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貧困とか障碍とか、そういうことについてまとめて考えすぎてくるくるするー『本当の貧困の話をしよう 未来を変える方程式』『真夜中の陽だまり ルポ・夜間保育園』『ケーキの切れない非行少年たち』

石井光太『本当の貧困の話をしよう 未来を変える方程式』(文藝春秋)

三宅玲子『真夜中の陽だまり ルポ・夜間保育園』(文藝春秋)

宮口幸治『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮選書)

という順番で、3冊の本を読んだ(合間に他の本も読んでいるので、これらだけを連続して読んだわけではないが)。それぞれ、テーマは別々だし、言いたいことも違うのだが、現在の世界が抱えている問題をそれぞれに提起していて、しかも今のコロナ禍にあえぐ状況の中、問題は更に拡大されていることが推測され、息苦しく読むことに。

石井光太『本当の貧困の話をしよう』は、国内外の貧困、災害、事件等を取材して執筆している作家が、日本の格差社会の状況について、世界各地のスラムについて、ストリートチルドレンについて、性を売り物にする負の連鎖について、少年犯罪について、障碍について、自分が見聞きしたことを元に書いている。闇は深く、援助の手が差し伸べられても、また元の世界に戻ってしまう状況とか、負の連鎖について書かれているのを見ると、同じ世界に生きながら、何故このような状況が発生してしまうのか、考えるだけで苦しくなり、何もしていない自分の無力をひしひしと感じる。かつて高野和明『ジェノサイド』を読んだときに絶句した、コンゴでの内紛の様子なども思い出し、また、日本の刑務所の全受刑者の約2割に知的障害がある、という指摘は、『ケーキの切れない非行少年たち』につながる問題提起になっている。すべての人が自己肯定感を持てる社会を作ることで、一人一人が前向きに生きることを考え、貧困から脱するための道を開くことも可能だ、と作者は解く。この本は若い人に向けて、世界には様々な様相があり、それを少しでも善いものとしていくのは、一人一人の意識改革と前向きな気持ちである、ということを語り掛ける本だ。絶望している場合ではない。

三宅玲子『真夜中の陽だまり ルポ・夜間保育園』は、直接には貧困の話ではない。博多の中洲にある、認可の夜間保育園、どろんこ保育園の歩みと、そこに子どもを預ける人たちからの聞き取り、夜間に子どもを預かってくれる施設の歴史。水商売をしながら、幼児を育てるシングルマザーの多さ、ということをこれまできちんと認識していなかったことに気づく。深夜まで子どもを預かってくれる認可保育園の数は少なく、そして、保育園の保育の範疇では仕事にならない職種の人も多く、そういう人たちは保育園ではなくベビーホテルと呼ばれる認可外の保育施設を利用している。保育の基準が定まっていないので劣悪な環境にあるベビーホテルも多く、この本の中でも、前千葉県知事だった堂本暁子さんが、TBSの記者だった時代にベビーホテルの問題を突くルポルタージュを作成し、それをきっかけに児童福祉法が改正され、厚生省が夜間保育園を初めて認可した1980-1981年の出来事を取り上げている。どろんこ保育園は無認可の夜間保育園としてスタートし、認可保育園となり、程なく夜間保育も行う認可園となる。中洲(キャナルシティのすぐそばだということである)に斬新な現代建築の園舎を建て、モンテッソーリ教育を行う保育園。おしゃれな印象を受けるが、この本の中にはふわふわとした憧れで子どもを預けている親は出てこない。どうしても、昼間の仕事が続かず、夜の仕事をしながら、子どもの面倒を見ている母親たち。そうした保護者との対話を絶やさず、子どもの成長に最善の道のりを考える理事長夫妻や職員たち。保育園は子どもだけでなくその親も育てている感じ。保育園で預かれる年齢までは、子どもも親の生活リズムに合わせて生活していられても(昼夜逆転的で望ましくはないのだが)、子どもが学齢期に入ったら、そうは出来なくなる。それまでに生活のリズムを変えて、朝起きて昼間働く仕事に移ることを保育者たちが勧めても、なかなかそうは出来ない人たち。保育士たちには立ち入れない領域の先にどんな親子関係があるか、そこまでは保育園は追えない。

しかし、この本の中で一番印象的だったのはベビーホテルの保育士をした後でどろんこ保育園に移ってきた保育士の発言だ。ベビーホテルに子どもを預けている人たちは何故どろんこ保育園に申し込まないんでしょう、と著者が問うと、彼女は「そういう仕組みがあることも知らないはずです。それに、そんなことを考える余裕はあの人たちにはないんだと思います。(略)あんな難しい書類、書けないと思うし」と言い、彼女たちの多くが発達障害を抱えているのではないかと考察する。「わたし、思うんです。ベビーホテルに預けてる夜のおかあさんたちって、社会からネグレクトされた人たちなんですよね」(pp87-89) 石井光太の本の中で、負の連鎖から抜け出せなくなっている人として言及されている人達、その周縁にいる人たちがこの本の中で描かれていることに胸を突かれる。それは、この社会の中のすごく特殊な人たちではなく、至るところにいて、しかも、SOSの出し方すら知らないでいる人たちかもしれないのだ。

そして3冊目、宮口幸治『ケーキの切れない非行少年たち』は、ベストセラーになっていて、書店の新書コーナーで平積みになっているのを見た人も多いかもしれない。著者は、児童精神科医として、精神科病院や医療少年院で勤務後、大学で臨床心理の研究者となった人で、医療少年院で出会った若い受刑者たちが抱えるファンダメンタルな問題を提示する。発達障害よりも更に深刻な知的障害を抱える人たちが、行き場を持たず、衝動を抑えるすべを知らず、結果的に犯罪者となり、再犯を繰り返すことになる負の連鎖をどうやったら断ち切ることが出来るか、と認知機能トレーニング(コグトレ)を提唱する。巻末の「犯罪者を納税者に」という見出しが重い。学校教育の中で「困っている子ども」を早期発見し、支援する道筋を作れるか、そのために尽力している人たちの苦労に頭が下がり、また、このステイホームな状況が、こうした困っている人たちの支援を困難なものとしていることもまた、不安な気持ちを大きくさせる。

どの本も丁寧に現代の問題を解き明かし、提言と希望を与えてくれている。そして、読んでいるわたしは、自分に一体何が出来ているんだろう、と途方に暮れる。自分だけ別世界にいて、のぞき見をしているような申し訳なさを感じつつ、何が出来るか、少しずつ考えるしかないのか。

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