「明日が良い一日になればいいな」
私はそう思いながら眠りにつくことにしている。
今日が良い日でなければ、明日は良いことがありますように。
今日が良い日であったとしても、明日はもっと良いことがありますように。
私達は誰しも、明日が良い日になればいいと願っていると思う。
わくわくするような”良い日”とは、どんなものだろう?
例えば、大好きな友達や恋人と会う日。
例えば、ずっと行きたかった場所に行ける日。
例えば、美味しいディナーを食べに行く日。
例えば、夢だったことが叶う日。
そして、それらを彩るように、大好きな服を着る日。
なんでもない一日を楽しくしてくれたり、素敵な一日をさらに素敵にしてくれたりするのが、ファッションであり、1枚の洋服である。
その、私たちの1日に彩りを与えてくれる、たった1枚の洋服を提供するために、日々試行錯誤をしてくれているのが、今回話を聞いたユナイテッドアローズだ。
誰もが知っているユナイテッドアローズ。
その地位に慢心することなく、「お客様の明日を創る」という理念と共に、お客様の声(VOC)をいかに大事にしているか、いかにそれらを活用しているかを聞いたので、セミナーレポートとしてまとめていきたいと思う。
登壇者紹介
セミナーが始まり、まず藤谷氏から株式会社エンゲージの紹介がなされた。エンゲージについては、私が初めてセミナーに参加した時のレポートにて詳しく記載しているので、未読の方はそちらを是非読んでほしい。
コロナ禍に溢れる「触れない」の中で、お客様の心に「触れる」大切さ―イベントレポート(noteリンク)
グランドデザインとは?
藤谷氏は、アメリカの大手ディスカウントスーパーのTARGET社の事例を元に、VOC収集のグランドデザインについて述べた。
TARGETでは、VOCを収集するにあたって、どのタイミングで、どういう相手に、どういう内容のアンケートを設け、そしてそれらをどう処理するのかという”デザイン”をしているという。
本日登壇するユナイテッドアローズでも同じように、VOCの収集においてデザインがある程度決まっているとのことで、その詳細を話していただく。ファッション・小売業を営む側からすると喉から手が出るほど知りたい内容と言えるだろう。
これから聞く本題にて使われる用語の説明があったので下記にまとめておく。
お客様の声を集める際に用いられる2つの大きな方法
■リレーション調査…半年、もしくは一年の期間において、ブランドとお客様の接点についての評価を問うもの。さまざまな体験を網羅的に聞くブランド調査に近いもの。調査・改善主体は主に本部。
■トランザクション調査…会計ごと・接点ごとの調査。今日の体験について評価を問い、現場ないし本部にフィードバックするもの。調査・改善主体は主に現場。
ユナイテッドアローズ 小林貞裕氏登壇
そしていよいよ、ユナイテッドアローズ小林氏が登壇。
先日の繊研新聞にて、ユナイテッドアローズが好調だという内容がニュースになっていると藤谷氏は口火を切った。
(ニュースの内容は検索すると読むことができるので、是非検索して読んでほしい)
その内容を藤谷氏が読んだ中で、好調となったポイントを三つ挙げた。
「値下げをやめてプロパー販売をしたこと」
「MD・適正在庫が上手くいったこと」
「お客様からのありがとうの声がとても増えたこと」だという。
小林氏はその通りだと答え、上記二つはどこの会社でもキーポイントとして押さえているところだが、三つ目にあがった「お客様からのありがとうの声」が劇的に増えたと告げた。
”感動接客”を目標に掲げ、全社員がその言葉に沿いお客様への接客に真摯に向き合った結果だという。
藤谷氏は、”ユナイテッドアローズの接客の良さ”はあちこちで話に上がるほどのものだと頷いた。
その接客の良さはどうやって創られているのか、VOCがどう活用されているのかを、本日3つの大きな内容に分けて語っていただく。
エンゲージのセミナーお馴染みの、参加者がより聞きたい内容を投票して詳しく話すテーマを決めるアンケートでは、①に多くの投票が集まった。
結果を受け止めつつ、小林氏はまずユナイテッドアローズについての説明から話し始めた。
ユナイテッドアローズでは元々、”お客様の声”を集めるのにはがきを用いていたり、従業員がその場でメモを取って集めるというアナログな方法を取っていたのだという。
それをNPSという概念の元、現社長の松崎氏が声をあげてグランドデザインが作られるにまで至った。今回は、そのグランドデザインを大きく3つに分けて紹介。藤谷氏の補足や、参加者からの質問とその答えを合わせてまとめていく。
1.全社トランザクション(365日)調査の概要と活用
まずは、多くの参加者が気になっている項目、会計ごとのVOC収集についてだ。
主に会員登録(ハウスカード会員)をしているお客様へ、会員カードを読み込んで会計をした次の日に、購入いただきありがとうという”サンキューメール”が自動的に送られる仕組みをとっている。その中にお客様アンケートを添付し、エンゲージのアンケートソフトウェアに飛ぶというもの。購入してすぐのアンケートだと、記憶も新しいので答えやすく、とてもいいシステムだと思う。
そして回収されたアンケートは、毎週月曜日に『お客様相談室』へフィードバックされ、そこでフォローが必要かつ、連絡をしても良いと回答されたお客様へ、お客様相談室から連絡を取り対応をする。即座に対処、フォローアップすることで、お客様の満足度が向上し、同時にお客様の心情理解の探求も進めることができるのだ。
お店に連絡するほどでもないが、少し気になることがあった時など、ブランドの方からこういった対応を取ってくれるということは、客側からしても「またここで買おう」と思わせてくれる真摯な対応であると言える。
そのVOCの内容や対処・結果は全社に共有され、ブランド全体でレベルアップできる取り組みがなされている。
なにより、こういった対応を各現場がするのではなく、専門の部署を置いていることで、より的確な対処ができる上に、販売員は現場に集中できる。ただの『お客様相談室』ではなく、VOCの要を担った重要な部署だと言える。
そんなVOCの要であるお客様相談室の室長にインタビュー動画内にて話を聞けたので下記にまとめる。
お客様相談室 室長 澁谷裕一氏インタビュー動画まとめ
ここまでのQ&A
2.半期ごとリレーション調査の概要と活用
続いて、ハウスカード会員に向け、年に2回実施しているというリレーションサーベイについての話だ。
ユナイテッドアローズでは、6月と12月に実施しているという。先述したとおり、マーケットや、ブランド自体の接客・商品を主体にアンケートを取る、ブランド調査のようなもの。半年の期間内に、一度でもカードを通して買い物をした顧客に向けてメールを送付する形だ。
それをトランザクションと同じくエンゲージのシステムにて集計し、役員会議の場であったり、各ブランドの発表会、店長が出席するウェビナーの場でフィードバックしているという。そして今年から発足した「お客様の体験価値を向上させる」ことが目的である各ブランドのCXチームにも共有し、行動レベルにて改善活動を落とし込む。
そうすることで、NPSの”推奨者”を増やすことに繋がり、ユナイテッドアローズでは着実に半年間の平均購買金額を伸ばしているそうだ。
推奨者を増やすために動いているCXチーム。その中のBEAUTY&YOUTHブランドのCXチームリーダーに、インタビュー動画内にて話を聞けたので下記にまとめる。
※CXグループ BYCX推進部CXチームリーダー 高橋功氏インタビュー動画まとめ
小林氏は、リレーションをさらに活用しているという内容について続けた。
それはアンケート回答者の中から、モニター調査やグループインタビューの参加を募集し、次期商品への意見をインタビューしたり、新しいレーベルのワークショップに招待し意見をもらったりしているという。
これが非常に様々なところで生かされており、さらには参加したお客様からARIGATOレポートに載るほどのコメントをいただいたりと、多くのメリットがあるというのだ。
このような活用方法に参加できる機会を設けていること、それはユナイテッドアローズというブランドを別の角度から見れるチャンスであり、さらに好きになるポイントにもなる素晴らしい取り組みだと思った。
その3.それ以外のVOCサーベイの概要と活用(アウトレット)
最後は、アウトレット店舗でのグランドデザイン。
年間2回、紙(QRコードが記載されたカード)を配りアンケートを回収し、各部署・各店舗へフィードバックして改善活動をしているという。
何故アウトレットでは独自の方法をとっているのかというと、やはりアウトレット店舗は顧客も多く滞在時間も短いため、接客体験を受けない方が大多数だそうだ。なので、接客を前提とする他のレギュラー店舗の傾向とは異なり、リアルな声を集めることができないからだという。
接客を受けたか/受けていないかによって分岐する独自のアンケートで、しっかりと本当のお客様の声を集められる内容となっていた。
同じ内容のアンケートを全店で使用するという簡単な方法ではなく、それぞれに合わせたものを設定しているという、ユナイテッドアローズの誠実な心が分かる内容であった。
小林氏、そして澁谷氏、高橋氏をはじめ、ユナイテッドアローズが企業理念である”お客様の明日を創る”という主題に向かい、VOCを活用しながらいかに本気で取り組んでいるかが分かるセミナーであった。
変わりゆく世の中、顧客の心情、”お客様の今日”をどのように知って、そして対応し、明日を創っていくのか。
これからのユナイテッドアローズがさらに楽しみになる話が聞けた。
Q&A
私たちの明日
中学生の頃、初めて自分のお小遣いで自分の服を買い、明日それをきて遊びに行こうとドキドキして眠りについた夜の気持ちを、私は未だに覚えている。
そしてその新しく買った服を着る時のドキドキは、大人になった今でも変わらない。
「明日のデートは、この服でいこう!」
「明日は寒くなるから、このカーディガンが着れる!」
「明日は女子会だから、ワンピースお揃いで着たいな!」
ユナイテッドアローズのいう”お客様の明日を創る”という理念は、こういう日常のドキドキを創ってくれることだと思う。
たった1枚のスカート、たった1枚のトップス、たった1枚のワンピースで、私たちの気分はこんなにも上がるのだ。
良い日にも、悪い日にも、必ず明日はやってくる。
そしてその明日が、今日よりも良い日でありますようにと願いを込めるだろう。
鏡の前でとっておきの服を合わせながら、”明日”に期待を寄せて。