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本という形を手に取る幸せ:『ポール・ヴァ―ゼンの植物標本』(毎日読書メモ(484))

生協の本カタログで、見て楽しむ本、という特集の中に、ポール・ヴァ―ゼン、堀江敏幸=文『ポール・ヴァ―ゼンの植物標本』(リトルモア)という本があって、買ってみたら、実に素敵な本だった。
おそらく、100年くらい前に、フランスやスイスの高山で採取された植物の押し花。植物学者の手になるものではないようで、標本として必須である、採取日、採取場所の詳細が記載されていないのだが、丁寧につくられた状態のいい押し花から、その植物がどんな姿で野にあったのか、容易に見て取れる。ページをめくるだけで、自分が見たことのある草花を思い起こすことが出来、巻末の索引に書かれた植物名を見て、自分の知っている植物の近縁なのかな、と思いを馳せたりすることが出来る。
表紙を含め96葉の植物標本をカラー写真で紹介し、間に、堀江敏幸の「記憶の葉緑素」というエッセイが掲載されている。堀江敏幸がフランスの古物商でバスの待ち時間をつぶすための本を買いつつ、店主と話していて、店主自身が趣味とした植物採集の話をする。採取する植物を入れる胴乱(懐かしい響きだ!)を色々と見せてもらい、堀江が買ったジャン・ジャック・ルソーとモーリス・ルブランの本と植物学の不思議なつながりまで、店主に語られる。そんな昔話を、ポール・ヴァ―ゼンの植物標本を見て思い出した、というエッセイ。ポール・ヴァ―ゼンの植物標本は、飯村弦太さんという古物商の方が南仏の蚤の市で見つけて購入してきた箱入りの植物標本で、詳しい由来はわからないが、採取地情報から採取者のプロフィールなどを想像する。押し花の状態が大変よく、色もきれいに残っており、眺めていると植物への愛情すら感じる、素敵な標本である。それを眺めるだけで幸せな気持ちになる。

実物も見てみたいなぁ、と思ったら、なんとまさに今展覧会をやっているのだが、開催地が名古屋の本屋さんでした。残念...。

朝ドラの影響で、牧野富太郎関連の施設の紹介なども色々出ているし、植物学に親しみやすい年かもしれない。
野にある植物一つ一つにかけがえのない名前があることを思いつつ、外歩きをするのにいい季節でもあり、道の辺の花を眺めてゆっくり歩きたくなる、そんなきっかけとなる本だった。

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