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毎日読書メモ(142)『母親ウエスタン』(原田ひ香)

原田ひ香、この間『彼女の家計簿』読んで面白かったので、今度は『母親ウエスタン』(光文社、現在は光文社文庫)を読んでみた。すごく不思議な小説だった。全国を流れ流れて、母親の愛情に飢えている子どもを不思議な嗅覚で見つけ出し、その家庭に入りこんで、子どもたちをいつくしみ育てるが、その家庭が自分を必要としなくなったことに気づくやいなや出奔してしまう、謎の女広美。一つの章の中に、広美のエピソード(時系列がわからないように、時代を反映した風俗や小道具は全く描かれない)と、現在とおぼしき時制で、大学に通っているあおいとその彼氏祐理のエピソードが交互に語られる。

ミステリではないので、広美は何故さまよう養母となり続けたかを解き明かす訳ではないが、幾つものエピソードと、それに迫っていくあおいと祐理の歩みが、最後に、読者の前にだけ、ある種の真相を提示してくれる(作中人物たちは誰も全貌は摑ませてもらえない)。広美は何も言わない。「おそれいりましてございます」という謎のキーワード以外は。広美は物語の波間に消えていき、彼女がこの先どうなるかは誰にもわからない。

母親の愛情ってなんだろう、ということを考える。無償の愛の、ひとつの不思議な形を見せて貰った気分。

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