NPS初心者講座【店舗運営に役立つ顧客満足度向上の基本】セミナーレポート
■はじめに
店舗運営企業で新たにCSやCXの部署に異動された方や、新たに店舗を運営している企業に入社された方など、NPS初心者の方を対象に、「NPS初心者講座:店舗運営に役立つ顧客満足度向上の基本」と題したセミナーを開催しました!
本セミナーでは、顧客の声を聞くことの重要性とその背景について解説し、その後、顧客満足度向上の指標として注目されるNPS(ネット・プロモーター・スコア)の基本を学びました。
NPSとは何か、どのような調査を行い、どのように改善活動につなげていけばいいのかを、株式会社エンゲージで日々、お客様のNPSデータに向き合っているコンサルタントの鈴木が解説させていただきました。
鈴木は、2014年よりNPSを活用したロイヤルティ向上事業に従事し、SHIPSや阪急阪神百貨店などでトランザクションサーベイやリレーションサーベイの導入・運用支援を担当。
彼の実務経験を基に、NPSやVOCを活用した取組みについて学べる貴重な機会となりました。
そんな有益なセミナーの内容を簡潔にまとめたので、ぜひご一読ください!
■セミナー概要
1.株式会社エンゲージについて
株式会社エンゲージは、ファッション業界を中心に、顧客の声を基にしたマネジメント、店舗運営、マーケティングの改善支援をおこなっている会社です。
現在までに、約180ブランド・8,000店舗のサポート実績があります。
私たちは「エンゲージメントの向上」を目指しており、この言葉は「愛着」や「共感」、そして「より良い関係性」という意味合いで使用しています。
顧客エンゲージメント(顧客がブランドや店舗に抱く愛着・信頼関係)や、従業員エンゲージメント(従業員が会社やブランドに対する愛着・関係性)を、アンケート調査を通じて可視化し、これを基に改善活動をおこなっていくお手伝いをしています。
また、研修やワークショップの開催、運用のサポートも提供しております。
また、弊社では「x-gauge」という自社で開発したツールを提供しており、これを通じてNPSや顧客満足度、自由記述回答などのアンケート結果をリアルタイムで確認することができます。
店舗ごとや、ブランド全体のデータを確認し、スタッフや店長、SV(スーパーバイザー)、本部の方々に、日々の改善活動に活用いただいております。
公式サイトはこちら https://en-gauge.jp/
2.顧客の声を聞くことの重要性
そもそも、なぜ顧客の声を聞いて店頭体験の改善を含めた企業活動に活用していくということが重要なのだろうか。
小売業界は1990年代に売上のピークを迎えて以降、30年間、減少し続けています。これは主に日本の人口減少が原因であり、2050年までにさらに3,000万人以上の人口が減少すると予測されています。
そうなると、現在のブランド数や店舗数が、人口に見合わず過剰となる時代が訪れてしまうのです。
加えて、円安を含めた不安定な経済状況で、先の見通しが難しい中でも成長していかなければなりません。
また、顧客の消費行動も大きく変化しており、実店舗でショッピングを楽しみたいというお客様が根強く存在する一方で、ECサイトを利用する(実店舗で見てからECサイトで購入する等も)層が増加し、購買行動が今まで以上に多様化しています。
アメリカでは、2020年のコロナ禍に入ってから約1万2千店舗が閉鎖したそうですが、コロナが要因かと思いきやコロナ前でも年間約7,000店舗が閉鎖している状況でした。
利便性や価格を重視する消費者が増え、Amazonや他のEC業者が市場を席巻してしまっている中、従来型の小売業が売上を伸ばすこと、それがますます難しくなっています。
こうした市場環境において、「またこのお店で買いたい!」と思っていただけるような顧客体験、情緒的な価値を提供できないブランドや店舗は、この先生き残ることが難しい状況となっています。
メルセデスUSの言葉「delight or nothing(感動させなければ、何もなかったのと同じ)」というものがあります。
私たちは、朝起きてから夜寝るまでに、たくさんの世界的企業・ブランドの製品や商品、サービスを目にし、購入し、使用して生きています。
そんな世界的企業がライバルとして常に存在する日常の中に、どうすれば自社ブランドを入り込ませることができるのか。
それには、お客様に感動を与え、記憶に残る体験を提供することが鍵となります。
どうやって自社ブランドの体験を通じて、感動してもらい、記憶に残るような良い体験を提供できるか、どうブランドへの愛着を育むかが企業の勝敗を分けると感じております。
マーケティングの神様と言われる現役のアメリカの教授フィリップ・コトラー氏は、多くのマーケティング理論を提唱してきましたが、2018年に日本で開催されたマーケティングサミットで「とにかく聞かなければ分かりません。重要なのはタッチポイントごとに顧客からフィードバックを得て、それを基に改善を実行することだ」と述べています。
こういったことから、コロナや円安などの予測不能な出来事、そして顧客の消費行動の変化の中、“顧客の声を聞くこと”……それがいかに重要かが分かります。
3.NPS(ネットプロモータースコア)について
NPSも、“顧客の声を聞く”、そしてそれをもとに改善活動に繋げていくというのが大きなテーマです。
NPSは顧客ロイヤリティを測る指標で、具体的には「友人や知人にブランドや店舗を勧める可能性はどのくらいか?」という質問に対して0~10点で評価してもらいます。
NPSは、推奨者(9~10点)、中立者(7~8点)、批判者(0~6点)として区分し、推奨者の割合から批判者の割合を引いた数値がNPSのスコアとなります。
推奨者の割合を増やし、批判者の割合を減らす。そのための活動をしていくことがNPSスコアの向上にとって必要になります。
普通のアンケートとの違い
アンケートの手法はさまざまありますが、NPSの特徴として、単なる「このお買い物は満足しましたか?」という顧客満足度の調査とは異なり、上記のように「他者に勧める」というストレスのかかった質問を通じて、回答者の責任感が強まり、より真実味のある結果が得られる点にあります。
そして、スコアだけではなく性別や年代でグルーピングすることによって、数値の変動を追っていくことが重要です。
では、どうやって推奨者を増やすのか。
例えば、弊社の調査では、入店時に声かけがなく接客もない場合のNPSは平均で-1。一方、声かけと接客がある場合は+39という結果でした。
それだけで?と思うかもしれませんが、入店時の声かけや接客の有無は、推奨意向に大きく影響することがデータとして現れています。
能動的に声かけを行うことがNPS向上の鍵となりますし、こういったデータを元にした改善活動を常におこなうことが重要です。
売上につながるのか
そして、NPSを上げることが、どうビジネスにつながるかという疑問もありますよね。
弊社のクライアントデータの例ですが、推奨者は批判者や中立者に比べて、再利用意向や年間購入金額、購入回数が高く、NPS向上が売上の増加につながることが示されています。
NPSのスコアをあげ、推奨者を増やすことが、ビジネスとしても重要であることが分かっています。
顧客接点の質を磨き、期待を超える体験を提供するということが、NPSの向上に重要なポイントとなっています。
NPSの創始者、フレッド・ライクヘルド氏は、顧客体験において必要なことをこう話しています。
「左脳で満足してもらうだけではなく、右脳で感動してもらう。機能に満足してもらうだけではなく、感情や情緒面で強くポジティブな印象を残してもらう」
つまり、良い商品を提供するだけでは不十分で、感情を動かすような体験を通じて、顧客に選ばれる存在であり続けることが重要だと、ライクヘルド氏は語っています。
お客様の声を集める実践例
NPS活動では、まずウェブアンケートや店頭のアンケートカード、サンクスメールを通じてお客様の声を収集します。
ここで重要なのは、回答率を上げることや大量の回答を得ること自体が目的ではなく、一定の回答数が集まることで、データを定量的に分析できるようになるという点です。回答を集めることが目的にならないよう、店長やマネージャー、本部の方がスタッフに対して認知称賛を日々おこなうことが大切です。
こうすることで、スタッフが積極的に集めるようになり、クレームなどのネガディブな声を怖がらないようになります。そうなるように、スタッフへの日々のサポートが初期段階では重要です。
そうして集まったデータを分析し、課題や強みを明確にした上で、店舗全体で改善に向けた話し合い、コーチングを定期的におこないます。
このプロセスを繰り返すことでNPSは向上し、結果的に売上や来店数などのKPIも向上します。
このサイクルを弊社では「自律行動型の組織づくり」と呼んでおり、推進度の高い企業はこのサイクルをうまく回しているという認識ですね。
そして、NPS活動で得た学びは、部署や役割を越えてぜひ共有してください!
さらに、しかるべきポジションの人から、認知称賛を含めたフィードバックを各店長や店舗のスタッフにフィードバックしていただきたいです。
これらをおこなうことで、お客様とのコミュニケーションツールとしてだけではなく、社内のコミュニケーションツールとしても活用していただけると思っています。
4.質疑応答
質問1
「VOC(顧客の声)をどのように社内に波及させているか?成功事例があれば教えてほしい」
お客様から頂いた声、そしてそこから得た知見を共有する場を意図的に設けることが重要です。
そういった共有会の場では、「この店はスバ抜けてお客様アンケートが集まっているけど、どういう工夫をしているの?」「この課題にはどういう取り組みが必要かな?」「本社やSVはどんなサポートができるか?」等が話題となり、成功例の共有などをすることで、全体の改善につながります。
定期的に場を設け話し合うことで落とし込んでいき、お客様の声に基づいた学びを暗黙知にしないように、そしてこうした場では、できていない点を批判したり、一つの成功例を押し付けたりするのではなく、明るく、楽しく一人ひとりの意見を尊重する雰囲気を作り上げていくことが、社内波及につながると考えています。
質問2
「会社の風土を変えたいと思って、このNPSを取り組んできました。お客様が主語となるように、営業、店長、その他本部スタッフにも働きかけをしています。しかし、実際にお客様に転換されていることは、他の企業と比べて少ないです。特に商品、販促、不良品などお客様の声を聞いて改善できる部分は多くありますが、大きなアクションがありません。今後どうしたらお客様と企業の成長と結びつけていけるのか、発信できるのか知りたいです」
NPSの取り組みが進まない原因としては、そもそもNPSの目的や重要性が浸透していない場合が挙げられます。
自分ごと化させるために、NPSの取り組みが売上に直結することを、実データを用いて示してあげることや、取り組みを理解して推進しているスタッフから日々発信してもらうことも重要です。
そしてトップダウンで経営層がNPSの重要性を常に社内に発信し、社員の評価としてNPSを活用・反映することが理想です。
そうした上で、NPSの重要性を理解していても具体的にどういう行動を取ればいいかわからない場合もあります。
そんな時は、アンケートで得られたデータを分析し、新しく始めるべきこと、やめるべきこと、継続すべきことを整理して、具体的なアクションプランを決める場を設けてください。
日々業務に取り組む中で、新たな取り組みをスタッフ自ら自分に浸透させるのはすごく大変です。
弊社が提供しているワークショップなども活用していただければと思います。
「2:6:2」という法則があり、新しい取り組みには、積極的な2割、様子見の6割、消極的な2割が存在します。
全員を一度に巻き込もうとするのではなく、まず積極的な2割に注力し、彼らを表彰するなどでモチベーションを高めることに注力してほしいです。
積極的な層、スタッフを社内報で紹介したり、社長が直々に表彰したりすることで、様子見の6割を徐々に積極な側に引き込む形で進めることが理想的です。
ご質問いただいた方も、2割の積極的な仲間を見つけるところから始めていただければと思います。
■まとめ
顧客の声を聞き、それをデータ化・可視化することは非常に重要なことですが、それだけでは顧客体験は改善されません。
重要なのは、可視化された顧客の声から得た気づきを基に、「具体的なアクションを起こすこと」です。
どのような改善を行うべきかを考え、実際に行動に移すことで、初めて顧客体験を向上させることができます。
NPSの取り組みの本質は、このアクションを通じて顧客体験を変えることにある、という点を強調し、本セミナーレポートの締めくくりとさせていただきます!
店舗での接客体験向上のためのNPS収集、分析ツール「x-gauge」
https://en-gauge.jp/x-gauge
ご興味のある方は、ぜひ、お問い合わせください!