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「ナノ・ユニバース事業部長に聞く顧客に選ばれる店舗・ECのつくり方」セミナーレポート

コロナ禍を経て、お客様の足が実店舗へ回帰しつつある昨今。
お客様に選ばれるブランドになるためには、店舗のあり方、店舗で体験できる価値の向上を目指し、常に見直していくことが求められます。
同時に、ECサイトやアプリのあり方も、お客様を満足させるために重要なポイントとなります。
実店舗とECサイト、どうすれば改善していけるのか?
どのようにして、CX(顧客体験)を向上させる取り組みをすればいいのか?
こう悩んでいるアパレルブランドの責任者、担当者さまは多いはず。
 
今回のセミナーでは、そんな疑問や悩みを解決するヒントとなるお話をたくさん伺うことができたので、ご紹介させていただきます!
 

セミナー概要

『ナノ・ユニバース事業部長に聞く顧客に選ばれる店舗・ECのつくり方 ―CX改善に活かすNPS・CRMとはー』
開催日:2024年04月16日(火) 15:00 - 16:00
会場:オンライン(Zoom)
参加費:無料
アジェンダ:
 ・株式会社エンゲージ、株式会社プレイドのご紹介
 ・ナノ・ユニバース事業部長に聞く顧客に選ばれる店舗・ECのつくり方
 ・質疑応答

登壇者紹介


株式会社TSI ストリート&カルチャーDiv ナノ・ユニバース事業部長
大塚 有希
大学を卒業後、ナノ・ユニバース創業まもないタイミングで入社。店長・バイヤー・DB・MDを経て事業部長となる。
直近10年はECチャネルに最大注力し、2020年より店舗運営部門長も兼任し、店舗とECの垣根をなくし「CX創出ブランド」としてのポジションを確立するべくOMO領域に注力。
2021年にナノ・ユニバースを退社し、外資コンサルティング会社に2年間在籍。
2023年に復職し、2022年に実施したリブランディングを受けてのブランド再構築に現在邁進中

株式会社エンゲージ 代表取締役
藤谷 拓
文化服装学院を卒業
ファミリーアパレルメーカーに10年勤務し100店舗以上の店舗運営に従事。
2010年よりNPSを活用したロイヤルティ向上事業(NPS)立上げ
2019年に小売(アパレル)・流通業をメインしたCXとEXのコンサルティング会社(株式会社エンゲージ)を設立。
代表取締役に就任。

株式会社プレイド Sales Manager
中野 康平
大学卒業後、小売事業者向けのコンサルティングや、Webメディアの記者等を経験したのち、2020年4月にプレイドに参画。
セールスやカスタマーサクセスを経験したのち、OMOのプロジェクト推進担当に就任。現在はOMO領域のPMとして、プロダクトとビジネス双方の開発を推進しつつ、アパレル業界企業のCX改善に向けた提案活動も行っている。

株式会社エンゲージ、株式会社プレイド紹介

●株式会社エンゲージ

アパレルブランドを中心に、お客様の声を使ってCXを改善するためのサポートをしている。現在は180ブランド、8000店舗の支援。
お客様の声・フィードバックを集める「x-gauge」、着用体験などプロダクト・単品ごとに確認することができる「x-gauge for PX」という独自のソフトウェアを開発し、それを元に、ただ情報を提供するだけではなく、「お客様に選ばれる」ブランドになるためにブランドと並走し、コンサルティングをおこなっている。
https://en-gauge.jp/

●株式会社プレイド

ウェブサイトやアプリへ来訪したお客様の行動をリアルタイムに解析して一人ひとり可視化し、個々のお客様にあわせたサイト内外での自由なコミュニケーションをワンストップで実現するサービスCX(顧客体験)プラットフォーム「KARTE」を開発、運営。
ウェブサイトやアプリといったオンサイトでのマーケティングのみならず、カスタマサポートや広告領域、店舗でのOMO体験なども含め、一貫した顧客体験の提供が可能になります。
https://plaid.co.jp/

ナノ・ユニバース事業部長に聞く
顧客に選ばれる店舗・ECのつくり方

大塚様は、ナノ・ユニバースが創業間もない頃に入社し、多くの部門の責任者をこなした後、「外の世界からアパレル業界を見るため」に外資コンサル業界を経験。そしてリブランディングしたナノ・ユニバースに復職し、今までの経験をフル活用してCXの向上に注力しています。
そんな大塚様に、CXにこだわる理由から、そのための取り組み、具体例までくわしくお話しいただきました!

今、顧客体験がなぜ求められるのか

そもそも、顧客に選ばれる店舗・ECのつくり方において、なぜ顧客体験が求められているのか?3つの観点から顧客価値に着目した背景についてお話しいただきました。
消費者の期待値の変化
 インターネットやSNSの浸透により、流通する情報量が圧倒的に増えたことは、消費者の情報アクセス権と期待水準に根本的な変革をもたらし、製品やサービスに透明性、カスタマイズ性に高度な要求を持つようになりました。
豊富な情報にアクセス可能になった今だからこそ、ある程度消費者が摂取する情報をコントロールできた昔とは違い、比較や検討が容易で多様になりました。その情報に基づいた購買選択を迅速におこなえるようになり、パーソナライズされた商品やサービスの提供を期待するようになってきています。
 
■市場競争の激化と顧客体験の重要性
 豊富な情報に加え、市場が激化する中で、機能やサービスの面のみで差別化を図ることが困難になりました。サービスや商品だけではなく、感触や感情、利便性を重視することで、体験に焦点をあて、感動的な体験を提供することでブランドと顧客の強固な結びつきを生むことに繋がります。それが好感度の向上、そしてリピート購入やポジティブな口コミの投稿につながり、ブランドの市場地位の強化と、新規顧客獲得に大きな影響を与え、ブランドの持続的な成功、成長の要諦になるのです。
 
■ビジネス成果への直接的影響
 そして、顧客中心のアプローチによる顧客体験の質の向上は、「収益増加のドライバー」となり、「コスト削減」にもなるという二重のビジネスバリューを創出してくれます。
 ブランドに愛着をもつ優良顧客を増やすことで収益を上げることに繋がりますし、リレーション度(企業と顧客との信頼関係)が上がって、顧客からのフィードバックを正確に、効率的に活用することで、顧客の求めていることを理解し、無駄なものづくりや、無駄なコストを削減できることも大きなポイントとなっています。

顧客価値を高めるためのナノ・ユニバースの取り組み

デザインや機能面の充実だけでは、差別化を図れない。ではナノ・ユニバースでは、ブランドの成長に於いて、どのような取り組みをおこなっているのか。「店舗視点」と「EC視点」、そして「店舗スタッフへのインセンティブ制度」の3つに分けて、その一部を教えていただきました。

■店舗視点
NPS(ネットプロモータースコア)®(注)の活用
 店舗の体験に於ける「ストア体験(トランザクション)NPS」、商品視点に於ける「プロダクトNPS(Px)」、ブランド全体のサービス設計に於ける「ブランドNPS(リレーション)」の3軸を以て、お客様からのフィードバックをいただいています。
 「ストア体験(トランザクション)NPS」では、接客体験ごとのポジティブ、ネガディブなお声を把握するとともに、タイムリーな課題を見つけ、素早い改善行動に繋げることができています。それらを、顧客ロイヤルティ向上の実現に向けて、ブランドをより良く愛してくれるお客様を可視化して獲得していくために活用しています。
 「プロダクトNPS(Px)」では、なぜこの商品を選び、他を選ばなかった理由を把握することで、商品の満足度や愛着度を測り、顧客に寄り添った商品企画や開発を可能にします。さらには、どんなお客様が、なぜ買ってくれたのかを知り、商品レビューの精度を上げ、より良い商品企画と開発を実現するために活用しています。
 「ブランド(リレーション)NPS」は、ブランドの“健康診断”と考え、現在地の把握や課題や強み・弱みの発見をして、ブランド成長のたねを見つけることが可能で、今後は今よりもっとお客様と寄り添い、ブランド側では気づくことができない課題の抽出を、お客様と一緒に取り組んでいける未来を目指しております。
 
 NPSと売上の相関関係は、データを見れば一目瞭然なのですが、批判者を減らして推奨者を増やすことで、収益改善・強化につながります。(NPSのスコアが高いほど、売上、買い上げ点数が高いのです)
 ブランドとして、NPSのスコアを上げるためにどこまでできるのかを考えること。
 店頭に於ける接客の可視化は難しいですが、NPSはそれを可視化するツールとして最適で、スタッフ自身がそれらを確認し、自身の接客パフォーマンスのどこが良かったのか、どこが悪かったのかを実感し、成長や改善に繋げていくことができるのです。
 
「LINE Staff Start」
 これは、お客様とスタッフが直接LINEでつながる取り組みです。店舗スタッフが、直接連絡できるお客様を増やすことを目的に、店舗スタッフの公式アカウントを作成し、そこを通じてお客様に直接情報を発信。そうすることで、接客の成果が可視化でき、スタッフの多様な評価にもつながると考え導入しました。
 2023年2月からの導入を経て、現在は繋がり件数が約2万人、LINE経由時の客単価は1.7倍、セット率は1.5倍と大きな成果を出しています。目的であった「直接連絡できるお客様」は、店舗スタッフにとっての新たなヒーローとなり、受動的な接客から能動的な接客(販売スタッフから営業スタッフへ)にコンテキストチェンジすることができました。
 
■EC視点
「試着予約」
 ECサイトからアポを取ってもらい、気になっている商品を試着する予約をするこのサービス。サービススタート時は好評で件数も多かったものの、コロナ禍を経て、現在は鈍化しておりますが、他ブランドでも成功しているこのサービスは、今後一番注力しようと考えています。
 
オフィシャルのECサイトの役割としては、そこで多くの売上を作るためのものというよりは、まずはサイトを窓口、入り口として活用してもらい、ナノ・ユニバースを知ってもらい、気になった商品をチェックしていただくこと。
そして、実店舗に行って良い体験をしてもらえれば、リピート顧客を生み、ブランドへの親しみをより強固に持っていただけると思っていますので、「試着予約」はそれらを実施できる強いツールになると確信しております。
https://store.nanouniverse.jp/jp/
 
■店舗スタッフに於ける評価・インセンティブ制度
 スタッフに対する多様な評価とインセンティブ制度も、ナノ・ユニバース独自のもの。
 6つの計数から算出されるスタッフ毎の偏差値ランキングが毎月あり、そこに与えられる偏差値ランキングインセンティブの他に、顧客売上高に応じた手当、SNSのフォロワー数に対する手当、そしてSNSを経由した売上に対する手当の3つが運用されています。
 これは入社して全てのスタッフに与えられている制度で、各スタッフのスキルを可視化するとともに、自身の強みや伸ばすべきスキルを把握してもらい、将来的なキャリアパスをクリアにする目的にもなっています。
 そして、この多様なインセンティブ制度が、顧客体験やブランドロイヤリティの向上に寄与すると考えています。

エンゲージ社、プレイド社も交えたディスカッション

●NPS・CRMに注力した理由
大塚「やはり、ブランドの独りよがりになってはいけないと思っています。何か打ち手を講じた時に、それをお客様がどう感じたかということを掬い上げる必要があります。多くのお客様からお声をいただいていますが、その中には自分たちが気づいていない課題が潜んでいますし、自分たちが今やっていることがお客様に取って正解なのか、それをお客様自身が客観視してくださるので、必ず必要な部分だと考えています」
 
●CX改善について
中野「ECサイトの役割について、店舗への窓口のようにという話がありましたが、CX改善に於いてオンラインでこんな展開があればいいな、という点はありますか?」
大塚「NPSからアプリの使いやすさについての声が多いので、まずは使い勝手のいいアプリに、ECサイトにしたいというのが一番です。
そして、注力したい“試着予約サービス”を知ってもらい、体験してもらうようなつくりにしたいですね。試着予約をして、過去のお客様の購入情報やお気に入りに入れている商品情報を店舗スタッフが把握し、来店時にそれらに合わせた商品を考えて接客することができるので、他にはない強いツールだと思っています。きっと店舗体験の価値を上げてくれると期待しています」
藤谷「CX改善につながるVOC(お客様の声)を集める中で、驚きやスタッフの変化があれば教えてください」
大塚「スタッフのことを承認できるようになったことが大きな利点だと実感しています。いろんな店を回りますが、感動体験を創出したスタッフを認知し、承認してあげられる。本部のスタッフが店舗スタッフを認識して、称賛するのはなかなか難しい部分があるので、そこが本当に良かったです。
スタッフの変化としては、自身の接客が良かったのか悪かったのかを可視化できることで、その評価で自身の接客を考えるきっかけになっています。第三者から、しっかりとコメントをいただくことで、スタッフが自分自身で考えるようになったと感じています」
 
●今後の展望を教えてください
大塚「VOCやNPSを活用して多くの取り組みをおこなっています。その部分を、再現性高いブランド、再現性高いブランドビジネス運用の構築につなげていければと思っています。
リレーションをどう高めるのか、VOCをどう運用改善に繋げられるか、社内の運用改善などの部分を構築できれば、別のブランドや、リーダー(上の者)が変わってもある程度同じ水準を保って運用できると考えています。そういうところを構築していきたいですね」

セミナー参加者からの質疑応答

ここからは、セミナー参加者からの質問にお答えいただきました。

Q:「ストア体験NPSについて。アンケート結果の検証タイミングは、いつ、誰がどのようにおこなっているか、検証結果のアウトプットはどう社内共有しているか」
大塚様:「NPS担当チームがあるので、まずはそこがデータの分析をおこない対応します。その中で課題があれば、他チームと連携していきます。
 アウトプットは、責任者やマネージャーが集まる前月のアクションに対するブランドのサーベイの会議の中で、NPSのアジェンダがあるのでそこで共有しています。現在の推奨度や、見つかった課題、抜粋したお客様の声などを全員で確認しています。」
藤谷:「ナノ・ユニバースは、とても細かく設計・運用していますよね。用途・目的に応じてサーベイの配信のタイミングなども考えて運用されています」
 
Q. 試着予約のサービスを浸透するためには良さを知ってもらう必要があると思いますが、そのために取り組んでいることはありますか
大塚様:
まさにこれから力を入れて取り組んでいく必要があると思っています。具体的には、UIUXを良くして、「試着予約」のバナーやボタンの位置を検討。そしてサービスを使ってくれたお客様に対して、ポイントの配布やディスカウントをおこなうなど、まずは一度トライしてもらうように策を考えています。
 あとは店舗スタッフからの情報発信も加え、地道にやっていこうと考えています。

さいごに

顧客体験の価値を向上させることが、売上にも直結し、ブランドの成長にも大きな役割を果たすことがわかりました。
 安価な大量生産の商品、消費者の気持ちの変化、市場の多様化など課題がたくさんあるアパレル業界に於いて、よりお客様に寄り添うことでブランドロイヤリティの向上を実現しているナノ・ユニバースの真髄を伺うことができました。
また、顧客づくりは結果的に(マーケティング)コストカットにつながり、
高利益体質になるお話は、さすが外資系コンサルで揉まれてきただけあるなぁと感じられ、我々も学び続け、リードしていける存在にならねば。と改めて決意を新たにすることができました。大塚さま、貴重なお話しをありがとうございました。
 
(注)ネット・プロモーター、ネット・プロモーター・システム、ネット・プロモーター・スコア、NPS、そしてNPS関連で使用されている顔文字は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、NICE Systems, Inc.の登録商標又はサービスマークです。