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毎日読書メモ(11)『幕張少年マサイ族』(椎名誠)

椎名誠『幕張少年マサイ族』(東京新聞)を読んだ。幕張という、わたしにとって土地勘のある場所を舞台とした、作者本人の思い出を書いたエッセイ。

「粗製濫造作家を自認するぼくはこれまでに二百八十冊ものいろんなガラクタ本を書いてきたけれどその時代の話を書くのはこれが初めてなのである」(p.3)とあり、確かに、千葉の幕張育ちであることは、それなりに知られていると思うのに、幕張の話を書いた本を読んだことはなかった。

というか、若い頃は浴びるように新刊が出ては買い、文庫になっては買い、毎年10冊以上も椎名誠を読んでいた時期もあったのに、最近とんと読んでいなかったな、と、書店で『幕張少年マサイ族』の表紙を見た時に思った。あらためて作者の生年を確認すると1944年。え、もう77歳になるの! いつの間に! 永遠の若者みたいなのに、と驚く。

椎名誠は幕張で生まれ育ったのではなく、東京で生まれ、短期間千葉の酒々井に住んだ後、小学校入学直前に幕張に移ってきたのだそうだ。1950年代に入ったところ。当時の海岸線は、現在の国道14号線沿いにあり、国道のちょっと内陸が海岸段丘でぐっと上がっているがわかる。それより海側は、平らで、つまりそこはすべて埋め立てられた土地なのだ。

家から歩いて行ける場所に海水浴の出来る砂浜があり、貝類がとれた。漁業権が設定されていて、本当は鑑札(貝掘り券)を買わないとアサリやシオフキなど掘ってはいけないのだが、地元の子どもたちは浜番の眼を盗んで掘り、見つかったら一気に逃げる。そうこなくちゃ、と読者は皆思うよ。

幕張とは、浜田川と花見川に挟まれた地域の名称で(今でもそうだ)、花見川の対岸の検見川の少年たちと敵対し、鉢合わせすると喧嘩をし、しかし非常時には力を合わせて難を逃れたりしている。

小学校から中学校にかけての思い出を、新聞連載の短いエッセイで、時間を行ったり戻ったりして語っていて、だから似た話の繰り返しになっている部分もあるが、自然を友に、力いっぱい遊んでいた、マサイ族のような悪ガキたちが自分たちの力でものごとを解決する力を身につけていったことがわかる。

そして、連載エッセイで、物語ではないが、巻末に近づくと、予想を絶する大冒険(冒険じゃないかも)が描かれ、時効だから笑って読んでられるけど、当時知っていたら、親も学校も肝を冷やしたであろうようなエピソードが語られる。はーっとため息(安堵と面白さ)をついて読み終えることになるとは思わなかった。

広大な埋め立て地が出来て、「きれいだけど生命の気配のまったくない海」になってしまった、現在の海岸線。

しかし、都市計画が進展するまでの間、出来上がっていた大草原には新たな生態系が形成され、埋め立て地の先にまた海の家が作られていた、というエピソードを読み、今の幕張新都心だけを知っているわたしには驚きだった。何年位まであったのだろう? 京葉線が

海の話だけでなく、食べ物とかお祭りとか、国鉄で千葉まで行って映画を見た話とか、少年シーナの思い出話は多岐にわたるが、海で、川で、遊んでいた少年時代の思い出が印象深く、この少年時代が椎名誠という人を作り上げたんだな、とこの本を読んで実感した。

京葉線がこの区間に通じたのが1986年、その後1988年に新木場まで、1990年に東京まで開通。わたしが知っている千葉は、京葉線で東京から行けるようになって、幕張メッセが開業してからの千葉だが、そこはかつては海の底だったんだよねぇ、と、この本を読んでいて改めて認識。海の底から、マサイ族の少年たちが走る草原となり、それが今はじゃかぁしい新都心。この本の中には色んな写真も挿入されていて、昔の千葉に思いをいたした。


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