるものの手練れが揃っている為、しっかりとしている。脚本は破綻はないし、舞台美術もバッチリ。役者陣も好演。特に、国崎恵美さんは素晴らしかった。恋人のいない中年の事務員役を怪演し、催眠術にかかるシーンのインパクトは最高。だからこそこの作品は失敗したのだ。
いや、確かにしっかり作られているし破綻はないがかといって特筆すべき部分がないのだ。同性愛とか愛の問題を取りあげるがその問題の奥底には触れることなく物語として消化する。何もかも普通なのだ。何より、SEXすればウィルスに感染しないという設定があるのにこれが全くと言っていいほど活かされない。この設定が個性を生み出すはずだろうに、死に設定になった以上個性は生まれず。シリアスな愛の物語も、いかにも劇のセリフという感じで殻を破らない。全体的に普通、そんな中一つ輝くのが国崎恵美さん。
 そう、あまりにも国崎恵美さんが強すぎて物語を喰ってしまったのだ。下品で押しが強いがちょっと抜けていてチャーミング。国崎さんが出るたびに爆笑が生まれる。立ち位置としてはタダのコメディリリーフの脇役なのだが気づけば本筋そっちのけで次はいつどんなことするのかと期待してしまう。愛の言葉ではあんなにぎこちなかったのに、コメディシーンでは光り輝いている。演出脚本の友池さんは芸人さんなので矢張り本業であるお笑いだととても生き生きしている。国崎さんの怪演と友池さんのケミストリーによって、作品の印象は脇役の国崎さんに占められてしまった。
 ただ、あくまで普通に面白いの範疇である。最初に書いたようにしっかり作られているし、上演時間飽きることなく楽しめる。それに国崎さんという爆弾もある。客観的には6点あげても良いと思うが、でもやはりトータルバランスは引っかかるのでこういう企画ですし主観優先した点数で。
5点

というわけで、20点満点中は10点でした。
二人そろって劇のはじけなさで点数が伸びなかったが国崎恵美を始めとして、部分部分は輝く美点がある。はじけなかったとしてもちょうど真ん中の普通の点数というのは純粋な技術力の高さをしめしている(かもしれない)。
手練れを集めるプロデュース力は見れたので次はどんなプロデュースをしてくれるのか楽しみである。(公社)

執筆者の紹介


ヤバイ芝居
(1971生。ヤバいくらいに演劇を観ない観劇アカウント(@YabaiSibai)since2018秋。Twitterでヤバイ芝居たちを応援していたら九龍ジョーに指名されて『Didion 03 演劇は面白い』に寄稿したのが、人生唯一のスマッシュヒット。最近、noteを始める。)

公社流体力学
(永遠の17才。2015年旗揚げの演劇ユニットであり主宰の名前でもある。美少女至上主義を旗印に美少女様の強さを知らしめる活動をしている。やってることが演劇かどうかは知らんが10代目せんがわ劇場演劇コンクールグランプリ。5月に公演『夜色の瞳をした少女、或いは、夢屋敷の殺人』@せんがわ劇場をやります。note

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