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毎日読書メモ(148)林雄司×岸政彦「聞いたそのままが面白い」

岸政彦編『東京の生活史』(筑摩書房)を買って(買った日記)半月たった。友達がコメントくれて、毎晩一人分ずつ読んで、150日で読了予定、とのことだった。なるほど! 日によって、読めないこともあるが、わたしも寝る前に一人分ずつ読むことにした。

えいやっと買うのが先で、結局これなんの本なん?、ってあんまり理解していなかった。本もちょっとだけ「凡例」が書いてあって、その後はいきなり、聞き取りがだーっと並んでいるのだが、聞き手の名前のあいうえお順で並んでいる、というのが規則性のようで、話し手については、名前が書いていないものも多く、聞き取られた内容を平らかな気持ちで読む。話は飛ぶし、論理性もなく、読み手が語り手の前提を理解していないので、結構わかりにくいが、それぞれの人の息遣いを感じる。「東京の生活史」とは言うけれど、都外での生活の話も結構出てくる。

本屋さんで貰ってきた販促用のdigest bookを読み、本書のあとがきを読み、この本は、「聞き手」を公募し、その聞き手が自分で見つけてきた語り手に話を聞き(どう聞き、どう原稿にまとめるかは研修があった)、それを一人あたり1万字分の原稿にして、本にしたらしい。と簡単に言っちゃいけない、すごいエネルギーだ。キーワードは、「私たちは、どれくらい『積極的に受動的』になれるか?」である。聞き手は聞き出そうとしてはいけない(そこには誘導が発生するから)。たまたま話された偶然の中に、必然が見えてくる、というのが、岸さんが長年のフィールドワークでの聞き取り作業の中で掴んだノウハウらしい。

そして、桜庭一樹「キメラー『少女を埋める』のそれから」を読むために買ってきた「文學界」2021年11月号に、「対談 聞いたそのままが面白い いまなぜ生活史か」という対談が出ていた。社会学者・作家の岸政彦さんとデイリーポータルZ編集長の林雄司さん。林さんも、『東京の生活史』の中で聞き手をつとめている(でもお名前が「は」で始まるので、そこまで到達するのはかなり先になりそう)。この対談を読んだことで、『東京の生活史』が意図したことがより伝わってきた。

曰く、研修で言われたのは「積極的に受動的になれ」「語り手が嫌がることは全部削ってよい。削っても面白さは変わらない」「語り手の話が全然つじつまが合わなくてもいい」。とにかく、「作らない」ことが生活史の聞き取りの本分だと(それを、小説も書いている岸さんが言うところが面白い)。

作らない、まとめない、「ずばりあなたにとって東京とは何でしたか?」みたいなのは絶対に聞かないでと。尋ねたら、その瞬間にその場で考えた答えが出てくるだろうが、その場で人間が考えて答えはだいたい凡庸で陳腐だと...。ずっと聞き取りをしてきた人の言葉の重み。あとは、コロナの話は聞かないで、と。とにかく縛りを作らない。それがデイリーポータルZのインタビュー術ともつながるものがある、という流れも面白い。

細部に記憶違いがあったり、盛ったり、小さな嘘をついていたりしていても、大まかには正しい。作為と不作為の中間地点に面白さがある。対談の一字一句引用したくなるくらい興味深い。東京論ではない、東京の生活史。


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